第2話
『~♪、~♪、~♪』
回る、回る、目が回る。
ぐるぐる、ぐらぐら、視界は揺れて。
ふるり、ふわりと、衣装は揺れて。
ゆらり、ゆらゆら、魅惑に踊り。
あはは、きゃはは、響く歌い声。
開演して40分。ステージ上には3人の少女たちがステージ上で踊り、歌う。
ステージに詰めかけんばかりに居るたくさんのホロウズのファンたちも熱狂し、ある者は興奮してライトを振り、ある者は音楽に合わせて飛び跳ねる。もはや狂信にも似た雰囲気に、ライブハウス『ヴェンセール』は包まれていたのだった。
「そろそろ、恵のソロパートか。また”落とし物”をしなきゃ良いんだが」
ステージの袖で心配そうにステージを見つめる憑神。
本番前にしっかりと言い含めておいたものの、ぼんやりとした性格の恵にどの程度伝わっているのか測り切れていなかった。
「じゃあ、恵の、初めてのソロ、だよ~! みんな聞いて、ね~!」
3人での曲パートが終わり、依瑠と葵の2人が休憩も兼ねてステージ袖へと引っ込むと同時に前奏が始まる。
そして大きく、張り上げるように恵は自身のソロパートを歌い始める。
『どうして~♪、こうなったの~♪』
恵が歌い出すと同時に、ファンたちのボルテージもまた上がっていく。
そしてファンたちに合わせるように、恵もまた華麗にステップを踏み始める。
「普段の会話は途切れ途切れになるのに、なんで歌っているときだけは饒舌なんだろうな。あ、2人ともお疲れさん。はい、のみもんとタオル」
ステージに居る恵を見ながら、袖に降りてきた依瑠と葵を労う憑神。
依瑠は手渡された日本酒を、葵はよく冷えた血液を一気に喉奥へと流し込みながら、一息つく。そして流れる汗をタオルで拭きながら憑神と同じく、ステージ上の恵を見つめるのだった。
「そんなことボクが知るわけないだろ? あいつのことを1番よく知ってるのは憑神さんなんだし」
「お前らなぁ、ちょっとは自分たちのことを話さないのか? 会社からシェアハウス借りて3人で住んでるだろ」
「依瑠ちゃんはお家に帰ったら、すぐに”箱”に戻っちゃうのよ。んで、あたしは恵ちゃんと会話が続かないからすぐに棺に入るし。恵ちゃんはいつも1人でリビングのゲームやってるわよ」
「家に帰ったら好きにしていいって言ったのは憑神さんじゃないかっ。ボクはそれに従っただけだよ」
ふて腐れたように答える依瑠にため息ばかりしか出ない憑神。
その横で葵は踏ん反り返るように、イスへと座るのであった。
「あれっ?」
ふて腐れながらもステージの恵を見ていた依瑠が、何かに気がついたように声を上げる。
その声に釣られて憑神と葵も恵を見ると、依瑠が声を出した理由を理解する。
「恵ちゃん、手首もげかけてない?」
「まずいな」
恵の右手首から先、そこがステップを踏む度にワンテンポ遅れて揺れていた。
まるで人形を無理に動かしているかのようなその手首の動きに、恵自身は気がついていない。
「恵ちゃんのソロパート終わるまで持ちそうかな?」
「あと45秒だが……っ!」
恵の手首は半分ほど裂け、ちらりと真っ白な骨が姿を現す。
まるで悪趣味な猫じゃらしのように揺れる手首に、観客も気がつき始める。
「まずいな、気がつかれた……。葵と依瑠はステージで恵を助けにいけっ!」
「やっぱりボクの言った通りじゃないかっ」
「あいあいさー。で、憑神さんはどうするわけ?」
「作戦がある。とにかく早く行け!」
依瑠と葵はステージへ、憑神は操作室へと駆ける。
ちょうど、葵と依瑠がステージに飛び込んだのは恵の最後のサビの部分。恵が大きくステップを踏むところであった。
『えっ、なんで、2人とも、ステージに、居るの?』
大きく目を見開いた恵は、目だけで2人に問いかける。
だが2人はその問いかけを無視して、恵に並んでステップに合わせる。
『恵ちゃん、手!手落ちそう!』
葵は僅かな手振りでステップを踏みながら、恵に向かって僅かなジェスチャーで状況を伝える。
そのことで恵は初めて状況を理解したのか、焦ったような表情を見せる。だが、時既に遅し。恵は最後の〆に入るターンに入り始めていた。
ぶちんっ。
勢いよく飛ぶ恵の右手。それを瞬時に掴んで隠す依瑠。
そして曲が終わると同時に、ステージの照明は落とされたのであった。




