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9 もう一人のパーティ仲間


 いきなりなんのつもりだ?

 受付嬢のオトコになれと?


「悪いが、十八歳のガキは勘弁」

「さすがは魔族のオトコ。身持ちが固いのね。ますます気に入ったわ」


 はあ? ガキには興味ないって言ってるんだ。身持ちが固いとかの話じゃないだろ。だいたい、最近、オンナについてイヤな思いをしたばかりなんだ。もちろんそれは、ベッサーリリィに誤解されて嫌われたことだ。いま誰かと付き合う気分には絶対になれない。


 だが一つ、興味を惹かれたことがあった。


「魔族というルーシャのお袋さんは、いま何歳でどこの生まれなんだ」

「あたしの母は百四歳で、魔界のルンガイ地方の生まれよ」

「ふうん。オレより二百歳以上も若いのか」


 それと、出生はルンガイ地方……。聞いたことのある地名だ。

 でも、そんな魔族のオンナがどうして人間の男と? 謎すぎる。


 ルーシャが(しな)を作るような仕草で、身を寄せてきた。


「魔族のオトコが人間界に来てくれて嬉しいの! ねえ、知ってるでしょ? 人間のオンナはすぐに老けてしまうわ。その点、魔族の血が流れているオンナは、千年以上も若いままの姿でいられるのよ。ほら、あたしってお得じゃない?」


「いいや、遠慮する。他を当たってくれ」

「冷たいのね。いいわ、きょうのところは引いてあげる」


 そう言いつつも、ルーシャは両手でオレに絡みつき、頬をペロリと一舐めした。そのあとやっと帰ってくれた。やれやれだ。


 しかし危なかった。正直、ルーシャは十八のガキとはいえ、オンナとして少々魅力的だった。不覚にも心が僅かばかり揺らぎそうになった。



 だけどオレは知っている――。


 オンナが大人しいのは、付き合う前までだ。いったん付き合うと豹変する。オトコへの暴力は日常茶飯事。少しでも気に入らないことがあると、強烈な鬼法をぶっ放してくる。オトコはいっさいの落ち度がなくても、八つ当たりの受け口に活用される。どうせ人間社会も、似たようなものだろう。


 ちなみに魔族のオンナは、自分よりも格上の鬼法の使い手とは付き合わない。なぜなら理不尽な暴行をオトコに与えた場合、抵抗ないし反撃されてしまうからだ。


 オンナは優秀な子供を産むためにも、優秀なオトコを求める傾向がある。幸か不幸か、鬼法の才能は遺伝しないと言われている。だからオンナが自分より格下の鬼法の使い手を選ぶのは、まったく自然なことなのだ。


 オレはさらに知っている――。


 一般に魔族のオンナは誘惑に弱い。オトコを平気で二股がけする。五股六股がけだって別に驚きはしない。けれども十七股がけという最低オンナの話を聞いたときには、さすがに耳を疑ったこともあったっけ。


 とにかく、オトコは付き合っている相手に逆らえない。そのためか、平然と浮気するオンナは結構いる。どうせ人間社会も、似たようなものだろう。


 逆に魔族のオトコが浮気することは、極めて少ない。殺される覚悟が必要だからだ。その点、ジャックジャーは勇敢だった。


 余談だが、もし付き合っているときに子供ができてしまうと大変だ。婚姻関係を結ばなくてはならない。そして生涯、配偶者たるオンナにコキ使われ、家畜として身を捧げなくてはならない。どうせ人間社会も、似たようなものだろう。


 そうそう。既婚オトコの最多死亡原因……それは『妻による鬼法を用いた暴力』がダントツだというではないか。まったく恐ろしい話だ。


 それでも何故、オトコがオンナを受け入れるのか。理由は性欲に他ならない。ああ、そうそう。昆虫のカマキリもそんな感じだっけ。自分が食い殺されるかもしれないのに、メスに近づいていってしまうのだ。




 翌朝――。


 リムネとミーンミアと待ち合わせをしていた。本来のパーティ仲間を、オレに紹介したいそうだ。


 三人でパーティを組み続けて、もう一年半になるのだという。ただ前回は、その人物に急用ができてしまったため、仕方なく代理でノッチーロと組むことになったらしい。さて、彼の名前はヘスナートというようだが、どんなヤツだろう?


