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ルリハとナミホ 2  作者: カワラヒワ
3/13

コトネ

昨日と同じに今日も晴天だった。

 バイクの男は今朝もナミホを迎えに来た。

 男とナミホが連れ立って去ってしまっても、ぼくは寂しくなかった。

 リンゴジュースの事ばかりかんがえていた。

 ナミホは今日も飲むんだな。冷たくて甘くて、夢みたいにおいしいジュース。それがうらやましくて仕方がなかった。


 ぼくだって飲みたい。

 ぼくもあそこであいつに頼んで、ジュースをもらおうか。あいつだって、結構いい人でぼくにジュースをごちそうしてくれるかもしれない。いや、絶対に、頼んだらくれる。だけど・・・。

 やっぱりだめだ。あいつに頼んでジュースをもらうなんて。ぼくにだってプライドがある。

 ぼくは頭をぶるんと振ると、鳥に変身して空に舞い上がった。

 

「ルリハ」

 水飲み場で、ぼくが水を飲んでいるとコトネがやってきた。

 コトネはぼくと同じ青い小鳥だ。

「おはよう」

 ぼくは言った。

「おはよう」

 コトネが言って、ぼくと同じように水をのむ。


 ぼくは毎朝横で眠るコトネを起こさないように、寝床から抜け出す。

 ぼくには一人(一羽)で自由になる時間が、必要なんだ。

「今日は行かないの?」

 コトネが顔を上げて言った。水がコトネのくちばしを濡らして光っている。


「うん」

 ぼくも顔を上げながら言った。コトネはぼくが毎朝ナミホの後を追って、向こうの島へ行くのを知っている。

 コトネを寂しがらすのは、かわいそうだと思うけれど、仕方がない。ナミホのことが気になるから。


 ああ、でも・・・。

 この水が冷たくて、甘くて、夢みたいにおいしいジュースだったよかったのに。そしたらぼくは何て幸せだっただろう。とぼくは小さなため息をつく。

「どうしたの?」

 コトネがぼくを心配して言う。

「ううん、別に」

 ぼくはうつむいて言った。


「コトネはリンゴジュースを飲んだことがある?」

 ぼくはきいた。

「リンゴジュース? それ何?」

「リンゴを絞った汁だよ。すごくおいしいんだ」

「へ~、リンゴなら食べたことがあるわ。すごくおいしかった」

「リンゴジュースはね、すごく甘いんだ。夢みたいにおいしいんだよ」


 ぼくは初めてリンゴジュースを飲んだ時のことを思い出していた。

 おばさんの家で人間の姿になって、目覚めた時、飲ませてもらった初めてのリンゴジュースの味を。

 あまりのおいしさに衝撃をうけたこと。


 そうだ! どうして気づかなかったのだろう。おばさんの家に行けばいいんだ。おばさんにジュースをもらえばいいんだ。

 ぼくはいい思い付きにわくわくした。


「ねえ、コトネ、君もリンゴジュースをのみたくない?」

 ぼくは急いで言った。

「ええ、まあ、飲んでみたいけど」

 コトネはぼくの勢いに押されたみたいに、少し後ずさって言った。

「じゃあ、今すぐ行こう」

 ぼくはいうなり空へ羽ばたいた。



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