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「イチコの哲学」  作者: 京衛武百十
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「リビドー」

なんかさ~。男ってメンドクサイ生き物だよな。何かっていったらエロい方向に話を持っていきたがるしよ~。こっちはそんなの興味ね~って言うんだよ。ホント言うと全然ね~ワケじゃないけど、だからっていつでもそういうの考えてるワケじゃないんだって。だからそういうノリじゃね~時にそんな話されたってマジ引くだけだっての。


「だよね~」


「分かる分かる」


放課後、部活が始まる時間になるまで、あたしとイチコとフミは教室で宿題をしながら、エロ男子をディスりまくってた。でも実際にはそんなにマジな話でもなくてただの軽口みたいなものだったんだけどさ。けど、女からしたら正直な気分なんだよな。エロい漫画とかで出てくるようなのは全部嘘だから。たまに女でもダマされてるのいるけど、マジで嘘だから。


ところで宿題はそれぞれの休憩時間にほとんど終わらせてるから今やってるのも6時間目に出た分だけだしすぐ終わって、あたしらは教室を出た。イチコが茶道部だっていうからほんとは興味ないけど一緒にいたいと思ってあたしも茶道部に入ったんだけどさ~。抹茶も甘いお菓子もほんとは苦手なんだよね~。だけどイチコと一緒にいられるから我慢我慢。


部活も終わって3人で一緒に帰るのも楽しかった。って言うか、正直言うと家に帰りたくないかな~とか思ってたりする。だからあたしは言ったんだ。


「ねえ、イチコん家にちょっと行ってもいい?」


そしたらイチコは即「いいよ」って言ってくれた。だけどそのすぐ後で、「たぶん中年のおじさんが隣の部屋で寝てるけど、それでいいんなら」って。


「なにそれ?。誰?」ってあたしは思わず訊いてた。するとイチコが、


「お父さん。夜に仕事してるから夕方まで寝てるんだ」だって。


「え?。でもそれじゃ家に行ったら迷惑だよね」ってフミが言い出す。言われてみたらそうだよなってあたしも思った。じゃあ、寄れないのかって残念な気分になった。なのにイチコは、


「平気だよ。あんまり騒いだりしなかったらお父さんそういうの気にしないから」とか言い出した。


そうは言われてもさすがに大丈夫かなってあたしだって思ってしまう。だけどイチコは、「いいから来てよ」って。


そう?。そこまで言われたら行かないわけにもな~っていうことで、あたしは一旦家に帰って着替えてから自転車でイチコの家に行くことにしたんだよね。スマホでイチコの家の場所確認したら、あたしの家をだいぶ通り過ぎるって分かったから。


というわけで二人と別れてまず家に帰る。「ただいま」って玄関を開けると、家の中でバタンとドアが閉められる気配がした。二階の方からだ。一瞬、何だろうと思ったけどその時はあんまり気にしなかった。親は二人とも帰ってなかったから多分下の兄貴が自分の部屋に入ったんだろうくらいしか思わなかった。


あたしもとにかく着替えようって思って自分の部屋に入ったんだけど、何かその時、本当に何でか分かんないんだけど、何かいつもと違う気がしたんだよな。それで何となく部屋を見回してみたら、本棚の上に置かれた箱が目に入ったんだ。それはスマホ用の箱だった。でもあたしの使ってる機種じゃないし、使ってたことのある機種でもない。こんな箱、あたし持ってるはずないんだけどな。


そう思って箱を持ってみたら、箱の中で何かが倒れた。重さと感触的には普通中に入ってるスチロールが入ってなくて、スマホだけがそのまま入ってる感じだった。で、さらによく見たら、その箱には穴が開いてて、中がちょっと見えてた。何かすごい違和感だった。不審過ぎる。


で、あたしは箱を開けてみたんだよ。そしたら中からやっぱりスマホが出てきたんだ。しかも動画撮影モードになってた。さらにあたしはそのスマホに見覚えがあった。下の兄貴が使ってるやつだ。


