心に尽くす
*
わめくギーズルを見て
魔女は口を真一文字にした。
「(・・・祭祀者ギーズル。ゲームの中で
こいつが何者かはよく“わからなかった。”
でも、もう“私は知ってる。”)」
手紙を肩掛けかばんにしまい
代わりにかばんの中で、強く握りしめた。
「(私は魔女だから、ー)」
行動を起こすべきだ。
それが今だということも、直感的にわかっていた。
「魔女、祭祀王をどうする。
どちらにせよ、先を急がねば、ーどうした?」
ラースは魔女の雰囲気がいつもと違うことに気付いた。
「・・・ちょっと待ってて。」
魔女はデヴ蛇改め、白蛇ドンちゃんに向かって歩き出していた。
鎌首をもたげた白蛇ドンちゃんは魔女と向き合った。
ラースは魔女の言いつけどおりというより
様子見のために、待っていた。
「(何をしている?・・・後ろ姿はまだ吐瀉物がついてるな。
そばに行くべきか?・・・いや、少し見守って、?ん?
貪食の大蛇と話をしてるのか?話ができるのか??あれと?
何っ?謝ってるのか?魔女が?!なぜ?)」
二度三度、魔女は白蛇ドンちゃんに頭を下げては
手振り身振りで説明している。
白蛇ドンちゃんは魔女を見下ろし静かに聞いていた。
その後、頭をゆっくりと振り、尾を鳴らした。
カラカラリン(翻訳:ええんやで。)
涼やかな音がした。
その音を聞いて、魔女はまた頭を深々と下げた。
白蛇ドンちゃんはその尾で魔女の頭を撫で、ついでに
背中に尾を下ろした。ゲロが取れた。
「?(何があったんだ・・・?)」
ゲロ効果?
「あの、・・・魔女さまは何をしてるんでしょうか?」
ゾイがラースに話しかけてきた。
珍しくゾイはラースがしゃべるネズミであることに驚いてない。
「・・・知らん。」
そっけない答えだったが
ゾイは怖気付くこともなく、ラースを見てにこやかだった。
「魔女さまの使い魔のラースさんですよね?」
「!」
おネズミさま、魔女以外で自分の名前を呼ばれたの
はじめて。びっくりネズミ。
けどそんな素ぶりはおくびにも出さない。
「アンデリダの森に、魔法陣を敷いていたのは
ラースさんですよね。」
心当たりしかなくて、ネズミの心臓バックバク。
それきり、ゾイは何も(聞かないし)言わない。
だからラースも何も(答えないし)言わない。
ただ、魔女が白蛇ドンちゃんと意思疎通を図っているのを
見ていたし、ラースとゾイの後ろでは相変わらず
モガモガしてるギーズルが小うるさいだけだった。
ところが、急展開は訪れる。
魔女が白蛇ドンちゃんに何度目かわからないが
深々とお辞儀をした、次の瞬間。
魔女はくるりと踵を返し、ー
「は?」
「え、なんだろ、魔女さまこっち来ますね」
「フンガーーーっ!!
(意訳:こっちくんなブスっっ!!)」
ラースとゾイ、そして後方すまき組のギーズルに
向かって全速力で走ってくる。
しかも、鬼の形相で。
ズドドドドドって効果音付き。
*
「ラースっ!ゾイさん!!どいて!!」
凄まじい気迫でいうものだから
思わずおネズミさまも、ゾイも門扉を開けたが如くどいた。
肩掛けかばんから握りしめてたものを取り出したるは ー
ダガー(ナイフ)だ。
ダガー情報:標準的な短剣。他武器に比べ
威力とリーチに劣るが軽量。
素早い連撃が可能となる。
魔女は、ダガーを握りしめたまま
寝転がるギーズルに、何度も何度も振り下ろしていた。
ザクっっ!!ザシュッッザシュッ!!
「ん゛ーーーーーっっっ!!」
魔女の向こう側から漏れ聞こえるギーズルの声に
ゾイは真っ青だった。
「そっそんなっ!!!っ魔女さまっっ?!!」
ラースはもう少しだけ冷静だった。
「ーっ(何をするつもりだ?)」
しばらくしてダガーが地面を転がる。
魔女は言った。
「っふぅっ!!
