理音はよくわかっていない
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さもないとリアル麻雀を打つとき、店員に飲み物を頼んで気をそらしたタイミングでロン牌出されて見逃す呪いをかけます
はてどうしたものか、と思う理音。彼の視界に、ぴょこりと少女の姿。
部員の一人、遼子だった。
「あっ、杵田さんでしたっけ。これ、どういう状況で」
「……こっちきて」
うお、と思う暇もなく理音は体を引かれた。どきりとしたのは、手に柔らかく、温かい感触を感じたから。
遼子が、理音の手をつないで連れて行っているのだ。どこへ? 遼子のみ知る。
「……こっちはまずい、な。屋上の方に行こ?」
ハスキーで低い声が、理音の鼓膜をくすぐった。
屋上の方、とは人気のない陰の場所。鍵のかかったドアの前の、少し暗い空間。
少女と二人。
見ようによっては甘いシチュではあるが、そうもいってられないというのはさすがに頭で理解した理音だった。
少しドギマギする理音。遼子さんって体細いけどキレイなボディラインしてるな、じゃなくて。
メガネがよく似合うな、じゃなくて。
どうしよう、というかなんで自分はここに来たんだっけ。
めぐるめく思考の渦を止めたのは、遼子の言葉だった。
「……どこまで聞いた?」
どこまで、とは先ほどの会話のことか。
「いえ、何も。というか、誰か来てるんです? 言い争ってる風なのは聞こえましたけど」
誰かと紗耶香がもめているようだ、ということ以外は何もわかっていない。
理音の返事を聞いて、遼子はなだらかな胸をなでおろした。
「……ならよかった。あっ……そうか、キミはもう一人を知らないんだね」
「誰ですか? 入部希望……とかじゃないですよね」
だとしたら、あーだこーだとキツくなる意味がない。
「……あれは中崎佳、って言ってね。ウチのクラブ連合代表」
「あー……」
なんとなく察しを付けた理音だった。
人見高校は、都内でも屈指の自由な校風で知られる。
特に生徒の自治的裁量がかなり幅広く、クラブ(と呼ばれる部活・同好会の総称)の運営や文化祭の管理を、ほぼ生徒が自身の手で行っている。
そしてクラブ連合の代表といえば、人見高校のクラブ活動を統括する位置。
つまり、いろいろと口を出せる身分。
場合によっては、廃部を言い渡す権限も、ということ。