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43 大都市マハ・コーリシャス


 いまだにギルドに辿りつけない。場所をきちんと知っている人に会えないのだ。人々の『あっちだ』『あっちの方にあった』『あっちで見た』という嘘の言葉に、もう何度騙されたことだろうか。広々とした大都市を歩き回された。


 屋台のドリンク屋で小休憩。


 酷い目にあった話をすると、屋台のオヤジは大笑いした。人々の『あっちだ』という言葉は、決して意地悪やイヤガラセではないらしい。道などを尋ねてきた相手に『知らない』と答えるのは、冷たく突き放しているような気がするというのだ。だから皆、心温かく『あっちだ』と推測で教えてくれるそうだ。それが思いやりのあるマハ・コーリシャス市民の気質だとか。


 そうか。そうだったのか。

 市民の皆さんの温かい気持ちで……。


 違うだろ! そんな温かさは迷惑だ。知らないなら『知らない』と言ってくれ。おかげで、オレ歩きっぱなしだぞ。体力と時間の無駄遣いだ。


 喉の渇きを癒やしたのち、また歩く。

 ああ、領都は広すぎる。



「待ちなされ、若者よ」


 ギョロ目のオヤジに声をかけられた。

 オレ、この人間よりもずっと年上だと思うが。


「いま何か困っていることがある。そうだろ? 若者よ」


 いかにも。行きたい場所に辿りつけない。友人に会えない。それを話すと、ギョロ目のオヤジは笑顔でうなずいた。


「そうだろうとも。だが若者よ。そこに行くことも、その友人に会うことも、一生かなわぬだろう」


「いや、いくらなんでも一生なんて」


 ギョロ目のオヤジは首を横に振った。


「それが定めだ。ワシには見えるのだ。若者の運命の操り糸が。どう足掻(あが)いても達成は不可能。それでも行きたいか? 会いたいか?」


 そりゃ行きたいし、会いたい。てか、行かなくちゃならないし、会わなくちゃならないのだ。


「もちろんそうしたい」

「ならばついてきなさい」


 なんだかよくわからないまま、ギョロ目のオヤジを追う。


 建物の中に入っていった。大きな台が並んでいる。その上にはたくさんの小石が置かれていた。これらは宝石? いいや、魔石だ。


「ときに若者よ。魔法を使えたらいいのに、と思ったことはないか?」


 使えるけど?


「ああ、実はオレ……」


「いやいや、言わずともいい。そうだろう。誰もが憧れるものだ。ときに若者よ。魔法の使用は神に選ばれし者の特権だ、などと思ってはいないか?」


 そんなふうに考えたことはない。リムネ、ミーンミア、ヘスナート……身近な友人たちが普通に使ってる。だから大半の人々が使えるような気がしていたが……。もしかしてごく一握りの者しか使えなかったのか?


「あの……」


「いやいや、言わずともいい。そう思ってしまうのも当然だ。しかし実のところ、魔法使用の可能性をあげることは難しくないのだ」


 そんなことより、話が変わってないか? オレがギョロ目のオヤジについてきたのは、ギルドの場所やミーンミアの居場所を知りたいからだ。


「オレ……」


「いやいや、言わずともいい。わかってるとも。そんな馬鹿な話があるのか、と若者は疑問を感じておるのだろう。だが可能なのだ。では、どうすればいい? 知りたいか。うむ、よろしい。ワシが教えてやろう。その秘密はここにある魔石に他ならない! 他店の魔石なんかとは質がまったく違う。ここの魔石のどれもが、かの有名なグラムバデル最高神官長の手により、魔法の種となったもの――すなわち、たいへん貴重なものばかりだ」


 駄目だ、このギョロ目オヤジ。話を聞き続けたって、ギルドの場所やミーンミアの居場所なんてわからないままだ。建物から出ようと踵を返す。


「待て待て。魔法に興味ないのは理解した。だが若者よ、ここにある魔石は、単に魔法を習得するためにあるものではない。運命に抗うためのものでもある。先程も言ったはずだ、運命の糸についてを。さあ、糸を断ち切るのだ! この魔石とともに!」


「はあ」と溜息を吐いた。


「初心者の若者にとってのオススメは、こっちの魔石だろう。臭煙魔法が習得できる魔法の種だ。非常に高確率で習得できるとされている。しかもこの店のものならば、なおさらだ。しかし若者よ。習得しやすい魔法は効き目がない、なんて思っているのではないか? ハハハ、心配ない。実はこの臭煙魔法、ドラゴンですら逃げていくのだ。そのため多くの冒険者から非常に重宝されておる」


 初耳だが。


 オヤジのギョロ目がきらりと輝く。


「こんなお得な魔法の種が、いまならなんと金貨たった二十八枚!!」

「持ってるわきゃねえぇー」

「本来なら金貨四十枚もするのだぞ? 金貨十二枚分もお得じゃないか」

「オレは探している場所と友人の情報が知りたいんだ」

「そんな話はあとでいい」


 いいわけあるかっ!