ギーズルっ・・・いや、ギーズルさんと
呼びます。
これであなたは自由です。」
ギーズルは口に押し込まれていたハンカチを取り出し
魔女の足元に投げつけた。ゾイはギーズルに近寄った。
「何が自由よ!!殺されるかと思ったわ!!」
「(僕は死んだと思いました。)」
魔女は口を真一文字にして鼻息荒く
肩掛けかばんを下ろし、ラースを呼んだ。
「ラース、かばん見ててね。」
「あ、ああ、・・・魔女、何を」
ギーズルは縛られた腕を揉みながら
魔女を睨み上げている。
魔女は深呼吸をひとつして
腹から声を出した。
「決闘しよう!!!」
「は?」
ラースは頭を抱えた。
*
「(祭祀王はゲームの中ではそりゃもう最悪で
犠牲の供えは祭祀者ギーズルによって選ばれる。
儀式中はもちろん
犠牲となる者の命が終わるその瞬間まで
感謝の祈りと、その命の尊さを伝える。
でも、あいつがそれをやったことはないんだ。
ゲームの中では、だけど。
祭祀者ギールズはその犠牲の処理を
他人に任せたきり、森から逃げるんだ。)」
魔女はゲーム上での祭祀王を思い出していた。
だが今、ゾイの手紙を読んで
白蛇ドンちゃんと話をして
祭祀王ギーズル、という人間がどんなものか
ちょっとだけわかった。
何より、魔女の記憶が告げた。
エレーミナルス王国の二人の王のことも
祭祀王の歴史も、その役割も
伝言ゲームみたいに“言い間違い”や
“言い忘れ”で、真実はねじれていったこと。
口承伝承、あるあるだ。
何より
『たたかいに身を投じつづける愚かさに
心が疲れ果てた、心優しき愚かな王。』
あのときの魔女は祭祀王をそう、評した。
実は(意味が)よくわかってない。
でも、今の魔女は思う。
「(あったま来んのはさ ー
誰かが自分を思ってくれてることに
気付いてない奴だよ)・・・
だから、決闘しよう!!」
オネエだが、祭祀王に挑む気だ。
魔女は覚えていた。
『祭祀王は、挑んでくる”奴隷”と戦わなければならない。
その座を守るため ー』
「聞いたよ、魔法使えないんでしょ?」
魔女は腕まくりしながらギーズルに聞く。
「!!っ」
ギーズルが答えないでいると
「私も今、使えないし
剣持って戦うのって斬れたら痛いじゃん?
ドンちゃんもそういうの良くないって言ってたし」
・・・ドンちゃん?
魔女、お前いつから白蛇ドンちゃんをそんな呼び方で、
・・・ご本人が、そう呼べと・・・あぁ、そう。
おティンコなくなって隙間ができたから、心も広くなった?
「だから、素手で!!!!」
拳を前に見せつけた。
「まっ魔女相手にっ女なんかと!!」
オネエだが、(一応)男の矜持がある。
だが、魔女はお構いなしだ。
「私が負ける前提で言ってるかもしれませんけど
私、最強の魔女ですよ?勝てますかね??
魔女、嫌いなんですよね?好きなだけ殴れますよ?」
煽り散らかすドヤ顔魔女にギーズルは
「(イラッ)」
口にこそ出さないが、イライラはしている。
糖分取ってないから正確な判断もできないし
魔女が嫌いなのは事実。
「っハッ!野蛮な魔女を素手でぶっ殺せるなら
これ以上の供物はない・・・。
やってやろうじゃないか」
オネエ?!オネエじゃなくなってるよ!!
男出てるっ男出ちゃってるよ!!
なんかただのイケメン祭祀王になってるって!
テストステロンがビュルビュルしちゃってるって!
テストステロンとは:主に精巣で分泌される男性ホルモン
股間蹴り上げられて、精巣が活発化したのか?
