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冬至祭の準備

日間異世界転生/転移ランキング1位に驚いております!

ありがとうございます!!


お礼の番外編です。

 もうすぐ冬。

 オレストさんと私が結婚して、初めての冬を迎える。


 王都は古代の魔法が生きていて夜にだけ雨や雪が降るのだが、「裏山」で雪雲が遮断されるのか降ってもうっすら積もる程度だ。王都近くのノーティアナではけっこう積もったのに。

 ただ王都の風は乾いている上に「裏山」から吹き下ろしてくるから冷たいし、気温は思いのほか下がるから、建物の壁には断熱用の分厚いタペストリーなどを吊すし、窓のカーテンも分厚いものにするのが冬支度となる。

 もちろん、暖炉やストーブなんてものもあって暖房も完備しているし、部屋ごとに断熱の結界を張る魔道具なんてのもあって、熱を逃がさない工夫をしている。結界があるのだから分厚いタペストリーやカーテンなんかは気分的なもの……と言えないこともないけど、見た目の寒々しさをなくすから居心地のいい空間を作るのに一役買っている。そんな感じで、屋内はなかなか快適なのだ。


 魔道具研究所では、今の時期はその結界を張る魔道具が修理のメインになるらしい。

 そろそろ冬の準備……と思って引っ張り出してきて、「あれ? 起動しないぞ」ってなって研究所に持ち込まれるものが多いんだって。

 しかもその魔道具、断熱の結界を張るだけなんで、壁掛け型だったり何かの置物にカモフラージュしてあったりと形も様々。一目見ただけではなんの魔道具なんだか分からないことも多いらしい。




 ところで今、私たちの工房では通話器の組み立てが盛んだ。

 完全な流れ作業にしたことで、魔道具作りが苦手な人でもだいぶ楽に作業ができるようになったし、量産も進んでいる。それに伴って通話器の価格も下がりつつある。

 平民で魔力が小さい人でも組み立てはできるし、本当に組み立てが苦手(不器用すぎるとか)な人には宿舎の掃除や料理、洗濯などの仕事をしてもらったり、キューマとクロエの事務作業を手伝ってもらったり、適材適所って感じ。


 それから、通話器に使う魔石の量が国内で大幅に増えたので、魔石の再生事業も進んでいる。魔道具研究所の修理品が減ったことから、研究所のみんなは私たちの工房で通話器を組み立てたり、魔石に魔力補充をしたり、最終的な通話器の検査をしてくれたりしている。もちろん、修理の為に研究所にいる人員も必要なので、工房に来るメンバーは日替わりだ。

 あと、お貴族様の引きこもりだったどっちつかずの皆様も工房に入るようになって、魔石の魔力補充をしてもらえるからけっこう助かっている。


 通話器って、前世で言う通信料代わりに魔石を買う感じなのよね~。

 魔石の再生分は、国から歩合で手数料が支払われる。それを研究所と工房のみんなの給料に反映させているのだ。




 さて冬といえば冬至祭。

 冬至祭というのは前世のクリスマスのようなもので、1年無事に過ごせたことに感謝し新しい年が来ることを祝ったり、その年お世話になった人へ感謝の贈り物をしたりする。


 私はオレストさんに靴下を編み直してあげたいなぁ……と思った。

 だって、いつまでもあの歪な靴下を持って歩いてるなんて、どこかで誰かに見られたら恥ずかしいじゃないかー!

 けど、引き返し編みが難しいのも事実で、また歪な靴下になるのでは意味がない。仕方ないので手袋やマフラーならどうか……と考える。ミトンは減らし目があってちょっと苦手だから、五本指の手袋にしようと決める。


 私は「下着を買いに行きたい! 恥ずかしいからついてこないでね」と言ってオレストさんを牽制し、1人で街へ出て毛糸と棒針、それから本当に冬用の下着を買ってきた。お腹が冷えると腹痛がするので、切実なの。本気で毛糸のパンツとか腹巻きとか買っちゃったよ~。……色気無しだな! オレストさんには見せられない。いや、朝起きたときにこっそり身に着けますけどね。

 オレストさんの手袋は何色の毛糸にしようかと散々迷って、無難なチャコールグレーの毛糸を選んだ。

 前世は洒落っ気のないおばちゃんだったし、色の組み合わせは自信がないから、何にでも合わせやすい色にしてしまった。けど私の髪と目の色に近い色だって言い訳できるし、暗い色だと目立たないかもだけど縄編みなどの模様も編み込むし、シンプルに一色でいいよね? それに、どんな色の服にでも合わせやすいなら使い勝手もいいんじゃないかと思うし……。


 あとはオレストさんに見つからないように、どこかでこっそり編んで、驚かせたいな~と思う。

 けど、これがなかなか難しかった……!


