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41 カーバンクルと魔人


 ようやく領都のマハ・コーリシャスが見えてきた。


 ずいぶん遅れてしまったものだ。本来ならば、四日前に着いていなければならなかった。ミーンミアはちゃんと辿りつけただろうか。そこのギルドの締め切りに間に合っただろうか。それより何より無事でいてくれ。



 グオオオオオオ



 なんだ? なんかの咆哮が聞こえたぞ? この音量からすると、ケモノではなくモンスターだな。どんなヤツだろう。


 いた! 四つ足のモンスター発見。


 トラよりも一回り大きく、姿は……。かなり強引に言えば、ジャコウネコとカワウソを足して二で割ったような感じか。


 武装した人間がそのモンスターに襲われていた。剣で必死に戦っているが、負傷しているようだ。あれではじきに殺されるだろう。助けてやるとするか。


 モンスターに片手を向けた。



 ミニファイヤ!

 ミニファイヤ!

 ミニファイヤ!



 おっ、これって?


 連発してミニファイヤを打ってみたが、以前よりも炎が遙かに大きかった。明らかにオレの魔法は成長している。そのせいか、魔法が楽しい。先日、新魔法『レーザーランス』(ただし仮名)を覚えたばかりだが、他の魔法ももっとたくさん覚えたくなってきた。


 そしてまだ連発こそできないが、現在のオレの最強魔法を放つ。



 ファイヤ!!!



 モンスターはバタリと地面に倒れた。我ながら、なんと凄まじい威力だろう。いままでで最高のファイヤだった。もしこれ以上成長したら、とんでもないことになりそうだ。


 武装した人間に近寄ってみる。

 顔は血まみれ。鎧は変形していた。


「大丈夫か」


 返事はない。彼はただ茫然とオレの顔を眺めている。

 どうしたのだろう。ケガが酷くて声も出ないか。


 しかし声はちゃんと出るようだ。


「いまのは……いったいなんだ? 目が覚めるようなメガファイヤを続けて三発も放ったかと思ったら、トドメにはさらに強烈なメガファイヤを見せてくれた。まったく現実のものとは思えなかった。もしや幻のフレアか。いいや、あれにはフレアですら敵わないだろう」


 しかしフレアやメガファイヤではない。格下のミニファイヤとファイヤだ。

 まあ、最後のファイヤについては、オレ自身もビックリだったが。


 彼はゆっくり立ちあがり、頭をさげた。


「心より感謝する。それにしても、あのカーバンクルを一人で一瞬のうちに倒してしまうなんて。かなり若そうに見えるけど、さては相当な熟練冒険者だね」


 あのモンスターはカーバンクルっていうのか。とても美しい毛並みだった。頭部には宝石のようなものがあり、眩しいほどに輝いていた。実に神々しい姿だった。


「熟練冒険者なんてとんでもない。オレはまだ新人だ」

「ご謙遜を」


 事実なんだが。


「そんなことより、酷いケガだが一人で帰れるか?」

「なーに。これくらい、問題ない」


 ならば安心した。


 ところが……。


 倒れていたカーバンクルがむっくりと起きあがった。

 なんとタフな。まだ生きていたとは。


 オレは手を向け、魔法陣を作った。

 またファイヤを喰らわせてやる!


 しかしカーバンクルの戦意はすでに喪失していたようだ。

 こっちに尾を向けたかと思うと、逃げだしてしまった。


「あっちは領都だ! 人々が襲われる……」

「そんじゃオレが止めてやらなけりゃな」


 負傷者の彼を残し、ウインドで飛びあがった。



 カーバンクルを追って領都に入る。といっても町の中心からはまだ遠いようだ。建物はいくつかあるものの、この辺りに通行人はいなかった。


 カーバンクルを高い塀まで追い詰めることができた。しかしカーバンクルは高くジャンプ。高い塀を跳び越えてしまった。あんな大ジャンプができたとは。


 オレも塀の向こうに着地。


 そのすぐ奥は崖山だった。この場は塀と崖とで囲まれていたのだ。崖の斜面には横穴が掘られている。まるでデジルたちの集落にあった家々のようだ。しかし家とは程遠いものだった。


