コジローとツバメ①
もうダメかと思ったその刹那、翼竜の片翼が消え、制御の効かない降下でティアラの横に体を落とした。
チャリン。
鈴の音のような響きがしたかと思えば、15~16歳の少女か少年か見分けのつかないスラリとした人物がカンムリの横に立っていた。
「どちらも守るというのは大変ですね」
カンムリの後ろにはナマコのようなものが縦に真っ二つに割られていた。
「誰……?」
「お初にお目にかかります、私はコジロー、そしてあちらはツバメ」
はるか遠くに何かがいる。
「彼女は恥ずかしがり屋なので、あちらで待機しております」
カンムリとティアラはよくわからなかったが、お辞儀をした。
「さて、話は早い方が良いですね」
「話?」
「聞きます。あなたたちはどこへ?」
「どこって、そりゃあ……」
「どのぐらい歩いていますか?」
「何時間か……」
「そう、そこが問題なのです。あなた達だけはそうなのです、いや、ここだけが……ですかね」
カンムリとティアラはまばたきの回数が少し増えた。構わずコジローは続ける。
「あなたたちの目的地は?」
「……あっち」
「そちらには何が?」
「……町?」
「そうでしょうか、こんな変な花畑、何時間も続くような事がありますか?」
「えーと……」
2人はまばたきをひたすらまばたいた。
「パラレルワールド、というのをご存知ですか」
「あぁ、それね知ってるわ、パラネルワード」
「ご存知ありませんよね、説明いたします」
コジローは小石をカンムリに投げた。
ゆるく弧を描き、膝に当たった。
「いて」
コジローは、もう1つ小石をつまんだ。
「投げますよ」
「やだよ……」
「これが、パラレルワールドです」
遠くでツバメが呟いた。
「説明ヘタクソ……」
音もなくティアラの横に小柄な女性が現れた。
「ツバメ……です」
ティアラが訊ねた。
「同年代?」
コジローがニヤリとした瞬間、眉間に小石が「刺さって」いた。
カンムリとティアラは正座をした。
ツバメが棒で地面にカリカリと何かを描き始めた。
「パラレルワールド……」
地面にかかれたのはトーナメント表のような謎の絵。
カンムリとティアラはじっと見つめた。
「ナニコレ……」
「パラレルワールド……」
コジローは思った。
「説明にすら……」
ティアラがコジローを見る。まだこちらの方がマシだ。
「コジローさん、パラレルワールド、について教えてください、コジローさん、ねぇコジローさん、教えてください」
ツバメはシュッと消えた。
「パラレルワールドとは、並行する世界です」
「私は先ほど…カンムリさん…あなたに石を投げました」
コジローは額の小石を取って捨てた。
「は、はい」
また、別の小石を取る。
「石を投げます」
「はい」
カンムリの膝に小石は当たった。
「痛いですか?」
「いや、別に……」
「じゃあ、気持ちをリセットして、また、投げる前だとしましょう。私は、石をツバメ程の速さで投げますよ、良いですか?」
「イヤです」
「じゃあやめます、つまり、石は投げられもしなかった。これは、可能性です。石をもっと強く投げたかもしれない、カンムリさんが避けたかもしれない、もっと言えば翼竜に喰われていたかもしれない」
ティアラが何となくわかった。
「えーと、つまり、人生いろいろってことね!」
「その通りです、暗黒世界をご存知ですか?」
「たくさんの星が広がるあれね!」
「そうです、そして、恐らく正解に近い考えがあります」
「あれは膨らみ続けています。なぜでしょうね、例えるならコップに水を入れます、量が多すぎて溢れました。さて、どのようにしたら良いか、コップを大きくすれば良いのです。瞬間瞬間に、無尽蔵にパラレルワールドはできています、呼吸、間のとり方、全てがなにかに影響します。それを受け止めるために暗黒世界は広がり続けていると考えています。もちろん、人間ひとりひとりに暗黒世界は存在し、生き物の数だけ存在します、死ねば消えますが」
2人は空を見た。そして思った。
「わかんねぇ」
「ざっくり言うとこれです」
ツバメが描いた謎のものを指さした。
「常に同じ人物が違う道を歩く……という表現でしょうね」
「石が当たったカンムリさんと、当たってないカンムリさん、2人はひとりであるのに、全く別の道を進むことになります」
ツバメがまた現れた。
「そこが大問題……」
ティアラが理解してくれた。
「わかったわかった、つまり選択肢ね、自分でなにかしても、誰かに何かをされても」
コジローはうなづく。
「そして、そこが大問題……あなたたちにとって、ですけどね」