10 懐かしい思い出
上空からおりてくるのは魔族。オレは彼女のことをよく知っている。名前はケイティモッカ。齢二百九十六。元カノだ。
仮にオレがまた鬼法を使えるようになったとしても、ケイティモッカに勝てるわけがない。だいたい、オレがケイティモッカより強かったら、彼女とは付き合えなかったのだ。オンナは自分よりも弱いオトコを選ぶものだからな。
オレは大声をあげる。
「皆、逃げるんだぁーーーーーー」
だがその前に、ケイティモッカの攻撃が始まった。凄まじい威力の鬼法を打ってくる。もはや逃げることは困難。ここは『オレだ、見逃してくれ』と、元カノに頼むべきか?
いいや、無駄だ。オレだと認識されたとしても、『ツノのない魔族など生かす価値もない』というセリフの後で殺されるだけだ。あるいはオモチャとして弄ばれた挙げ句、残酷な殺され方で終わりとなるか。
ケイティモッカ……。それでも懐かしい思い出がたくさんある。
よく気が利く優しいオンナの子だった。もちろん付き合うまでは。
恋仲になってからは、よく怒られてたっけ。
短気だったからなぁ。
彼女から「来い」という魔信号が届いたら、それが何よりも優先。すぐに駆けつけなくてはならなかった。少しでも遅ければ、殴る蹴るや鬼法などの仕打ちが待っていた。たとえ睡眠中であろうとも、気がつかなかったなんてことがあったら、やはり半殺しにされて当然。デートがつまらなくても半殺し。キスのときも、ツノとツノが擦れただけで半殺し。首を傾ける角度には、慎重にならなくてはならなかった。
それでも幸せだった。彼女が魅力的なオンナだったからだ。彼女に尽くすことに
喜びを感じていた。どんな理不尽な報いを受けようとも、笑って我慢できた。
だが寝取られた。親友ジャックジャーに。彼女はオレを捨て、ジャックジャーのカノジョとなった。『ロフェイのオンナを奪ってやったぜ』などと、オレのいる前でよく自慢してたっけ。
ところが皮肉なことに、絶望の真っ只中だったオレの顔色は、不思議と日々改善していった。逆に、彼女のオトコとなったジャックジャーに、死相が見られるようになった。
そんな思い出がある。
いまケイティモッカが正面にいる。目が合った。しかし彼女はオレに気づいていない。ツノを失ったオレの容貌が、少し変わったからだろう。やはりちょっぴり寂しい。
ケイティモッカ、いまどうして時代遅れの人間狩りなんかを?
とにかく殺されるわけにはいかない。勝てっこないのは重々承知だ。それでもダメ元で、ミニファイヤをぶっ放した。
きのうのミニファイヤより遙かに大きなものだった。オレにとってこれまでで最大だった。それでもケイティモッカは、手の甲で軽々と受け流した。ダメージなど微塵も感じられない。
もう諦めるしかないのか……。
いいや、考えろ。何かあるはずだ。
走った。とにかく逃げた。
しかし大樹の根っこに躓いた。
おっとっとっと。
ドテっ。転んでしまった。
あっ、これだ!
オレは見つけてしまった。
かつて愛した元カノの弱点……。
地面のそれを指で摘まみあげる。オレの手から魔法陣が浮き出てきた。ケイティモッカにそれを投げつける。それが指から離れると同時に、オレの拡大魔法が発動した。
発動のタイミングは絶妙だった。発動が早すぎれば、遠くまで投げられない。遅すぎれば、対象物が遠くなるため魔法が届かない。
人間の身長の半分くらいの長さになって飛んでいく。
弱点とはムカデのことだ。
魔法で大きくなったムカデ。
昆虫の域を超えたのだ。
あれっ?
ムカデって昆虫じゃなかったかも。
まあ、いい。
大きくなったムカデが彼女の体に。
「きゃああああああああああああああああ」
オレはきちんと覚えていた。忘れるものか。彼女は大の虫嫌いだった。かつて虫のせいで、どれだけ彼女から鬼法を喰らったことか。虫が彼女の視界に入る度、オレは八つ当たりの受け口となった。それも懐かしい思い出だ。
ケイティモッカは空の彼方へと飛んでいった。
オレは仲間から視線を受けた。
それらの視線に込められたものはさまざまだった。
疑問、感謝、驚愕……。
「まさか!! ロフェイが追い払ったの?」
「もう全滅かと諦めていましたが……。ありがとうございます!」
「ロフェイ、キミには驚いたよ」
首を横に振った。
「いやいや、違うんだ。オレの実力じゃない」
彼女が元カノでであり、たまたま弱点を知っていただけ――。
なんて、そんなことは話せない。
「ほら、虫が嫌いな人な女の子って多いじゃないか。たまたまムカデがいたんで、
拡大魔法を使って投げてみただけなんだ。その結果が大当たりだっただけさ」
無理矢理だけど誤魔化してみた。
「一か八かでやってみたの? 諦めなかったことが良かったのね」
「予想がドンピシャだったなんて、やはりロフェイはスゴい人です」
「ロフェイは、ピンチを切り抜ける勝負師の才能があるのかもな」
いや。褒めすぎだって。
A級の冒険者も驚愕していた。
そして感謝された。
ところで彼のパーティ仲間はどうなったのだろう。全員で七人という話だったけど。オレたちは探すのを手伝った。しかし見つけ出すことはできなかった。結局、彼以外の六人はそのまま行方不明扱いとなった。
宿に戻り、森で起きた出来事を思い返した。
胸が熱くなった。久々に見たケイティモッカは美しかった。
初めて彼女とデートしたときのこと。初めて彼女とキスしたときのこと。初めて彼女と魔泉に映る月を眺めたときのこと。どれも鮮明に覚えている。彼女と過ごした一時一時が、オレには大切な懐かしい思い出だ。
この先、もう誰かと付き合うことなんてないかもな。
だって、魔界を追放されたのだ。ツノを失ったのだ。
オレが最後に付き合ったのは……。おっと、そういえば、最後はベッサーリリィと付き合えそうになっていたんだっけ。いやいや、『付き合えそう』のレベルには全然達していなかった。
彼女の人気は高かったなぁ。
ベッサーリリィは穏やかな人柄だと噂されていた。もしかすると付き合ってからも、暴力なんてなかったかもしれない。
ああ、ベッサーリリィかぁ。
いま頃、何をしているのだろう。
ここまでお読みくださり、ありがとうございます!!
【評価】と【ブックマーク】で応援をお願いいたします。
下の ☆☆☆☆☆ を ★★★★★ に変えてくださると、
最高にうれしいです。