 オレは建物を出た。

 しかしギョロ目がついてくる。


「よしっ、こうしよう。若者には見込みがある。只者ではなかろうから特別だ。さらに値を引いて金貨二十五枚としよう。これ以上はマケられないぞ。ラストプライスだ!」


 なんの見込みだよ。値引きと関係あるのかっ。


「…………」


 無視した。


「わかった、わかった。ワシは降参する。金貨二十枚」

「ぷっ」


 思わず笑ってしまった。ラストプライスはどこに行ったんだよ。これ以上はマケられないんじゃなかったのか。


「ハハハ。ジョークをわかってくれたか。若者みたいなイイヤツからカネを取ること自体が間違っている。もちろん只同然で譲ってやるつもりだ。金貨十二枚」


「…………」


「長く話しているうちにワシと若者は親友となった。ならばこうするしかない。なんと金貨十枚! 周囲には内緒のフレンドプライスだ」


 ギョロ目オヤジはまだついてくる。


 魔法の種の描かれた看板があった。魔法陣も描かれている。ここも魔石屋か。魔石が欲しいわけではなかったが、ギョロ目オヤジを払いのける意味で建物に入っていった。


 それでもギョロ目オヤジは去ろうとしない。オレの耳元で言う。


「プロの目から見ればすぐにわかることだが、どれも質の悪い魔石ばかりだ」


 オレはここの店のおばちゃんに尋ねた。


「臭煙魔法の魔法の種って売ってるか。いくらになるだろうか」


「それならば銅貨三枚……。あ、でもずっと売れ残ってるから二枚でいいわ」


「銅貨二枚? 臭煙魔法ってドラゴンも逃げていくんだろ。安すぎないか」


「確かにドラゴンが本気で怒っていない限りは、ただちに去っていくだろうね。匂いが体につくとなかなか取れないから」


 ギョロ目オヤジの話、まったくの嘘ではなかったのか。

 おばちゃんが言葉を付け加える。


「だけどね、その魔法……。一番の被害者は、放った本人だから気をつけな。その臭いを最も多く浴びることになるからね。ほとんどの場合、放った本人はすぐに気絶してしまうのさ」


 使えないじゃん。それをギョロ目オヤジは金貨四十枚?

 横目を送ってみると、彼は耳元でぼそり。


「質だ。質が悪いせいだ。ワシの店にある魔石は特別。質が高ければ問題ない。ここのは安かろう悪かろうで、カネを失うだけだ」


 そのときだった――。


 店に客が入ってきた。武装した男だ。こっちに歩いてくる。

 ああ、思いだした。彼の顔と装備を。


「やあ、キミが店に入っていくのを見かけたのでね。俺も来てしまったよ」

「アンタはカーバンクルに襲われてた人か。ケガの具合はどうだ」

「特別な回復薬を飲んだから問題ない。あのときは助かった」


 不快な顔になるギョロ目オヤジ。


 武装した男はディーフィーと名乗った。

 もちろんオレも名乗ることにした。


 ディーフィーが店内を見回す。


「ロフェイ、今度はどんな魔法を手に入れるつもりだい」

「なぬ? 魔法はすでに使えていたのか! だったら先に言ってくれ」


 ギョロ目オヤジを無視して、ディーフィーに答える。


「別に魔石を買うつもりはなかったが……。でも折角だから買おうかな」

「ならばワシの店で!!」


 店のおばちゃんに尋ねる。


「ファイヤ系とウインド系以外でオススメはある? できれば比較的安価で……。そうそう、水中の敵にも有効な攻撃魔法を習得したいんだが」


「あるぞ。ワシの店に行けばマジックレーザーの魔法の種がある。光系だ」


 ピンときた。たぶんオレの新魔法のことだろう。勝手にレーザーランスと仮名で呼んでいたが、正式名はマジックレーザーだったのか。


「石爆弾系なんかどうでしょう。その中で最も安いのはストーンボムですね」


 値段を尋ねた。ギョロ目オヤジに吹っかけられていたおかげで、とても安価に感じた。だから躊躇なく買った。「裏庭で魔法を試してみては?」とおばちゃんに言われたので、その言葉に甘えることにした。


 ディーフィーも同行。何故かギョロ目オヤジまでついてきた。


 裏庭には石製の大きな盾がたくさん置いてあった。特別な石でできた盾らしい。それぞれが耐ファイヤ、耐ウインド、耐ウォーター、耐爆発……など、別々の性質があるそうだ。


 魔法の習得というものは、通常、何度も試みた末にやっと成功するものらしい。だから成功するまでここで挑戦させてくれるのだという。とはいっても、さすがに丸一日、ここに居続けるのは勘弁だとか。


 オレは一発で成功する自身があった。何故なら、これまで一度も失敗したことがないからだ。


 魔法の種をぎゅっと握りしめ、その手を巨石の盾に向かって伸ばした。



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