第12話:女王の陥落
第12話:女王の陥落
「九条院先生……申し訳ない。教育委員会が、これ以上の続投は不可能だと判断しました」
校長室を後にする麗華の耳には、校門の外で騒ぐマスコミの怒号が届いていた。
(……ああ、不細工ですわ。最後に残るのが、こんな薄汚れた砂嵐だなんて)
麗華は扇子を握りしめ、一度も振り返ることなく学園を去った。その背中には、かつて社交界を追放された時と同じ、鋭利な孤独が纏わりついていた。
その夜、瀬戸内の凪いだ海。
「……何の用かしら。私はもう、あなたたちの教師ではありませんわよ」
波音を切り裂いて、複数の足音が近づく。
「……先生、勘違いしないで」
さくらを筆頭に、3年B組の全員が、夜の帳から姿を現した。
「私たちは、先生を助けに来たんじゃない。……先生に教わった『自分たちの価値を、自分たちで決める』っていう言葉を、証明しに来ただけだよ」
千尋がタブレットの画面を麗華に向けた。そこには、沙織がひた隠す「裏の金」の汚れたログが、整然と並んでいた。
「憲太郎君が、お父さんの人脈から裏帳簿の出所を突き止めた。廣野君が、マルチのネットワークを使って沙織の周辺を探った。……先生。これが、私たちの『統治』の結果だよ」
「おんどれら……何をしよるんな」
麗華の声が、わずかに震える。
「先生は『孤高であれ』って言った。……だから、俺たちは一人一人が勝手に動いて、勝手に証拠を集めて、ここに集まったんだ。……バラバラのままでも、あんたを守るって決めたんだよ!」
拓哉の叫びが、夜の海を震わせた。
麗華は扇子を広げ、口元を隠した。
(……ああ、本当に、不細工な子供たち。……教え子に、こんな泥臭い『忠誠』を教えた覚えはありませんのに)
「……よろしい。ならば、女王の最後の授業を始めましょうか」
麗華はゆっくりと扇子を閉じ、真っ直ぐに教え子たちを見据えた。その瞳には、かつてないほど激しく、慈愛に満ちた火が灯っていた。
「沙織さんに、教えて差し上げなさい。……九条院麗華が育てた薔薇は、毒さえも美しい装飾に変えることを!」