ギーズルは立ち上がった。
「ギーズルさまっ!」
「うるさい、どけ」
オロオロするゾイを払いのけ、魔女と対峙した。
魔女 VS 祭祀王の決闘が幕を開ける。
*
その瞬間を、誰が予想したか。
いや、それ以前に誰もが思うことだろう。
祭祀王に挑む者が、女であり魔女で、素手。
建国以来、はじめてのことだ。
しかも ー
「(一瞬だった・・・。)」
魔女と向き合って、殴ろうと思ったときには
そこにもう魔女はいなかった。
妙な体術のような動きで、後ろを取られたと気付いて
振り返る前に、顔面膝蹴りされていた。
攻撃力はたいしたダメージにもならなかったが
バランスを崩したギーズルは体勢をもどすも
みぞおちをえぐられるような熱さを感じた。
ドゴっっっ!!
正拳突きを食らった。
「ゔぐっ!」
吐き気とめまいが一気に襲う。
だが、ギーズルは倒れなかった。
ゾイの声が聞こえたからだ。
「ギーズルさまっっ!!がんばれぇ!!」
わかってる、と心の内で返す返すも
魔女の動きが速すぎて目で追うことすらできない。
「(くそっ!くそっっ!!
倒れるわけにはいかないんだっ
俺がここで倒れたら ー)」
飛び上がる魔女の目が、金色に光ったのを
ギーズルは見逃さなかった。
「(っころされ、ーっ)」
魔女が笑った。
「もう、無理しなくていいよ。」
「?!」
気付けば、ギーズルは大の字で倒れてた。
「(頬を殴られた・・・)」
しかも魔女に膝蹴りもされたから、鼻血も出てる。
「(一発も入れらんなかった・・・)」
情けなさと、屈辱が空回りする。
やだ、オネエ泣いちゃう。
ゾイがギーズルに近寄って泣きついた。
「ギーズルさまぁっっ死なないでーっ
僕を一人にしないでくださいぃぃっ〜!
こ、こんな血が出てっどうしよう!
ギーズルさまが死んだら僕も死にます〜ぅっ」
「うるさいわね、死んでないわよ!おバカ!!」
すすすーっと、白蛇ドンちゃんがギーズルに寄ってきた。
ギーズルに顔を近づけたかと思うと
舌をチロチロと出して、鼻に突っ込んだ。止血のつもりらしい。
「どっ?!?!?!ぐえっぶゔぇっ!!!」
ギーズルは声にならない声をあげた。
魔女も寄ってきた。
「・・・大丈夫ですか〜?」
ギーズルの横に座り込んだ。
白蛇ドンちゃんの舌が鼻から抜け、ギーズルは天井を見たまま言った。
「早く殺せよ、ただゾイだけは
自由にしてやってくれ。あいつは関係ないんだ。
俺の首さえ持ってけば満足だろ。」
ギーズルは言いながらも落ち着いていた。
「へ?首?」
魔女は首を傾げる。
「だから、ー」
「殺しませんよ!!どっちも殺しません!」
魔女はキッパリ言った。
そして、天井しか見てないギーズルの視界に割り込む。
「その代わりにゾイさんに“ありがとう”って
言ってください。」
「は?」
ギーズルは起き上がった。頭がクラクラする。
軽く脳震盪を起こしてるかもしれない。
魔女は急に起き上がったギーズルにのけぞりつつも
続けた。
「ゾイさんがいてくれたからやってこれたし
今までたくさん助けられてきたんでしょ?
