40 ミーンミアSIDE(その5)
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あらためて目の前の彼女に問う。
「あのう、あなたは誰ですか」
「言ったじゃない。ロフェイだけど?」
「そ、そうでした」
彼女に一礼し、歩き始めた。
「待って。どこ行くの」
「マハ・コーリシャスです」
「ついてっていい?」
「構いませんが……。どうしてですか?」
彼女の話によれば、特に理由はないそうだ。あたしを助けに飛んできたくれたワケは、大声が聞こえたので面白そうだったからとのこと。
彼女はあてもない旅人だと言った。気ままな一人旅。羨ましく聞こえた。遠い外国から来たせいか、領都マハ・コーリシャスのことは知らないらしい。
マハ・コーリシャスに行かなければならない理由を、彼女に話した。急いでいることも伝えると、彼女は大きくうなずいた。
「マハ・コーリシャスってどこら辺にあるの?」
「わたしにもわかりません。ただ、ここから最も近くにある大きな町のはずです」
「そう? だったら知ってるわ。上空を飛んでたとき、大きな町が見えたから。だけど徒歩だと……。きょう中に着くのって、まず無理じゃないかしらね」
無理? そんな……。
ロフェイ、ヘスナート、ごめんなさい。わたしに託してくれたのに。町のギルドの皆さんにも謝らなくてはならない。それからわたしの所有者リムネの顔に、泥を塗ることになってしまう。
大きく溜息を吐いた。
突然、彼女が背中から抱きついてきた。えっ!? わたしはさらに驚愕する。あわわわわ……。体が浮いていく。彼女に抱えられて飛びあがったのだ。な、なんなの?
町に到着――。
あっと言う間だった。彼女が飛行魔法で連れてきてくれたのだ。わたしの心臓はまだドキドキ鳴っている。
それにしても、なんて大都会! 念のため町の住人にも確認してみたところ、ここはマハ・コーリシャスで間違いなかった。ギルドの場所を尋ねながら、大きな町を歩き回った。
苦労の末、ギルドに辿りついたのは、日没のギリギリ手前だった。
建物の中は、目をギラつかせた冒険者たちでいっぱいだった。誰もが殺気を放っていた。穏やかな笑顔の者などいない。それは受付嬢についても同じだった。
無愛想な受付嬢に一礼。
「ウルスロという町のギルドから来た者です」
「地方ギルドの代表ってことでしたら、ギルドカードを」
受付嬢はカードを受けとると、せっせと台帳記入し始めた。
わたしはカードを返してもらい、書類にサインする。
「エキシビションで対戦してもらうことはご存じでしょうけど、早速あした出場してもらいます」
「それが、その……実際の代表者と言いましょうか、町の大会で優勝した者の到着が、少々遅れておりまして……」
「ならば代人を立ててもらわないと困ります。あなたの名前で登録しましたので、あなたの指名した者がウルスロ代表の出場者となります。代人の指名は当日の朝までです。どこの誰でも構いません。まあ、出場辞退だけは避けた方が賢明でしょうね。今後のために」
いまさら代人なんて無理。ならばわたしが出るしかない。でもわたしなんかが、ウルスロ町のギルドの名を背負って対戦? 相手は熟練者戦の上位者レベルに違いない。あるいはそれ以上かもしれない。町のギルドの皆に恥を掻かせることになってしまう。わたしの体だって、大ケガだけでは済まないかもしれない。
逃げだしたい気持ちだった。
あしたが来るのが怖かった。
意外にもここのギルドは、立派な宿を無料で提供してくれた。地方ギルドの代表者は、ゲスト扱いしてもらえるようだ。ただし同行者の人数にかかわらず、割り当てられるのは一室のみだと言う。ロフェイと名乗る彼女を、同行者として泊めることになった。
翌朝、競技場へとやってきた。
わたしの対戦は午後だ。
「あら、震えてるの?」
ロフェイと名乗る彼女が小首をかしげる。
「わたし弱いから。ぜんぜん実力なくて」
「代わってやろっか?」
えっ。
「でも……」
「受付嬢が言ってたでしょ? あなたの指名した人なら誰でも出場できるって」
そっか。別にウルスロの人じゃなくてもいいんだ。だいたい、あの熟練者戦には他の町からきた冒険者も出場していたわけだし。
ううん、駄目よ! 甘えていいわけがない。
「相手は本当に町を代表するような実力者です。出場はとても危険です。ご迷惑をかけるわけにはいきません」
ロフェイと名乗る彼女はクスクスと笑った。
「少しも迷惑なんかじゃないわ。本当よ」
「それじゃ……。いいのですか」
「ええ、全然いいわ。喜んで!!」
「よろしくお願いします」
彼女が代人となった。
エキシビションマッチの対戦相手は、ブロロガ町の代表者だった。背丈はやや低めだが、ガッチリした体つきの男。しかも普通の人間ではない。魔人だ。魔人が町の代表者だったのだ。
もっと詳しく言えば地底魔人だ。狭義の『人間』と言えばヒト族のみを指すけれど、やや広義の『人間』には魔人族も含まれる。さらにもっと広義には、わたしのような獣人族も『人間』とされることがある。
対戦者の地底魔人がロフェイと名乗る彼女を一瞥。
「つまらん。相手が女だとは」
ずいぶんと不満そうだ。
いよいよ午後となった。
これから始まるのは本日の第三試合。わたしたちウルスロ代表の出番だ。
そのときがやってきた。
審判が試合開始を告げる……と同時に勝負は決まった。
大爆発が起きたのだ。彼女が勝利した。
ほとんど何も見えなかった。魔法陣すらも。
速すぎるし、早すぎる。何が起きたのだろう。
観衆も審判団も場内スタッフも茫然としている。
対戦相手の体は残っていなかった。
それほど凄まじい魔法だったのだ。
彼女、やりすぎ……だわ……。
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