 朝は同じベッドで起きるし、朝食・昼食・夕食・就寝、日中の工房での仕事を考えただけでもずーっと一緒だ。

 早朝、オレストさんが起きる前ならなんとかなるかな???

 あ、仕事は私たち2人は1週間交替で組み立て作業に入る係と食事係に分けたから、もし機会があるとすればそこかな? 食事係になったときなら、ちょっと手空きな時間に編めるかも!

 あと、オレストさんの手の大きさとか指の長さとか、下調べが重要よね~。今度、オレストさんが寝ている間にこっそり手形をとるか、いっそのこと石膏で型をとっちゃおうかしら、なんて画策する。


 それから、工房で働くみんなや研究所の皆様にはケーキでも作ろうかな……と考える。カップケーキをたくさん焼いて、可愛いデコレーションをしたらどうかしら???

 一応、私たちの住居部分にはキッチンもある。普段は工房や研究所のみんなと食堂で食事を摂るからあまり使わないけど、こういうときにはみんなに内緒で作れて驚かせられるのがいいなって思う。

 確か、前に雑貨屋さんで耐熱魔法をかけた紙を見たことがあるから、アレをカップケーキ用にできないかなぁ~と考える。円形に切った紙に切り込みを入れて、カップケーキ用の型に敷いて……。あ、カップケーキ用の型がないから、今度街で探さなくちゃ! そっちはまだ時間があるから、後でオレストさんに相談しよう。

 とりあえず、時間がかかる編み物の方を優先しないとね!




 毛糸を買ってきた翌朝。

 さっそく朝早くに起きて、まだオレストさんが寝ている間に手首周りの長さを測る。指の長さは、指の部分まで編み進めた後でも間に合うから、とりあえず手首周りだけで大丈夫。


 ゴム編み部分から編み始めるか、鎖編みで目を作って後で解いてゴム編みを編むか悩む。

 目を作ってゴム編み部分から編み始めれば簡単だけど、鎖目で目を作って手のひらからから先の部分を編んで、それから鎖編みを解いて目を拾いゴム編みを編んで終わりを始末した方が綺麗に出来上がる。

 うーん……。

 前世で編んだのは高校生の頃、自分の手袋だったから簡単な方でしか編んだことがないしなぁ~。

 しばし悩んだ後、やっぱり綺麗に出来上がる方にした。だって、オレストさんにあげるんだし! 日頃の感謝を込めるんだし、綺麗な方がいいよね。


 ……となると、鎖編みをするのに色違いの毛糸が欲しい。そうじゃないと後から解くのに分かりづらいからなぁ。またこっそり買い物に行かなくちゃ!


 その日は夕方になるのが待ち遠しくて、なんだかソワソワして落ち着かなかった。今週は厨房担当だったから良かったけど。これで組み立て作業担当だったら、きっとイージーミスとかしてたんじゃないだろうか?

 夕方、仕込みが済んで、あとは夕飯の直前に仕上げをするだけ……となったところで、厨房担当の子にちょっと街まで買い物に出かけると断りを入れて出かける。一応事務室のキューマやクロエにも声をかけておいた。

 大急ぎで出かけて、大急ぎで買い物を済ませる。

 毛糸のついでに歯ブラシや石けんなど、自宅で使う雑貨を買い置きした。……これできっと「買い置きが少なくなったから買い物に出た」って言って、オレストさんを誤魔化せると思う。




 そしてまた、その翌朝。

 早めに起きて、まだ寝ているオレストさんを起こさないようにそーっとベッドを抜け出して、居間のソファで編み物を始めた。

 鎖編みを編んで目を拾い、四本針でぐるぐると輪編みをしていく。

 手の甲部分には縄編みを入れて、変化を付ける。


 編み物に夢中になっていたら、突然後ろから腕が伸びてきて、ぎゅっと抱きつかれた。


「……っ!」


 あまりに突然すぎて、驚いて声も出なかった。

 集中してて、気配に気がつかなかったよ~。


「おはよう。……うちの奥さんはこそこそと何をしてるのかな?」


 耳元でオレストさんの声がする。

 えーっ!? もうバレちゃった!!


「……内緒で驚かせようと思ってたのに~」

「うん? 誰に内緒なの? 昨日の朝から何かしてたよね?」


 うそ! 昨日の手首周りを測るところからバレてたの!? いやーっ! 知ってて知らないふりをされるとか、恥ずかしすぎるじゃないの!!!