 この鉄格子……。ここは監獄のようなところか。


 カーバンクルの体力は、もうほとんど残っていないようだ。拙い歩き方で鉄格子に向かっていく。


「ピミート」


 鉄格子の奥からの声だった。カーバンクルはその人物を目で確認すると、その場で倒れ込み、二度と動かなくなった。


 もしかして鉄格子の中の人物は、カーバンクルの飼い主だったのか。


 オレも鉄格子に寄っていった。そこに閉じ込められているのは、一人だけではなかった。奥は暗くてよく見えないが、五~六人はいるだろう。


「お前がピミートを殺したんだな」


 乱暴な口調だった。

 オレは首肯した。


「殺して当然だろ。人を襲ってたんだ」

「ヒト族の野郎!!!」


 オレに対し、『人間』ではなく『ヒト族』という言葉を使用した。日常会話ではあまり使わないものだと思っていた。でもまあ、オレはヒト族ではない。


 ただ……コイツもヒト族じゃないのか?


「まるで自分がヒト族じゃないような言い方だな」


 すると奥から一人の少女が、鉄格子のところまで出てきた。リムネより少し幼い感じの見た目だ。彼女がニタリと笑う。


「うん。あたいたち、ヒト族じゃないから。ほらね」


 彼女はカギ型に曲げた人差し指を自分の口に入れ、斜め横に引っ張って見せた。


「牙か?」

「そう、魔人族。もっと言うと吸血魔人(ヴァンパイヤ)だよ」


 魔人族は単に魔人と呼ばれることもあり、主なものでは三種族が存在する。


 一つ目は彼らのような吸血魔人(ヴァンパイヤ)。日常会話では、吸血族や吸血人などと呼ばれることもある。

 二つ目は地底魔人(ドワーフ)。地底族とか地底人などとも呼ばれる。

 三つ目は巨人族とも呼ばれる巨魔人(ギガンテ)だ。


 普通、『人間』と言えばヒト族を指すが、魔人族がそれに含まれることもある。またあまり一般的ではないが、広義にはオレのような魔族、獣人族、妖精族も人間とされる場合もある。


 ちなみに姿がヒト族に似ていても、人間とは呼ばれない種族がある。妖怪、死霊、アンデッドなどだ。


 鉄格子の向こうから別の男の声。


「おい、モアモア。ヒト族なんか相手にすんじゃねえ」


 モアモアと呼ばれた少女は、肩をクイッとすくませ、ふたたび奥へと戻っていった。


 さらにまた別の男が言う。


「悪いが、さっさと立ち去ってくれないか。ここは俺たち吸血魔人が収容されている牢獄だ。正直、ヒト族の顔は見たくない」


「ヒト族は嫌われたものだな」


「当たり前だ! なんの恨みがあるのか知らないが、俺たちを魔人と言うだけで、

こんなところにブチ込みやがったんだからな。俺たちは処刑される日が来るのを、

ただ恐れながら待っているしかないんだ。いいから、とっとと立ち去りやがれっ」


 こっちに唾を吐きかけてきた。


 ふと、ミーンミアの顔が脳裏に浮かんだ。


 彼女も単に獣人族というだけで、ヒト族から酷い扱いを受けている。あまりにも理不尽だ。


 ミーンミア……。


 気がつくと、鉄格子をエアーブレイドで切断していた。


 吸血魔人がぞろぞろと外へと出てきた。

 そのうちの一人が強い口調で言う。


「なんのつもりだ!」


 赤髪で目つきの悪い若い男だ。

 しかし彼の前に腕を出す者もいた。


「ここでは礼を言うべきだ」


 そしてオレに向いた。


「感謝する」


 皆、いっせいに頭をさげた。ただし若い赤髪男を除いては。

 若い赤髪男の顔はいかにも不満そうだ。


 オレの正面に歩いてきた。

 首筋をガブリ。


 は?


「何をするっ」


 赤髪男を突き放した。彼はへらへら笑っている。

 今度は少女がやってきた。モアモアとか呼ばれていたと思う。


 彼女もオレの首筋にガブリ。


 赤髪男のときは吸われている感覚がなかった。

 しかし今回は強くしっかりと吸われている。


 ところが……。


 オレの首筋から唇を離したモアモアは、口に含んだものを吐きだすのだった。


「臭っ! 不味い。何これ」


 そのまま屈み、唾を吐いた。


「ペッ、ペッ。信じられない~~」


 オレの血、臭くて不味いのか?



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