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49 ディーフィーの住まい


「な……なんだここは!! 城じゃないか」

「そうだよ、コーリシャス城だ。ここに住んでるんだ」


 何故ディーフィーが城に住んでいる? 店の人は彼を兵士だと言っていたが、単なる兵士ではなかったのか。


 ディーフィーの話によると、彼は軍兵ではなく親兵なのだという。だから城内に住んでいるのだとか。


 だったら、いまこんなところにいていいのか? しかし彼は問題ないと主張している。親兵というのは、取って付けた肩書きに過ぎないらしい。その辺、オレはよく理解できなかった。


 案内されたところは来賓室。大袈裟すぎるくらい金ピカな部屋だった。


「明日の朝までここでゆっくりしていくがいい。夜と朝の食事は用意するから、心配しないでくれ。だが……夕食後、俺は失礼する。大事な打ち合わせがあるんだ。悪いけど朝までここには帰ってこない」


 ディーフィーはそう言い、オレの背中をポンと叩いた。いかにも意味ありげな仕草だった。ルルロコがニコリと微笑む。


「お気遣いはご不要かと存じます。生憎、こちらのお客様にはその気がございませんようでして」


「本当かい、ロフェイ? ルルロコ嬢に興味がない? てっきり彼女のことが気になってるとばかり思い込んでたけど……」


「獣人族のルルロコ嬢のことが気になっていたのは事実だ。けれど少し……いや、かなり意味合いが違うんだ」


 オレはこれまでのことを二人に話すことにした。

 しかし話の初っぱなは『嘘』からだった。


 嘘――。もちろん魔界から来たなんて言えないからだ。遠い片田舎からやってきて、ある冒険者たちと『狭間の森』で出会ったことにした。




 ある女冒険者には獣人冒険者の奴隷がいた。しかし奴隷として扱っていない。奴隷なんて思っていないだろう。オレの目から二人は親友や義姉妹にしか見えないのだ。


 あるとき狭間の森で魔族に襲われ、パーティ仲間はバラバラに逃げた。たまたまオレといっしょになったのが獣人冒険者だった。どうにか狭間の森を抜け、町に到着した。しかしオレは驚愕すべき事実を知ることになった。


 それはヒト族の獣人族に対する偏見の酷さだ。それでオレは彼女と恋仲だと、その場の連中の前で偽った。彼女のことを大切な友人だと思うようになったのは、たぶんこの頃からだと思う。


 魔法については早いペースで習得していった。オレは金貨十枚を稼ぐため、町のギルドの新人戦に出ることになった。




 そしてさらに手違いで出場した大会、すなわち熟練者戦で優勝した話をすると、ディーフィーもルルロコの目を丸くした。


「おい、嘘だろ。短期間で魔法を覚え、すぐに熟練者戦で優勝だと?」

「お客様……猛スピードで町の代表者になられたのですね!」


「本当の話だ。だからこうしてこの領都にやってきた。途中、スピードボートから振り落とされなければ、もっと早く到着できていたはずだ。いま、先に到着したはずの友人を探してるところだ」



 ミーンミアのことが心配でならない。たぶんこの町でも人々は獣人に偏見を持っていることだろう。とても辛い目に遭ってはいるのではなかろうか。彼女を早く見つけ出したい……。



 そのあとの話もすることにした。だが流刑囚の集落については黙っておいた。


 さて。オレが吸血魔人らを鉄格子から逃がしたことを、告げるべきかどうか結構迷った。しかし白状することにした。



 ディーフィーが頭を抱える。


「ロフェイ、それ重罪だぞ!」

「やはりマズかったか。だけどな……」



 吸血魔人族らの弁解をそのまま伝えた。彼らにも言い分があるのだ。赤髪のヤツ以外なら余程のことがない限り、ヒト族を襲ってこないだろうとも伝えた。


 しかし滅茶苦茶怒られた。

 話すんじゃなかった。



 夕食にはまだ早い時間だった。だから美しい城内の中庭を少し散歩させてもらった。三人で歩く。そこは香り高い花園だった。きっとディーフィーは、目の不自由なルルロコにも楽しんでもらおうと思ったのだろう。


「兄様っ」


 声をかけられたのは、当然オレであるはずもなく、ルルロコであるはずもない。てか、ディーフィー。お前は兄弟で城に住まわせてもらっているのか。


 だがどうしたことだろう。ルルロコは弟の声を聞くなり、ひれ伏したのだ。


「お顔をあげてください。兄様の客人なのでしょ?」

「で、ですが……」

「さあ、いいから」


 恐る恐る顔をあげたルルロコに尋ねてみる。


「いきなりどうしたんだ」


「ご存じないのでしょうか。あのお方は国土の五分の一を占めるコーリシャス領の領主様です」


 てことは、ウルスロの町も統治してるってことか?


「じゃあ、ディーフィーは何者なんだよ? そんな偉い人の兄ってことは、親兵とか嘘だったのか」


 それに答えたのは弟の領主だった。


「僕の名は、ティルハルム=シシーリョ=コーリシャス。兄の正式な名は、既に聞いているかもしれないけど、ディーフィロガム=ゾルベッヘ=コーリシャス。父方の苗字は同じコーリシャスで、母方の苗字は別々なんだ」


 つまり異母兄弟ということだった。


 ディーフィーは妾の子であり、領主を継ぐことができなかったため、親兵副隊長という肩書きをもらったらしい。ただし親兵としての仕事はほとんどしてないそうだ。それでも剣の腕は親兵中、ベスト3なのだとか。


「おっと、立ち話をしている暇はなかった。山ゴリラが兄様を探してた。緊急連絡があるらしい」


 たぶん山ゴリラとはあだ名なのだろう。

 散歩は中断。オレとルルロコは来賓室に戻った。



 広々としたキラキラ部屋で、白狐の獣人ルルロコと二人きり。

 まだ親しい間柄ではないので、話題に困った。



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