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12 弱き草食獣は全力で肉食獣から逃げる


「えええええええええっ! 元カノと会ったの?」


 ケラケラと笑う受付嬢ルーシャ。


 ケイティモッカのことを、彼女に話してやったのだ。てか、なんできょうもルーシャはオレの宿に来てるんだ?


 それに彼女は酒とツマミを持ってきてくれたが……。まあ、酒はいい。食物については、リムネたちとともに食堂で人間の料理を口にしたことがある。だが、これらはなんだ? 動物の死骸とかオレに食えるものか!


「あら、食べないの?」

「食いもん持ってくるなら、芋粥にしてくれりゃいいのに」

「芋粥? そんなの、持ってくる人なんていないわよ」

「食堂とかいう場所で食ったんだ。あれは良かった……」


 なのにルーシャ、こんな動物の死骸を食えと?

 燻製肉? 揚げ肉? 腸詰め肉?

 死肉の食べ方に、いちいち名前があるのか。

 ああ、臭くてかなわない。


「美味しいから食べればいいのに」

「食えるかっ。気持ち悪い」

「食わず嫌いは良くないわ。ロフェイのために言ってるのよ」


 オレのため? 嘘吐け。


 ルーシャは燻製肉を小さく刻んだ。

 豆粒ほどの小ささになったものを差しだしてきた。


「薬だと思って食べてみて」


 なんでそんなに食べさせたがるんだ。

 でもまあ、このくらいならば……いっか。

 一粒を口に入れた。思いきって噛んでみる。


 ん? これは……。


「いっ、いいかも」

「でしょ!!」


 オレは燻製肉を頬張った。

 ついでに揚げ肉や腸詰め肉も口に含んでみた。


「最高っ。死骸最高っ」

「これこれ、ロフェイ。死骸って言わないの!」

「なんか、腹の底から元気が湧いてきた感じだぞ」


 ルーシャがゆっくりうなずく。


「もうツノがないんだから、たまに食物の摂取が必要なのはわかるでしょ。でも芋粥のような穀物や野菜だけじゃダメ。魔族にとっては、むしろ肉の方が圧倒的に重要よ。母がそうだった。人間のように毎日でなくともいいわ」


 なるほど。重要なのは死肉か。死肉……。


 ただ、定期的に死肉の摂取をやり続けなくてはならないなんて。ツノを失ったせいで、かなり面倒臭くなった。でも『食べる』って行為は、舌が心地良くなるのが救いだ。


「お酒も飲めるみたいね」

「魔界にも似たものがあったからな」

「人間界のことわからないことだらけでしょ?」

「そりゃな」


 ルーシャはオレからグラスを奪って飲んだ。そして自分の口をつけていた方のグラスを渡してきた。酒は半分残っている。


「なんのマネだ?」


「この前も言ったけど……。あたしのオトコにならない? ロフェイの秘密を知ってることだし、あなたとしても気楽で良いでしょ」


 ルーシャは鬼法の使い手なのだろうか。魔法の使い手なのだろうか。いずれにせよ、オレと戦って勝つ自信があるのだろう。でなければ、オレを自分のオトコにしようとするものか。


 しかし考えてみれば、確かにオレは鬼法が使えなくなったし、覚えた魔法もミニファイヤと拡大魔法だけだ。オレの戦力なんてほぼゼロに近いだろう。


 ルーシャ……。仮に付き合うことになったら、どんな暴力を振るうタイプのオンナなのだろうか。


 少し想像してみた。彼女の鬼法で火炙りにされたり氷漬けにされたり……。悪寒が走った。体がぶるっと震える。


「あたし、尽くすタイプなのよ」


 な、なんと!?

 それは駄目に決まってる。


 もし尽くすタイプのオンナならば、こっちはその百倍も千倍も尽くして返すところを見せなければならない。さもなければ過激な虐待を受けることになる……というのが常識じゃないか。恐ろしすぎる。


「黙っちゃって。どうしたのかな」

「…………」


 お前からの逃げ方を考えてるだけだ。


「いいわ。まだ保留ってことで」

「そりゃどうも」

「他に何か聞いてみたいこととかある?」


 オレは手で頭部に触れてみた。もう痛みはない。


「ルーシャのお袋さん、ツノはどうなってた?」

「ないわ。人間界に来てから、ずっと生えなかった」

「そっか……」


 だったらオレも二度と生えることはないのだろう。

 しかしルーシャはこう続けるのだった。


「でもね。ある特殊な光石があればまた生えるって、母は信じてたみたいよ」

「光石ってなんだ?」


 初めて耳にするものだ。


「魔石と同じく魔法の種となる石よ。狭間の森やダンジョンに偶に落ちてるの」

「そんじゃ最終的に魔法でツノを復活させられるってことか」


 ちょっと期待してみる。


「そうみたい。普通の回復魔法程度じゃ治せないものまでも、元どおりにしまうという『回復魔法の最上位種』よ。それを光石で習得できるって」


「へえ、光石か」


「でもね。光石自体が結構稀少なんだけど、特にそれは極めて希少性が高いらしいの。見つけ出すのは非常に困難だとされているわ。いわゆる幻の光石」


「やっぱりなんか嘘くさい話だな」


 嘘くさい……そう言っておきながら、実は内心、少し夢を持ち始めた。ツノが復活したら魔界に帰るつもりだ。さすがに故郷のバラン地方には二度と住みたくないが、魔界は広いのだ。気に入りそうな場所ならばすぐに見つかるさ。


 ツノよ、生えてくれ。




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