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第1話

ウーチューブに『ホロウズ』の動画投稿をしてから一週間程度後のこと。東京都町田にあるライブハウス『ヴェンセール』。

入り口にはまばらながらも列が出来、開演を今か今かと待つ人たち。



 それらの人々は、動画を見てホロウズに惹かれた人やネット広告、はたまた電柱に張られたポスターや看板、あるいは入場無料と言うこともあり、ただただ興味本位で待つ人も居た。



 入り口には大きく『ホロウズ、初単独ライブ!』と書かれたポスターが貼られており、煽り文句には『新時代!怪奇派アイドルユニット』、そしてその文字の下には3人の顔写真が大きく印刷されていた。

”崩れ系アイドル・ゾン子”火羽かばね めぐみ、”吸血系アイドル・ヴァン子”九騎きゅうき あおい、”箱入り娘系アイドル・ボクッ子”羽子はこ 依瑠いる。3人の少女が満面の笑みでピースサインをしており、それぞれの名前が記載されていた。



 入り口に並んだ『ホロウズ』のファンたちは開演時間を待ちながら、各々の推しについて話合う。



「なぁ、誰推しよ?」



「んん、やっぱり”ゾン子”ちゃんかな。あの動きと体は凄いわ。顔もメイクしてるけど可愛いし」



「俺は”ヴァン子ちゃん”だなぁ。1番元気ある子だし、ステージに出てくるときにコウモリと登場するなんて格好良すぎる! あと声も凄い綺麗だし!」



「いやいや、声なら”ボクッ子”だろ。あんな声域、他の2人とは比べものにならないわ。しかもステージに出てくるときに、手品みたく急に出てくるんだぜ!? ステージにはちっちゃい箱しかないのに、開演の時間になったら急に飛び出してくるしな」



「おいおい、アイドルの価値は登場の仕方じゃないだろ……。 アイドルだったら、顔と声とダンスで勝負しろや」



 ライブハウスに押しかけた人々は開演を今か今かと待ちながら、そのライブハウスの扉が開くのを見つめるのであった。



 ――ライブハウス『ヴェンセール』の2階にある控え室。

そこには3人の少女と若い男の4人が、イスに腰掛けて開演時間を待っていた。



「ね、憑神さぁーん。すごい、外に、人いっぱい!」



 カーテンで仕切られた窓をほんの少しだけ開けて、外を見た”ゾン子”恵はその憑神と呼んだ男性に向かって面白そうに声を上げる。

その陽気な恵の様子を見て、やや緊張した面持ちで声を出す『ホロウズ・マネージャー』の憑神つきがみ あきら



「恵、お前本番でも”目の玉”落とすなよ? そそっかしいんだから、気をつけろ」



「えっへっへ~、大丈夫、だよ~」



「全く、先が思いやられる。憑神さん、ボクは恵が1番最初にソロパートを始めるなんて反対するよ。恵はいっつも練習中に何かを落とすんだよ? この前なんて、腕がもげながら踊っていたじゃないか」



 横から声を出したのは”ボクッ子”依瑠。不満を憑神へと直接ぶつけていた。

その声に反発するように、恵は依瑠に向かって声を出す。



「依瑠ちゃんだって、”箱”なくして、練習中に、泣いてたよ~?」



「この”箱”はボクの体の一部なんだよっ。自分の体を落としてもわからないやつには分からないだろうけどっ!」



 依瑠は手の平に乗せたルービックキューブのように装飾された”箱”を撫でながら、声を荒げる。

憑神は2人の間に立ちながら、諌める。



「とりあえず、本番前に喧嘩はやめろ。依瑠、恵のソロパートを決めたのは俺だ。文句は後で聞くから、抑えてくれ。んで、恵。お前は確かに”落とし物”が多すぎるから、普段から注意しておけよ?」



「は~い、憑神さん~」



「……わかったよっ」



「……あ、もう終わった?」



 2人が静かになったのを見計らって、声を上げる”ヴァン子”葵。

ストローの刺さった輸血パックを片手に、気怠そうにイスをガタガタと揺らしていた。



「葵、お前はこのホロウズのリーダーだろ?みんなを取りまとめてくれなきゃ困るぞ」



「えぇー。リーダーの仕事って多すぎない? あたしはてっきり、依瑠と恵の2人を自由にパシリに出来るかと思ってたんだけど」



「……そんなことあるわけないだろう。本番まで時間がないし、もう一度流れを確認するぞ」



 そうして憑神が恵、依瑠、葵に向かって本番の流れを確認していると突然に控え室のドアがノックされる。

憑神が返事をする前に、大きく控え室の扉が開かれた。



「お~う、お前らやってるか~?」



 そこに現れたのは小麦色の肌にど派手なアロハシャツ、サングラスと証明を受けて光り輝くスキンヘッドの大男。

その初老の大男が、大きく笑いながら控え室へと突入してきたのだった。



「しゃ、社長、驚かさないでくださいよ!」



土瑠衣どるいしゃちょー、こんにちわー!」



「おうっ、ゾン子ちゃんはやっぱり1番元気だなぁ。あっはっは!」



「……社長、少し外でお話が。葵、もう一度3人で流れを確認しておいてくれ」



「あいあいさー」



 葵は部屋を出て行く憑神に向かって気怠そうに声を掛ける。

一方で憑神は半ば引っ張るようにして控え室から土瑠衣社長を連れ出すと、中にいる3人に聞こえないような小さな声で抗議する。



「社長、これ本当にいけますかね……?本物の怪異をアイドルにするなんてこと」



「つぶれかけだった『ホラービデオ制作会社、ぞぞぞ企画』を建て直すチャンスなんだぞ? 会社名も『ぞぞぞ企画』から『芸能プロダクションZOZOZO』に変えたし、もう後戻りはできんよ。そもそもお前がスカウトしてきたんだし」



「スカウトというか、勝手に”憑いてきた”んですよ……ていうか、俺、最初は映像スタッフで雇われていたじゃないですか。なんでマネージメントまでしなきゃ」



「お前にしか出来ない仕事だからな。ゾンビ娘、吸血鬼、呪箱たちの相手は」



 憑神が社長に抗議をしていると、突然ライブハウス中にベルが鳴る。

それと同時にライブハウスの扉は開かれ、ホロウズのファンたちは入場をし始める。



「おおっと、もうこんな時間か。じゃあ、あとは任せたぞ、憑神マネージャー。”日本一のアイドルユニット”を目指して頑張ろうや」



 それだけ声を掛けると土瑠衣社長は風のように姿を消す。

後に残された憑神は、大きくため息を吐くのであった。



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