 固まった私を見たオレストさんの笑いを含んだ気配が……。私の正面に回り込んで私の肩に手を置いたまま、オレストさんがじっと目を合わせてくる。そして洗いざらい、根掘り葉掘り訊かれてしまった。


「……冬至祭まで内緒にしてて、オレストさんを驚かせようと思ってたの」

「……ということは、これは私の?」

「そう。手袋だよ」


 そう答えたら、ぎゅーっと抱きしめられてしまった。さっき、急に抱きつかれたときより強い力で抱きしめられて、ぎゅうぎゅうで苦しい~。

 この体勢では棒針が危ないので、大慌てで編み物は毛糸の袋に突っ込んだ。


「フィリスの手編み! 嬉しい!」


 そう言いながら額にキスを落とされる。

 っていうか、頬にも唇にもついばむようにキスされて、最終的に頬ずりをされた。しかもその後、物足りなかったらしく、オレストさんが自分のほっぺを私の唇に押しつけて、無理矢理キスさせられた。

 ……無理矢理キスを強請るって言うか、させられるって、なんか恥ずかしい~! けど、そういうオレストさんを可愛いと思っている自分がいるのも確かで、端から見たらこれってバカップルよね!?


 ちょっと冷静になって真っ赤になった私を見て、オレストさんは花が咲くような笑顔を見せる。


「うちの奥さん、可愛い」


 そう言って頭を胸元に抱き込まれて撫でられた。


「そうか~、今年の冬至祭は手袋か。フィリスは何が欲しい?」


 ちょっと落ち着いたらしいオレストさんが、私の横に座って訊いてきた。

 ……え? 私の欲しいものって、すぐには思いつかないかも。


「……が…れば……」

「ん?」


 私は恥ずかしくて声が小さくなってしまったので、オレストさんは聞き取れなかったらしく聞き返された。

 え~、もう一回ですか~? 恥ずかしすぎる……。


「オレストさんがいれば、一緒にいられれば、それでいいです~」


 恥ずかしさのあまり、私は涙目だ。

 その様子を見たオレストさんが真っ赤になって口を片手で覆う。


「……フィリス、襲いたくなるから、その顔はよそで見せないでね?」


 ぎゃー! なんてこと言うの、この人は!?

 襲うとか襲うとか襲うとか!! 朝っぱらからー!


 その後、朝食準備に取りかからないといけない時間になったことに気づき、大慌てで身支度を調えて1階の厨房へ下りた。




 さて、内緒にして驚かそうという私の作戦はダメになっちゃったので、夕食と入浴の後、居間のソファでまったりする時間に編み物をしている。就寝前の落ち着いたひとときだ。

 オレストさんは嬉しそうに私の膝枕で編み物を眺めている。……てか、毛糸の端っこがオレストさんの顔を撫でてますけど、くすぐったくないのか?

 まぁ、出来上がっていく編み物を眺めてご満悦っぽいから、本人的には問題ないのかも。


「あ、オレストさん、ちょっと手を貸してください」


 手袋は親指の付け根くらいまで編み進められたので、オレストさんの手に当てて親指はその位置でいいかどうか確かめ、色違いの毛糸を編み込む。後で解いて親指にするのだ。

 そのあと、人差し指の付け根くらいまで編んで、今夜の編み物は終わりにしようか……とオレストさんを見る。


「そろそろ寝ましょうか?」


 夜も更けて、けっこういい時間になっていたので、膝枕の人にそう声をかけた。


「そうだね。明日も仕事だし、そろそろ横になった方がいいね」


 オレストさんの同意を得て、私は編み物を毛糸の袋にしまい込む。

 続きはまた明日だ。


「……私も編み物をしようかな?」


 寝室に向かいながらオレストさんがぽつりと呟いた。


「へ?」


 思いもよらない言葉に、私は素っ頓狂な声を出してしまう。


「フィリスの手袋を私が編みたいんだ。教えてくれる?」

「え、えぇ、いいですけど……」


 前世、私の父が母から編み物を習っていたのを思い出した。……その当時小学生だった私が編み物してるのを見てて、自分も編み物をしてみたくなったらしいのよね~。

 学生だった私は年々時間がとれなくなっちゃったから大物は編めなくなったけど、父は毎年ベストとかセーターとか編んでましたよ、はい。


 そんなことを思い出して、オレストさんもそうなるのかなと想像したら、ちょっと嬉しくなってしまった。

 ……オレストさんはちょっと不器用だけど、練習したらできる人だから、きっとそうなるだろうなぁ。


「じゃあ今度、一緒に毛糸を買いに行きましょうね!」

「そうだね。……フィリスには何色がいいかな?」


 2人で微笑み合いながら、次の休日が楽しみになる。


 冬が近づいて外は寒くなったけど、心の中はポカポカだった。





読んでいただきまして、ありがとうございました。

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