どうしてここに、と聞いてみたい
この空いた時間に、すこし整理をしよう、と理音は思った。恐る恐る、極力波風立たないよう。
「遼子さん、すごい今更ですが……なんでここに?」
「……?」
一方の遼子は、涼し気なようす。別に普通じゃん? とでも言わんばかりに、もらった水を飲みながら。
「……お金ほしいから」
そして彼女が返した答えは、至極一般的で、至極抽象的で、そして誰もが人間なら持っているような意識の表現だった。
「金欲しい……って、ふつうにバイトとかしないんですか」
バイトで稼げる程度のお金の問題ではないことは、なんとなくわかる理音だが。
そしてその疑問を下支えするかのように。その重みを、しかしあまり感じさせないとでも言いたいように。
「……学費、さ。けっこうかかるじゃん?」
理音は何も言えなくなった。
学費を自分で稼ぐ、と来た。
普通なら、そこまで気にするほどのことでもない学費。両親の口座から引き落とされているだろう学費。
高校生のそれを自分で払う、それがどういう意味か、まともな頭なら想像はつく。
でもだからといって、と理音は言いたくなる。頭の中の霧を払うかのように。
それで裏の店に……? もっとマシな方法あるんじゃ、と。
そうは言わないことにした理音だ。
何より、人のことは言えない。実家がフリーの麻雀店。それで親が稼いだ金で高校に行く。
何が違う?
だから、理音はあえてこういう。
「情打ちはしませんよ?」
手を抜くとか、わざと遼子の欲しそうな牌を出すことはしない。
その代わり、こうして打つことは否定ししない。それで十分だろう。ばくち打ちとはそういうものだ。
なんとなれば、どういう事情で賭博場に来ているのか聞かないことも、作法ではあるし。
「……あたりまえでしょ」
ひょうひょうとした遼子の言葉に、胸を撫でおろした理音であった。
「元気そうで安心しました。こと姉曰く、あんまり元気なさそうだったみたいで」
「……あの子、そんなこと言ってたの? ……てかさ、それより私も聞きたいことあるんだけど」
「なんでしょう?」
理音は椅子に座り直し、薄い紅茶を呷って言った。
それを受けて、遼子は身を乗り出す。
「……キミこそどうして」
「いやー悪いね、若いの二人! 待たせたね、打とうぜ」
もう一人の客が戻ってきた。重い金属製の扉を開き、すこし息の上がった様子であった。




