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29 ミーンミアSIDE(その2)


ඔබට ස්තුතියි  ミーンミア視点つづき ඔබට ස්තුතියි




 翌日の朝食後――。


 読書中のリムネのところに、ハーブ茶を持っていった。彼女ならば喜んでくれるかもしれないと思った。


「まさか、このハーブ茶って……」


 リムネが驚いている。


「苦手なのだと聞きました」

「ええと。ロフェイはハーブが苦手だったってこと?」

「はい。ですので優勝のお祝いにはなりません」


 リムネがハーブ茶に口をつける。


「まあ、そうなの? 残念だわ。こんなに香りがいいのに」



 午後、一人で街へと買い物に出かけた。


 香ばしい匂いが漂ってきた。思わず立ち止まる。そこはハーブ屋の前だった。ロフェイの顔が脳裏をよぎった。


 グッと歯を食いしばり、すぐに歩きだす。頭を切り替えないと。ロフェイのことは仕方がないのだ。



 小石が飛んできた。


 痛いっ。


 わたしに当たった。


「獣人がいるぞぉー」

「ああ、気持ち悪い」

「ケモノくせー」


 このくらいの悪口ならば、もう慣れっこだ。心のダメージにはならない。それより、いい歳こいた大人がこんな幼稚な悪口言うなんて、逆に恥ずかしくないだろうか。


 心にダメージを与える言葉は、別のところから飛んできた。


「見て! あの獣人、きのう人間の男に連れられて歩いてた子よ」

「ヤーねえ。そういうのって性家畜とか妾獣人とか言うんでしょ」

「平気な顔でよく街を歩けるわね」

「まったくよ。小さな子供の教育によくないわ」


 性的な悪口や陰口にはまだ耐性がない。

 その場から走って逃げた。


 どうして買い物するだけで、そんなことを言われなくちゃならないのだろう。


 足を止めた。あっ、ここって……。溜息をついた。無意識のうちに、ロフェイのアパートの近くにきていたのだ。なんで来ちゃったのだろう。馬鹿だな。わたしって。


 ロフェイのアパートに向かう人影が見えた。

 あの人は……。えっ、嘘でしょ。


 受付嬢のルーシャだった。

 どういうこと? どうしてそこに?


 まさか。


 彼女はアパートの中に入っていった。

 あそこはロフェイの住まいだ。

 仲が良いのは知っていたけど……。


 不思議と目から涙が溢れ出した。


 わたしはふたたび走り、いま来た道を戻っていく。

 足を滑らせて転んだ。雨が降ってきた。ついてない。



 ふたたび街まで戻ってきた。雨が激しくなった。でも傘はない。路地に並ぶ建物の軒下に入った。なかなか降りやまない。困ったな。


 もうどのくらい経っただろうか。立ちっぱなしで疲れてきた。だからどこかの店に入って、雨宿りすることにした。


 近くのティーハウスに入る。店は屋根付きテラスになっていた。オシャレで可愛らしい感じのインテリア。いかにも女の子ウケしそうな店だ。


「あそこに獣人が座ってるわ」

「なんでケモノがこの店にいるのかしら」

「せっかくこの町まで旅行に来たのに、ケモノが多いからうんざりだわ」

「ここの席とても臭いわ。もっとあっちに移りましょっ」


 またそんなヒソヒソ声を聞かなければならなかった。

 向こうのテーブルに移った客たちが店員を呼ぶ。


「ねえ、店員さん。どうして獣人を入れるの? 店から出して」

「申しわけございませんが、それはできません……」

「何よ、この店。あたしたちが住んでる町なら、獣人お断りが普通なのに」


 他のテーブルからも声が聞こえてきた。三人組だった。


「見て、あの獣人。きのう男を連れて歩いてたのよ」

「うわあぁ。その男って、ヨボヨボの年寄り? それとも超不細工な?」

「結構若かったかしら? 顔はちゃんと見なかったなぁ」


 雨がやむまでの我慢だ。


 三人組の横目がこっちをチラチラ見続けている。


「きゃきゃっ。飼い主の男って余程の淫欲魔なのかしら」

「そりゃそうでしょ。メス獣人を飼う男なんて百%それ」

「夜伽奴隷、性家畜、妾獣人……。気持ち悪ぅーい」

「あっ、お茶こぼしちゃった。獣人がいたから不幸にあったのかしら」

「店から早く出てってほしいわね」


 ハンカチでテーブルを拭き、それを投げてきた。

 わたしの顔にべちゃり。


 どうして……。どうして……。どうして……。

 どうしてこんなことをされなくちゃならないの?