ゾイさんがいなかったら
とっくの昔に 諦めてたんでしょ?」
「ーな、何を!」
ゾイは不安な顔をした。
魔女は笑顔だ。
「悩んでることも
秘密にしてくれたし
励ましてくれたし
ゾイさんは、いつも
い〜っつも応援してくれたじゃん。」
「ー!ま、魔女に何がわかるっ
俺は祭祀王だ、このアンデリダの森を ー」
魔女は、”あー、はいはい、それね”と小さく言って
「わかるよ、最強の魔女だもん。
いいじゃん、魔法使い。なったらいいんです。
私が決めたんです。だからいいんです。ね?」
ピースサインして見せた。
「だが俺は魔法は使えない・・・」
ギーズルは自分の掌をじっと見ていた。
魔女はギーズルの瞳を見た。
ー エメラルドグリーンの綺麗な目をしていた。
ギーズルの瞳が揺れた。
アンデリダの森が朝を迎えたときみたいな色だ。
「なんだよ、目ん玉えぐろうってのか?」
どこかで聞いたことのある台詞だ。
「うげっ、そんなことしませんよ〜ぉ
こわいなぁ〜。犬に食べさせませんよ〜。
で、でもぉ〜、あ、あの〜。
せっかく鼻血止まったと思うんですけど〜ぉ
ちょっと〜ぉ、呪いを解きたいっていうか〜ぁ」
急に魔女がモゾモゾ。
「呪い?なんのことだ」
ギーズルは怪訝な顔になった。
「ドンちゃんに呪いをかけたんじゃないのか?」
「そ、それが〜ぁ」
魔女はチラチラとゾイを見た。
ゾイは目をそらした。
「(おいっ!従者、てめーっ
すべての罪を私にかぶせようってか!?)」
口に出そうだった、が。
「(・・・でもまぁ、ゾイさんは
この日のためにギーズルさんの魔力を封印して欲しいって
言ってたんだし。ドンちゃんも許してくれたし・・・
いっか・・・)」
覚悟は決まった。ギーズルの質問に答えず
「ごっっごめんなさーーーっイィ!」
ズビシィッッッ!!!
「っっお゛ぉっっ」
おもっきり、デコピンした。
額からのぼるかすかな煙に、確かな光が混じった。
「魔女さまっっこ、これでほんとに
ギーズルさまは魔法を使えるように!?
本当に使えるんですか?!」
「う、うん・・・多分?」
魔女自身、やったくせに疑心暗鬼だ。
「(ドンちゃんがそうしろっていうから
したんだけど・・・)」
またしても大の字で倒れていくギーズルは
今度こそ気を失った。
*
夢か現か、ギーズルは声を聞く。
『ギーちゃん。ギーちゃん、聞こえる?』
「う、う〜ん・・・誰?」
『私だよ、貪食の大蛇って呼ばれてるけど
ギーちゃんだけはドンちゃんって言ってくれたろ?』
「・・・?!っドンちゃん?!?」
『いつも話しかけてくれてたろ?
私が気持ち悪いときも、さすってくれたろ?
ようやく、君と会話ができるよ』
「ドンちゃん・・・俺、俺は
ずっと祭祀から逃げて、そのっ魔法も使えなくって
ドンちゃんとも対話できなくって、森とも、そのっ」
『いいんだ、逃げたっていいのさ。
ギーちゃんは真摯に森と向き合っていたよ。
魔法の封印も解けたよ、今までの礼さ。
痛かったろう?悪かったね。
だから魔女を怒らないでほしい。
私は竜のなりそこないだからね
ギーちゃんの魔法を覚醒させる方法が
それしか思いつかなくってね。』
「ドンちゃんっっ!!ありがとう!」
ギーズルはドンちゃんに抱きついたし
ドンちゃんもまた、ギーズルを尾で撫でた。
『君の大事な人らが、君の幸せをいつも祈ってるよ。
それは人じゃないかもしれない。
人間は、それを忘れがちだ。』
「ーっうん、うん、わかった。
ドンちゃん、ありがとう、ありがとう」
『ああ、もう時間がないんだ。
ギーちゃん、私は行かなければならない。』
「ど、どこへ?!」
『ふふふ、ときがめぐったのさ。
・・・祭祀王ギーズル。
またどこかで会おうぅんわぁおぉんわぁおぉぉん』
?
目を開けたら、耳元でわんわん泣いてるゾイがいた。
いつもならうざったいって、退かすけど
ギーズルはもう、そんなこと思わなかった。
「ありがとう、ゾイ、・・・いつも、ありがとう。」
それを横で見てた魔女、もらい泣き。
えずき過ぎて、吐くかと思った。
*
ギーズル情報:照れくさいけどゾイに感謝を言えて
よかった。
糖分取ってたら、魔女に勝てた。
ゾイ情報:待つだけってのも根気がいるんです。
チョコ持参。いつでも出せます。
ラース情報:ギーズルとゾイ見て
感動はしないけど
よかったな、程度。うそ。
色々込み上げてた。