あたしの体を怖気が走り抜けた。「これって盗撮じゃん…」って思わず独り言が出た。マジかよあいつ。妹盗撮しようってか?。何だよそれ。頭おかしいだろ。


「キモっ!、キモっ!」って呟きながらあたしはそのスマホの電源切って箱に戻して、部屋のドア開けてそれを床に置いて、足で蹴っ飛ばしてやった。兄貴の部屋の方へな。死ね!、このクズ!って心の中で罵りながら。こうしといたらあたしに気付かれたこと分かって、マジで自殺でもしてくれるかもって、結構本気で考えた。って言うか普通自殺もんだろ。


ほんとシャレになんねえ。部屋に鍵が掛けられないのをマジで呪いたくなった。自分で鍵付けようかと思った。


もう一度部屋の中チェックしてみて、今度こそ怪しいものが無いのを確認してから、それでも念の為に服を全部脱いでしまわないようにして、でも急いで着替えた。さっきの気配から考えたらあいつ自分の部屋にいる筈だから、今この家にはあたしとあいつの二人だけだと思って気持ち悪くなった。


着替えて飛び出すようにして家を出た。せっかくイチコの家に行けるってんで楽しい気分になってたのに全部台無しだろって心の中で呪った。って言うか、この最悪な気分、イチコに会って上書きしてもらわなきゃと、あたしはマジで思ったね。


スマホのマップで大体の場所確認してたからとりあえずそっち方向に自転車を走らせてると、見覚えのある後姿が目に入ってきた。イチコとフミに追いついたんだ。


「ち~す」って、あたしはさっきのことはもう忘れたつもりで声を掛けた。ホントに忘れたかったんだ。「ち~す」って二人も応えてくれた。それをみて何か救われた気持ちになった。


歩く二人に合わせてあたしも自転車を降りて押す。しばらく歩きながらおしゃべりしてたら完全に落ち着いてきた。良かった。


さらに五分くらい、なんか迷路みたいな路地を歩くと、「着いたよ」ってイチコが言った。それはそんなに大きくない一軒家だった。そんなにボロくはないけど新しくもない。でも何となくイチコのイメージに合ってる気がした。ただ、玄関先があんまりきれいに掃除されてないし自転車は雑然と置かれてるし、意外と…?


「ただいま~」


イチコが玄関を開けてそう言った。すると家の中から「おかえり~」って小さい子の声で返事があった。何か靴が散らかってる玄関には小さい靴もあったから、小学生の男の子(?)がいるんだって思った。


「お邪魔しま~す」


フミと声を合わせて挨拶させてもらったら、家の奥からどたどたと足音たてて小さい子が出てきた。やっぱり男の子だった。でも、一見したら女の子にも見えなくもない、可愛い感じの男の子だった。


「おねえちゃんのお友達だ!。いらっしゃい」


その言い方がまた可愛くて、不覚にもちょっときゅんってきてしまった。あたし、そういうキャラじゃないのに。


「可愛い~。弟さん?」


いつもより間違いなく声が高くなってるフミの声に驚いて見たら、食い気味にその子を覗き込んでた。


「そうだよ。4年生。大希ひろき、ヒロ坊って言うんだよ」


イチコに紹介されてヒロ坊って呼ばれたその子は、敬礼の真似をしてあたしたちを出迎えてくれた。そしたらフミがまた「可愛い~」って。確かに可愛いけどさ。フミもキャラ変わってない?。いやでも、4年生にしては小柄だし、いかにもな悪ガキって感じとは全然違う優しい顔立ちでホントに可愛いと思ってしまった。


「そっかあ、よろしくね。ヒロ坊くん」


あたしは敬礼してくれた彼に応えるために同じように敬礼しながら挨拶した。するとヒロ坊くんはニカッって感じで笑ってくれたんだよね。


その時あたしは、自分の家であったことをすっかり忘れられてた。すっかり忘れて、すごく優しくて温かい気持ちになれてたんだった。だから玄関がかなりもので散らかってることが全然気にならなかったんだよな。


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