 やっと来てくれた。


「やあ。キミがロフェイだね。話は聞いてるよ」

「アンタがヘスナートか。よろしくな」


 ふと、きのう屋台で見た白い菓子を思いだす。あれはコットンキャンディといっただろうか。ヘスナートはそんな体格の男だ。


 俊敏性はなさそうだが、パワーならばありそうだ。ノッチーロより一つ格上のD級剣術士だとか。ふっくらした顔立ちは人が良さそうな感じに見える。それでも彼は人間だ。同行者として油断してはならないだろう。



 実はこの面子で、『狭間の森』へと日帰りで行ってくる予定になっていた。決してガチな冒険ではなく、ちょっとした親睦会のようなつもりだった。



 何度訪れても不気味な森。

 さっそくオレたちの前に魔物が現れた。


 モンキータイガーだという。D級のモンスターらしい。


「ここはオレ一人にやらせてくれないか?」


 実は試したいことがあった。


 皆、快く承知してくれた。


 試したいこととは『拡大魔法』の使用だ。きのう神殿でその『魔法の種』を入手したのだが、なんと今朝、それを習得できてしまった。しかも幸運なことに、初回の一発で成功したのだ。いまモンスター相手に実践する。


 まずは手頃な小石を拾った。


 手の先に魔法陣が浮かびあがらせる。モンキータイガーに向けて、その小石を投げつけた。手から離れると同時に『拡大魔法』発動――。


 ヒバリ程度の大きさだった小石が、ハトほどの大きさになって飛んでいった。


 ちなみにその石より大きければ、『拡大魔法』は発動しなかったはずだ。いま投げたのが『拡大魔法』に有効なギリギリの大きさだった。今朝いろいろ試したあとの結論だ。


 石はモンキータイガーに見事命中。


 しかしそれだけだった。石が当たったくらいでは、D級モンスターのダメージにはならないようだ。つまり戦闘において、『拡大魔法』は使いものにならないことが判明した。


 多少のショックはあったが、まあ、予想はしていたさ。

 結局、ミニファイヤで倒した。オレのミニファイヤは特大なのだ。


 いまのを見たヘスナートが、目を丸くしている。


「ミニファイヤの話が本当だったとは……。まるでメガファイヤのようだった! あんなの見たのは初めてだよ」


 それ以降もモンスターに遭遇し、リムネもミーンミアもヘスナートも活躍した。たくさんの魔石を集めることができた。ここまでとても順調だった。


 しかし……。


 遠くの方が騒がしい。何やら叫び声のようなものが聞こえた。もしかして別の冒険者たちが、いま危機を迎えているのでは? オレたちは様子を見にいくことにした。



 ドッカーン ズッドーン ブッボーン



 この音は……。戦闘の真っ最中のようだ。敵はどんなモンスターだ? 先へと進んでいく。


 一人の若者が樹木の陰で倒れていた。他には誰もいなかった。その若者は武装しているので、冒険者に間違いなさそうだ。いち早く彼に駆け寄ったのはミーンミアだった。


「しっかりしてください」


 その冒険者は目を開けた。ヘスナートが水を渡すと一気に飲みきった。一呼吸おいてオレたちに告げる。


「キミたちはすぐ逃げた方がいい」

「いいえ、あたしたちは加勢にきたの」


 と、今度はリムネ。

 しかしその冒険者は弱々しく首を振った。


「無理に決まってる。敵は凄まじい能力を持った化け物なんだ。小規模なパーティじゃ歯が立つまい」


「やってみなければ、わからないでしょ」


「いいか。俺たちは、A級剣術士やA級魔導師が集まった七人ものパーティだったんだ。キミたちにそれ以上の実力があるのか」


 皆、その話を聞き、固まってしまった。


 オレたちはD級、E級、F級の集まりだ。しかし彼らはA級が七人。それでも勝てないのというのだ。本当にヤバそうだ。もしこの四人で戦ったら、全滅はほぼ確定だろう。


 ならば逃げるのが正しい選択に違いない。


 しかし彼らを見捨てるというのは……。

 皆、やはり困惑しているようすだ。


「あっ」


 声をあげるA級冒険者。まっすぐ上空を指差した。そこに何かが飛んでいる。


「俺たちはアレに襲われたんだ」


 上空の化け物はオレたちに気づいたらしい。

 マズいぞ。こっちに向かっておりてくる。


 そいつをじっと見据えた。

 あれは……まさか?



 あああああああああああっ!



 逆光によるシルエットながら確信した。

 化け物なんかじゃない。オレと同じ魔族だ。


 その顔も次第にはっきりと見えてきた。

 たちまちオレは震えあがった。なぜなら……。




 その魔族、昔の元カノだったからだ。





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