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46 夢うつつ

――村を襲われたあの日……


――ガンッ! ガンッ!


「お前が……みんなをッ!! 許さない……ゆるさない!!!」


 少年は驚くほどに大きな声で魔物である道化を棒で殴り続けている。


「ググ……コゾウが……! ガァッ!」

「お前がいなければ……お前さえいなければ!! 父さんも! 母さんも……"ノティア"だって居なくならなかったのに!!」

「ぐう……我が分身を倒すとはな……ここで死ぬと本体にこの事を伝えられないのは痛いが……カナラズ、ダンジョン最奥に居る我本体が、コロシテヤルゾ……ガキガ!!」


――シュゥゥゥ……


 少年は灰となった道化を叩き続けていた。


「こいつのせいで! こいつのせいでッ!!」


 その少年の姿を見る、一つの影があった。その姿は城で王座に座っていた者と同じ姿をしていた。


「こいつはおもしろい……あの少年の心は闇……魔物より深い憎悪で溢れている」


 その影は右手を上げ、少年に構えた。


「だが、あのままだと心が完全に壊れてしまうな。あの少年も、1000レベルを遥かに超える力がある。数千年に一人の逸材……このまま壊してしまうのも惜しい」


 影の右手からどす黒いエネルギーが球体状になり現れ、少年に向かって射出された。


「ぐぁぁ!」


 少年は黒い球体に蝕まれるように全身を覆われ倒れた。


「今起きた事は……君の中では無かった事になる。"呪い"と呼ぶか"救済"と呼ぶか……」

「うぅぅ……」

「"夢うつつ"……"妄想"……それに捕らわれる事になるがな……ハッハッハ……」

「ノティア……」


 少年はそのまま気絶するように倒れてしまった。


「楽しみにしているよ……"イニシヤ"よ」


 そういってその影は闇に消えていった。


・・・

・・


「大丈夫ですか! イニシヤさん!」

「……」


 イニシヤの身体を優しく揺する一人の女性が目に入った。

 イニシヤの目には涙の跡がハッキリと残っていた。


「う……ミーナ……君は"本物"なのか……?」

「イニシヤさん……私はここに居ますよ」


 ミーナはイニシヤの手を優しく取り、胸に当てた。

 その手からは鼓動がハッキリと伝わっていた。


「俺は……ずっと……夢の中に居たみたいだ……どうせなら、ずっとその夢を見ていたかった。この夢が……呪いだったんだな」


 イニシヤの目からは再び涙が滲んだ。


「もう大丈夫ですよ。イニシヤさん。私がついていますよ」

「有難う……でももう何も信じれないよ。この世界自体も……夢なのかもしれない」


 ミーナは固い鎧を脱ぎ捨て、強くイニシヤを抱きしめた。


「夢じゃないですよ。私の体温、鼓動、匂い……感じますか?」

「……暖かいよ……いい匂いもする……」

 

 イニシヤはぐっと涙をこらえた。


「泣きたい時は思いっきり泣いてください。私の胸でよければお貸ししますから」

「……有難う、大丈夫だ。ごめんミーナ……少しだけ一人にしてくれないか」

「……わかりました」


 イニシヤは立ち上がり、丘の方へと向かって行った


・・・


「全部妄想だったなんて……本当に笑っちまうよな……完全に狂ってたんだな俺。このぬいぐるみがそう見えてたなんてな」


(いつも見ていたこの景色も、今は全く別の景色に見えてしまう)


"全部妄想じゃないよ!"

"そうですわ!"


「……やばい、まだ呪いが解けてないのか」


 その瞬間、二つのぬいぐるみは発光し始めた。


「……これは……」


"イニシヤ、楽しかったよ。死んだ僕たちとずっと一緒に居てくれて嬉しかった!"


「ノティア……!」


"わたくしも、憎しみだけで彷徨っていましたが、貴方に救われましたわ……感謝していますわ"


「ステイシー……」


"でも、もう行かなくちゃ。イニシヤ、ずっと見守ってるからね。ちゃんと元気出してね!"


「そんな、まだたくさん話したいのに……!」


"だーめ! 本当ならあの日に全部終わってたんだよ? それに比べたらいーっぱい話せたでしょ!"


 ぬいぐるみから現れた二つの発光体はゆっくりと上空へと昇っていく。


「俺も一緒に……」


"駄目ですわ! イニシヤにはわたくしたちの分もしっかり世界を見てもらいますわよ!"

"そうだよイニシヤ! 悲しい事言わない! どこに居ても一緒だからね"


 その声はどんどんと遠くなっていく……。


「そうだよな……有難う二人とも。俺にはまだ……やるべきことがある」


 それを眺めるイニシヤの目には固い決意が宿っていた。


――翌日


――ガシャン……


 イニシヤはデバシーを開きながら、カバンに荷物を詰め込んでいる。


「イニシヤさん、どこへ行くのですか?」

「ダーロスを討つ。半分夢だったとしても、後2ヵ月で何か起こるのは間違いない」

「しかし……!」

「ミーナ、有難う。もう大丈夫だよ。ダーロスは仇なんだ……。ノティアと、ステイシーのな」

「イニシヤさん……」

「必ず倒して帰ってくるよ」


(誰が見ても狂った状態だった俺を……ミーナはずっと支えていてくれた。その恩に必ず報いなければならない)


 そうしてイニシヤはダーロスを討つべく、進み始めた。

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