22 ホバリング
審判から合図があった。準決勝の開始だ。
対戦者ヴォルケが地を蹴り、そのまま飛行する。そして早くも攻撃を仕掛けてきた。手の先に魔法陣が浮かびあがる。
「喰らえ、メガファイヤ!!!」
熟練者戦だけあって、メガファイヤ程度ならば普通に出せるのか。一方、オレは少し遅れての離陸。足裏からウインドを放って上昇する。まだほとんど加速していないオレを、ヴォルケのメガファイヤが襲ってくる。
咄嗟にミニファイヤを飛ばし、ヤツのメガファイヤを防いだ。
しらけムードだった観衆が、少しザワザワしてきた。
「いまの見たかよ。ヴォルケの攻撃を、新人が防いだぞ!!」
「しかもあれ……メガファイヤをミニファイヤで防いだんだよな?」
「どういうことだ。信じられねえ。あの新人、何者なんだ……」
ヴォルケの顔が真っ赤になった。瞳孔が開いている。
「ぬおおおおおおおおおおおおおおお!」
大声をあげながら、何発もメガファイヤを放ってきた。
しかしオレは悉くミニファイヤで打ち消してやった。
ヴォルケの顔はますます真っ赤に。
初戦同様、周囲の山々よりも高くまで上昇することにした。ウインドによる空中移動がまだ安定していないためだ。
ここでヴォルケは奇妙な動作を始めた。左手の指を三本曲げ、いったん開いて二本曲げる。
なんのつもりだ? オレは首をかしげた。
そのとき――。
突如として両手両足が動かなくなった。いまオレは何かに繋がれてる? だが手足を繋いでいるものなどない。どういうことだ。
この最悪な状況のときに、ヴォルケが魔法陣を生成する。今度はどんな魔法攻撃を仕掛けてくるつもりだろう。マズいぞ。
オレは足裏に全魔力を注ぎ込んだ。力任せに上昇する。
それぇーーーーーーー!
するとどこからか、数人の声が聞こえた。
「なっ、何? 上昇を止められない!!」
「なんという馬鹿力……いや、馬鹿魔力?」
「俺たちが引っ張りあげられていきそうだ」
「んぐぅー、駄目だ、限界……」
もちろんそれらはオレの声ではない。
右腕の動きが解放された。続いて左足、さらには左手も。違和感があるのは右足のみだ。オレは構わず上昇を続けた。
また声がする。
「ま、待て。どこまで上昇するつもりだ」
オレの右足に『鎖』のようなものが垂れている見えた。
ついさっきまでは何も見えなかったはずだ。さらには『鎖』にぶらさがっている人間の姿も見えた。誰だ? 少なくともヴォルケではない。ついさっきまでは見えなかった人物だ。
なるほど。右足の違和感の正体はコイツだったわけだな。
ダノンが言ってたっけ。ヴォルケは卑怯な手を使ってくるとか。
「てめぇ、何者だ。どうやってずっと姿を隠してたんだ」
「うるさい。いいから下降しろ!」
「はあ? それが他人にものを頼む態度かよ」
オレはさらに高度をあげてやった。
「無理無理無理、ギブギブギブ! 悪かった。すみませんでした!」
あっさり謝ってきやがった。
「チッ、仕方ない。下降してやるか」
「うぉおおおおおおおおお、ストップストップ!」
「今度はどうした」
「いくらなんでも急下降はやめてください。上昇より怖いですぅーーーー」
まったく注文の多いヤツだ。
しかし飛行や空中浮遊に関し、オレは器用なことなどできない。
ここであることをひらめいた――。
いま魔法陣は一つ。足裏から出ている。
これを二つにできないものだろうか。
まず魔法陣を半分の大きさにしてみた。
そしてもう一つ小さな魔法陣を作ることに挑戦。
成功した。
二つの小さな魔法陣が重なっており、それぞれから風が吹きだしている。そのうちの一つを手の先に移してみる。
これも成功した。その手を天にかざす。
強風は足裏から下に吹き、てのひらからも上に吹く。いままでは風量の加減が難しかった。しかし風を上下双方から吹きださせることで、驚くほど位置のキープが楽になった。
トンボやハチドリのような高度なホバリングまでとはいかないものの、かなりいい感じに安定している。これで、ある程度は空中戦ができそうだ。
鎖にぶらさがったヤツに訊いてみる。
「てか、てめぇ。なんで自分で飛んでおりないんだ?」
「飛べません! 鎖で引っ張ってた四人は全員、ボスと違って飛べません! ボスの命令により、魔法の鎖でアナタ様を拘束しました。他の三人は地上を離れる瞬間に鎖を解きましたが、俺だけはタイミングを逃してしまい、いまの状況となったのです」
「ボスってのはヴォルケのことだな?」
「そうです。副ボスはベーギンといいまして、我々四人の姿と、それぞれ四つの鎖を透明化した者です。その透明魔法については有効距離の制限があるため、いまはご覧のとおり無効となっております」
この男はいろいろと喋ってくれた。さらに……。
「ちなみにベーギンは人妻でして、三児の母親でもありながら、結構いい女なんです!」
要らない情報まで与えてくれた。
「それはどうでもいい。ちなみに反則屋のヴォルケは、反則抜きでも強いのか」
「ボスは反則ナシでも熟練者の上位に位置するでしょうね」
そうか。熟練者としても上位か。
へえ、いいじゃないか。楽しくなってきた。
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