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「イチコの哲学」  作者: 京衛武百十
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「イチコの日常」

私って、そんなに変わってるかな?


みんなからは変わってるとか不思議ちゃんとか言われるけど、自分じゃそんな自覚ないんだけどな~。確かにインドア派のゲーム好きだからオタクだとは自分でも思うけど、今どきこのくらい普通じゃないかなあ。


でも、女子高生なのに家ではパンツいっちょで、小学生の弟やお父さんの前でも裸で平気なのは普通じゃないか。つい最近まで三人で一緒にお風呂も入ってたんだよね。だって、一人だと怖かったんだもん。頭洗ってる時とか後ろに何かいそうな気がしてさ。でもそれは、私が小学生の時にお母さんが亡くなったことも影響してるかもってお父さんには言われた。だから、私が一人で入れるようになるまでは一緒でいいって言ってくれた。大人になっても一緒に入るんだってちょっと前まで思ってたけど、高校に進学してから何だか一人でも平気になった。怖くなくなった。


お父さんは、「そうか。イチコも大人に近付いてるんだな」って言ってくれた。だけど、家でパンツいっちょなのは相変わらずだけど。これはお母さんの娘だから仕方ないんだ。お母さんなんか、マッパだったんだよ?。パンツはいてるだけ私の方がマシじゃないかな。


お母さんは、とっても楽しいお母さんだった。怒ると怖いけど、ドジッ子属性でウッカリポッカリスキルの持ち主で、よく失敗してた。お父さんとはまるで漫才コンビみたいで、ボケとツッコミの応酬は、その辺のお笑い芸人なんか目じゃないくらいだった。


なのに不思議だね。そんなお母さんでも癌とかなるんだね。癌が分かってからは、ほんとにあっという間だった。詳しいことは怖くて聞けなかったけど、すごく早かった。


亡くなる日のお母さんは、私の知ってるお母さんじゃなかった。痛かったり苦しかったししないようにってもらった薬で、ベッドの上で眠ったまま声を掛けても返事もしてくれなくて、とてもお母さんとは思えなかった。お医者さんに「ご臨終です」って言われた時も、何だか知らない人が寝てるだけにしか見えなかった。お父さんがぎゅってしてくれたけど、やっぱりピンと来なかった。


お通夜の時も、お葬式の時も、全然実感がなくて、頭の中にもやがかかったみたいに上手く考えられなくて、その時は小さくてあまりよく分かってなかったヒロ坊が退屈がってたのを、ゲームをやって見せてあげてただけだった。それでいよいよお母さんが火葬されるってなっても私はそれをただ見てただけで、悲しいとか辛いとかいうのもよく分からなかった。


でも、骨になったお母さんを箸で拾い上げる時、初めてお母さんがいなくなったんだって思って涙が出てきて、よく見えなくて、指もうまく動かなくて、上手に骨が拾えなかった。その時もヒロ坊はあんまり分かってなかったみたいだけど。


泣いたのは、その時だけだったかな。だって、お父さんが、


「お母さんは、時間の中を走る列車に乗って、楽しい仲間達と一緒に旅をしながらイチコとヒロ坊を見守ってくれてるよ」


って言ってくれたから。お母さんも私も大好きだった、時間の中を走る列車と、それに乗り合わせた楽しい仲間達の話の中に、お母さんは加わったんだって言ってくれたから。


それがただのお話だっていうことは、私だって分かってる。だけど私のお母さんって、ほんとにその列車に乗って、にぎやかにドタバタ騒ぎをしながら旅をしそうな人だったんだもん。何だか本当みたいに思えたよ。


お父さんは、私が赤ん坊の頃から、お母さんと同じかそれ以上に私のことを見てくれてたから、私がそうかもって思える話をしてくれたんだと思う。しかもお父さんは、お母さんがいた時と同じようにしてくれる。お母さんよりも家事とか下手だから上手にはできないけど、お母さんはちょっとお出かけしてるだけみたいな感じにしてくれてる。お父さんと一緒にいると、お母さんもまだ一緒にいるみたいに思えるんだよね。


お父さんのこともみんなは変わってるって言うけど、他のお父さんをあまり知らないから私にはよく分からない。私にとってお父さんって言ったらお父さんだけだから。私が話を聞いてほしいと思った時には話を聞いてくれて、私がぎゅってしてほしいと思った時にはぎゅってしてくれて、お母さんがいた時と同じように楽しい話をしてくれる。別に何にも特別なことはない、ただのお父さん。それが私のお父さんなんだ。


私にだって嫌なこととか辛いことはある。お母さんのことを想ったら悲しくなることもある。だけど、私はお父さんとお母さんの子供に生まれてきて良かったってほんとに思うよ。だって、そのおかげでこんなに素敵な友達もできたんだもんね。


みんなは私と一緒にいたら癒されるって言ってくれるけど、それは私も同じなんだよ。お父さんの知らない私のことを知ってくれてる人が、みんななんだよ。


これからもみんなと一緒に毎日を過ごしていきたいよ。


「ありがとう、お父さん。ありがとう、みんな」


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