「ひどい……」


 思わず声に出てしまった。


「あら、あの獣人、何か言ってるわ」


 わたしは俯きながらも声にする。


「どうして……獣人がここにいちゃ駄目なの」


 三人組側から返答がきた。


「決まってるじゃない。アンタたちがスケベ男の慰み者だからよ」


「どうして……獣人の女の子が皆、慰み者ってことになるの?」


「馬鹿馬鹿しい。答える気にもなれないわ」


「どうして……どうして……獣人が……獣人が……」



 ひっく ひっく ひっく ひっく 



 必死で堪えていたのに……。涙が溢れてきた。

 止めようと思っても止まらない。


「その獣人の飼い主、あたしも見たかったわ。どんなツラだったのかしら」

「本当ね。恥ずかしげもなく、性玩具を家の外にまで持ち出して歩くって」

「少なくとも、普通の神経の持ち主じゃないわね」


 許せない。許せない。わたしのことだけならまだしも、ロフェイのことまで侮辱するなんて……。


「いい加減にしてくださいっ。あの人はそんな破廉恥じゃありません!」


 三人組は相変わらずニヤニヤしていた。


「あらあら、ご主人様を庇ってるわ。忠実なケモノね。ご主人様から、余程満足させてもらってるのね。ブヒブヒと悶え鳴きながら」


 三人組のもう一人も言う。


「そうそう。性玩具を飼育するなんて、どうせロクでもない男よ。頭の中は卑猥なことでいっぱいの、誰からも相手にされないモテない男。まず絶対にイケメンじゃないわね。想像しただけで吐き気がする」


 わたしは立ちあがった。


「何よ、その目つき。人間のわたしたちに文句でもあるの?」

「もちろんあります」

「生意気ねっ!!」


 ハンドバッグから取りだした化粧小瓶を投げられた。

 とても痛かった。その場にうずくまった。


 他の客たちは笑っているだけ。若い店員も見て気づかぬフリ。


 いつも庇ってくれるリムネは、いまここにいない。

 というか、リムネがいるときは、こんな言われ方はしない。

 いま、わたし一人が孤立した厄介な客。



 新たな客が店に入ってきた。

 歩道から店のテラスにあがってくる。


「んっ、珍しい。男が一人でこの店に」

「こういうところって、男一人だと入りにくんじゃ?」

「でも可愛い顔。結構イケメン♡」


 そんな客たちの声に、三人組の視線もそっちへと移っていった。

 いま入ってきた客は、こっちへとまっすぐ近づいてくる。


「そこにいるのって、ミーンミアだよな?」


 どうしてロフェイがここに?


「大通りに人だかりができてたから、なんだろうと思ったんだ。んで、チラッと店を見てみたら、ミーンミアっぽい姿があってさ。まさかと思ったぜ」


 間近でロフェイの姿を見て、不思議な安堵感に包まれた。

 同時に、わたしから出ている涙の質が変わったような気がした。

 とてもとても甘い感じのする涙。胸の奥が心地良く震えるような感覚。


 ハッとした。


 いまの気持ち……。ロフェイに甘えようとしている。

 だけど、そのなのは駄目。迷惑をかけられない。 

 わたしといっしょにいたら、彼までも悪く思われてしまう。


 俯いて、顔を隠した。首を振る。


「人違いです……」


 声色を変えたつもりだった。


「なんの冗談だ? ミーンミア」


 だから駄目なの。わたしに近づいちゃ。

 俯いた顔をロフェイがのぞく。


「泣いてるのか?」


 そう言って周囲を見回す。


「おい、どういうことだ。なんでいま彼女が泣いてる? ここの誰かが泣かしたのかっ!」


 店内の客たちはロフェイの迫力に静まり返った。

 沈黙を破ったのは、三人組のテーブルだった。


「あんたがメス奴隷の知り合い?」

「何っ? メス奴隷だと?」

「そこにいるケモノのことじゃない」


 ロフェイの目が据わる。


「クソがっ。オレにとっちゃ、人間の女も獣人の女も、たいして変わんねぇーよ。むしろてめぇーらの存在がある分、人間の方が下等にも思えてくるってもんだ」


 なんとなくだけど、あるいはほんの僅かだけど、まるで自分が人間じゃないような言い方に聞こえなくもなかった。


 三人組の目つきも鋭くなる。わたしを指差して大声で言い返すのだった。


「いやらしい欲望を満たすためにケモノを飼うようなあんたの方こそ、明らかに下等で低俗じゃない」


「飼うってなんのことだ?」

「その獣人、破廉恥目的の家畜なんでしょ」

「ふざけんな! 家畜じゃない。大切な人だ!」

「じゃあ、どんな関係よ。まさか付き合ってるなんて言……」


 言い終わらないうちにロフェイが遮った。


「真面目に真剣に付き合ってる。オレのカノジョだ!!!」


 あのときと同じだ。例のメガファイヤ男の前では、そういう設定になった。ここでもそんな嘘をついてくれた。ロフェイまでが蔑まされてしまうというのに。


 彼の嘘はとても嬉しかった。




ඔබට ස්තුතියි  ミーンミア視点つづく ඔබට ස්තුතියි




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