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25 光石の魔法


 魔法陣は浮き出たものの、何かが変化したようすはなかった。


 遙か下方にいる対戦相手も無事のようだ。少なくともオレの魔法で攻撃されたような感じはない。そもそも光石から得られる魔法に、攻撃的なものはほとんどないんだったな。


 ならば、いまの魔法で何が起きた?

 この新しい魔法……いったいなんなのだ。

 さっぱりわからない。発動した魔法の結果を知りたい。


 オレの攻撃力が高まったのか? それとも防御力? 持久力? 俊敏性? あるいは、そういった能力の上昇とはまったくの別の魔法が発動したのか。ぜんぜん使えない魔法だったらイヤだな。


 対戦相手ティタルのもとへと下降していく。


「戻ってきたか、新人くん。逃げだしたかと思ったぞ」

「オレを追ってこなかったてことは、高所が苦手だったか?」

「うるさいっ、無駄な体力を使いたくなかっただけだ!」


 ムキになるところを見ると、本当に高所が苦手なのかもしれない。ベテランのくせに。


 ふたたびティタルから魔法の弾幕。オレは必死に逃げた。魔法弾の一つ一つがヤバそうなものだった。


 しかし逃げ回るだけでは埒が明かない。だったらもう一度、新しい魔法を試してみようか。もしかしてさっきは対戦相手が遠すぎたのかもしれない。近くで発動すれば……。


 ティタルの魔導弾幕を交わしつつ、気長にタイミングを待つ。

 待つんだ、待つんだ、待つんだ。急ぐ必要はない。


 そしてようやくそのときが来た――。

 いまだ! 手の先に魔法陣を作る。



 そりゃあああ!



 ん…………?

 やはり何も変わらなかった。


 何故だ。発動に失敗したのか。

 それとも何かの能力が上昇したのか。


 役立たずの魔法だったってことかもしれないな。

 ああ、もう!!!



 しかし――。



 ティタルは向きを変えた。こっちに伸ばしていた手が、横へと逸れていく。彼はそのまま魔導を放ち続けている。


 おいおい、どこを狙ってんだ? オレはこっちだぞ。


 ティタルの放つ魔導弾は、まったく別の方へと飛んでいく。まさか遊んでいるのか? いいや、そんな感じではなさそうだ。彼の顔は必死だ。それにもう一つ不可解なことがあった。


 どういうわけか、観衆もなんら違和感を抱いていないようだ。誰一人としてこっちを見ている者はいなかった。


 まさか、これが新しい魔法なのか?


 そっとティタルの背後に飛行していく。ついに手の届く位置まで来てしまった。しかしまったくオレに気づいていないようだ。


 やはりそうか。よくわからんが、きっとこれがオレの新魔法なんだ。

 てことで、エアーブレイドをふたたび手にした。


 するとその瞬間――。


「いないっ。消えたぞ!」


 そう言ったのはティタルだ。何が消えたのかは不明。

 だいたい彼はさっき何を見ていたのだ?


 観衆もいっしょに騒いでいる。


「新人の姿が消えた!!」

「ど、どういうことだ」

「新人がいなくなったぞ」


 なるほど。わかったかもしれない。

 オレ以外は皆、きっと幻覚を見ていたんだ。


 そして幻覚が消えたのは、エアーブレイドを出したから。

 オレには三つの魔法を、同時に扱うことができなかったわけだ。


 ならば命拾いしたことになる。ウインドが消えないでくれて助かった。もしそうなっていたら落下して、敗北していたかもしれない。


 では何故ウインドが消えず、新しい魔法が消えた? 単に発動した順番ならば、先に消えるのはウインドの方なのだが。


「ん? 背後に気配……」


 ティタルがそう言いながら振り向くと同時に、オレはエアーブレイドを大きく振りきった。空中剣術を使うまでもなかった。


「うわっ」


 ティタルが落下。

 動かなくなった。


 ドバーッと、観衆の声が響いてきた。

 口々に勝手なことを言っている。


「あのティタルが負けたのか……」

「新人が勝っちまったぞ??」

「おいおい。新人すげぇーぞ」

「なんてことだ。いったいどうして!」

「急に消えて、急に現れたよな」

「あの新人……。俺は初めからタダ者じゃないと思ってたけどな」

「嘘つけっ」


 審判がオレの名を勝者として告げる。


 どうやら本当にオレが勝ってしまったらしい。

 しかも熟練者戦トーナメントでの優勝だ。


 金貨二十枚が手に入る。金貨十枚を支払える。

 まるで夢でも見ているようだ。


 競技会場は拍手で埋め尽くされた。

 優勝者のオレは表彰された。



 いったん控え室に戻った。

 ヘスナートが飛びついてくる。


「優勝おめでとう!!」


 すると背後からはリムネも。


「きゃっ、きゃっ、ロフェイーーーー」


 オレの体が前後から二人に挟まれる。さすがにミーンミアはそんな騒ぎ方などしなかったが、とても嬉しそうな笑顔を見せてくれていた。


「無理しないでくださいと言ったはずですのに」


 おでこをぐりぐりと押しつけてきた。


 さて、この三人に新魔法のことを尋ねてみた。オレがティタルの横方向へ回り込んだとき、拙い飛行が劇的にうまくなったそうだ。オレが突然アクロバット飛行を始めたのだとか。


 それは新魔法による幻覚だ。

 皆に詳細を説明した。


「えっ、対戦中に光石を魔法の種に変えるなんて……。しかもまた一発で習得に成功? ロフェイは化け物かよ。しかもたぶん激レアな魔法だぞ」


 目を丸くするヘスナートの隣で、リムネが首をかしげる。


「そうよねえ。幻覚を見せる魔法……。聞いたことないわ。もうその魔法の名前、ロフェイがつけちゃえば?」


「いやいや、そんな簡単にオレが決めちゃっていいのか? 実は誰かが先に習得してて、名前もすでにあるんじゃないのか」


「名前なんて仮でいいのよ。もし本当の名前があったら、それを知ったときに改めればいいんだし」


 そっか。


 新魔法の名前を『囮影』と名づけた。



 控え室のドアが開いた。

 入ってきたのはルーシャだった。


「おめでとう、ロフェイ。ご苦労様」

「おっ、もしかして賞金持ってきてくれたとか?」

「賞金はあとよ。それより時間がないわ?」


 なんの時間がないのだ?

 オレはぽかんとした。

 ルーシャが手を引く。


「どこへ連れていく気だ」

「決まってるじゃない。これから新人戦よ」


 え!? 新人戦……。

 熟練者戦に間違って登録されたから、なくなったんじゃないのか?




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