第3話
ライブハウス『ヴェンセール』におけるホロウズの初ライブから翌日。
立川にある芸能プロダクションZOZOZOに火羽 恵、九騎 葵、羽子 依瑠、そして彼女たちのマネージャーである憑神の姿があった。
彼ら4人前に黒革のソファーに踏ん反り返った土瑠衣社長が、そのスキンヘッドの頭を撫でつけている。
その土瑠衣の前に直立不動で立つ憑神と憑神の横に立つ依瑠、一方で辺りをふらふらとする恵、土瑠衣社長の隣に座る葵。
「まぁ、初ライブご苦労さん。ネットでもなかなか反応良いわ。グッズの売り上げはどうよ?」
「はあ、ありがとうございます。グッズの売り上げも見たら、前よりも13パーセント程度は上がっていました」
「うんうん、これで我が社も倒産の危機から一歩脱したな。まあ、もっとグッズなんかが売れてテレビ出演してくれなきゃまだまだ厳しいんだがな」
「ボクだって結構頑張っているつもりだけどねっ。 ……憑神さんが無職になっちゃったらボクも困るし」
依瑠は横に居る憑神に向かって軽くウインクを投げかけるが、憑神は気がつかない。
その憑神の様子を見て、依瑠は頬を膨らませる。
「土瑠衣しゃちょー、恵、もう、帰っていーい?」
「めぐちゃんはちょっと待っててなー。憑神と大切な話してるから」
「はー、い」
「……あたしも帰りたーい」
「んで憑神よ。今度の新曲なんだけどな、これ」
「えっ、もう新曲ですか? 先週にライブ用って3曲ぐらい渡しましたよね?」
「おう、”鉄は熱いうちに打て”って言うだろう? ここで新曲PVをウーチューブに載せて、さらに知名度をアップさせる」
憑神が手渡された新曲の楽譜を見る。身長の高い憑神の持つ楽譜を依瑠は背伸びして覗き込む。
そこには”恋する血飛沫LOVE”と大きく曲名が書かれていた。そして作詞作曲者には”土瑠衣 紋久”とあり、憑神と依瑠は目を丸くする。
「作詞作曲、俺よ。どうよ」
「……あ、うん。ボクは良いと思うよ……」
依瑠は場の空気を読み、笑顔を取り繕う。まるで80年代のセンスのなさに、人外の依瑠も流石に『この人のセンス、大丈夫なのかな?』と思うのであった。
「社長、作詞作曲はいつも外注してたのに、急にどうしたんですか?」
「いや、なんか見ていたら俺にも出来そうな気がしてな。んで、3日ぐらいで作ったのよ」
先ほどまでふらふらしていた恵もまた新曲と聞き、憑神の背後から背伸びをして覗き込む。
「おおっー、土瑠衣しゃちょー、すごいー」
「んで、新曲のロケ地なんだがな。N県の”杉山村の大屋敷”にしたぞ。憑神と依瑠ちゃんには馴染みの場所だろ?」
「えっ?」
「……ボクの居たところで、PV撮影!?」
憑神と依瑠は同時に声を上げる。
N県の”杉山村の大屋敷”、そこは憑神が初めて人外に憑かれ好かれた地。そして羽子 依瑠がずっと居た忌み地。
「ふーん、依瑠が居た場所かぁ。行くのが楽しみね」
慌てふためく憑神と依瑠、そして犬のように憑神にくっついて離れない恵をよそに、そのことを聞いた葵の目が妖しく光るのであった。