第11話:女王への反逆(ディバイド・オブ・クラス)
第11話:女王への反逆
「……先生。先生の言う『高い志』って、僕たち全員に必要なものなんですか?」
拓哉の声は、春の陽光を遮るように教室を冷やした。
麗華は扇子を閉じ、ゆっくりと視線を向けた。
「……ほう。私の言葉に、不純物でも混じっていましたかしら?」
「先生のおかげで、僕は救われた。でも……次は先生が、僕たちを『九条院麗華の最高傑作』にしようとしてる気がするんだ。……僕は、広島の小さな専門学校に行って、母さんを支えたい。それは、先生の基準じゃ『不細工な妥協』かもしれない。でも、僕にとっては、それが一生懸命に見つけた答えなんだ!」
教室は、引き裂かれた。
「拓哉、それは先生に失礼だよ!」と叫ぶさくら。
「正しすぎて、息が詰まるんだよ……」と俯く廣野。
かつて死線を越えた絆が、皮肉にも「自分の人生を自分で決める」という麗華の教えそのものによって、バラバラに砕けていく。
放課後、千尋が準備室の扉を叩いた。その手には、他校からの引き抜きという名の、甘い「毒」の案内状。
「……先生。私、ここに行きます。先生が教えた通り、自分の価値を最大化するために。……B組を裏切ってでも」
麗華は窓の外、暮れなずむ広島の街を見つめ、静かに笑った。
「……結構。私を裏切ることでしか、あなたは自分の足元を確認できないのですものね。不器用な雛鳥だこと」
翌朝。麗華は黒板に大きく**「孤」**と刻んだ。
「おんどれら、勘違いしちゃあいけんよ」
冷徹な標準語が、剥き出しの広島弁へと変わる。
「ワシに認められるために生きとるんなら、そんなもん一生、誰かの『奴隷』のままじゃ。……ワシを裏切るんじゃったら、ワシが跪いて謝るぐらいの、ぶち立派な薔薇になってみせぇ! ……仲間割れしてグズグズ言いよる暇があるんなら、自分の一番美しい咲かせ方、死ぬ気で考えんさい!」
麗華の挑発に、生徒たちはそれぞれの「孤」を抱えて立ち上がった。
それは、女王の統治が終わる、始まりの鐘の音だった。




