生還したので安心したい
理音はなるべく早く歩いた。この街で「走る」など、何かヤバいことをしました、見てくださいと言っているようなもの。
だから理音はすばやく、振り返らず、それでいて最短のルートを進む。
小道から、すこし人通りの多い東西を走る通りへ。そして映画館と悪名高いトーヨコを見渡せる広い場へ。看板のある麻雀店を見越して、コンカフェやらマッサージやらの客引きをいなして、理音は歩いた。
新宿一番の大通りを渡り、理音新宿駅駅前の広場を見た。
看板に歌舞伎町方面と書いてあるのを確認し、理音は立ち止まる。
うん、大丈夫だ。何も問題ない。
少したって、同じく歌舞伎町へつながる横断歩道を渡って、彼女が近づいてくるのをみた。
遼子も同じく、首尾よく抜け出したらしい。
「……おまたせ。なんかデートみたい」
「俺たちそういう関係でしたっけ? それより、気づきました?」
「……うん」
遼子はうなずく。
下手なことは言わない。ただ遼子は帽子をなおす仕草を見せた。
ついで、トランシーバーでしゃべる仕草。
それに該当する集団が、例のビルがある小道に歩いていた。
要するに、そういうことだ。
「負けて腹いせ、とか。支払いできないからやけっぱちになって通報するとか、話には聞くけど本当にあるんですね。あーー……ちょっと焦った」
今頃、例の店がどうなっているかは知らない。逮捕か、連行か、はたまた警官が確認するだけにとどまるか。
いずれにせよ、面倒なことになるのには違いない。
「……にしては手馴れてるけど?」
「俺、マンガ読むの好きで。昔読んだ麻雀漫画に、そういうのあったんですよ。いざとなったら真似しようと思って」
理音は一度、深めに息を吐いた。
少なくとも、自分たちを追っているような警官は見えない。
交番があって宿直の人間がそこにいるが、別にこっちを気にするそぶりもない。
もう大丈夫だろう。
「むしろ遼子さんこそ、よく気づきましたね。俺、単に状況確認しただけなのに」
「……まあ、タバコなんてどこでも吸えるしね」
件の会社員が今何をしているのか、何故追い詰められているのにそういう店に来たのかはわからない。
ただ、すこし負けが重なって、怪しい挙動を見せた、それだけで判断するには十分だった。




