魔女に願う
*
「食べてないっ食べてないって!!
そっっそんな、ぃモニョモニョけいなんて
食べてないっって!!!何それ!」
口に出して読みたくない言葉。
「だからあれほど拾い食いするなと!!
今までよく腹を下さなかったのが不思議なほどだ!」
おネズミさま、説教こきつつも
鉄壁の股間ガード。万が一がある。
「たっ食べれるものしか拾ってないもん!!」
きっと魔女ならパン屑だって拾う。
「落ちてるものを拾うな!!」
おネズミさまはネズミだけど、落ちてるものは拾わない。
「おティンコが落ちてるわけないじゃない」
そうだね、一般的にも落ちてないね。
「ギーズル様っっ!ご発言をお控えください!!
高貴なるお方が口にして良い言葉ではありません!
祭祀王のお立場がありますっ」
「うるさいわね、アタシの格好見てから言いなさいよ。
高貴なる祭祀王のお立場ともあろう方は
今どんな格好してんのよ。」
すまきだね。
罪人スタイルだね!!
ガミガミお小言を連ねるラースの横で魔女は
ゾーンに入った。
「(ひょっとしたら、まさかの拾い食いって可能性もある、
まさかの坂ってね・・・くそ〜ぉっ
でも、このゲームの世界にきて魔女になってから
ゲームの中だけのアイテムがどんなものか
興味はあったのは事実。だって気になるじゃん。
大抵は薬草やら毒消し草やら、回復アイテムだけど
その辺に生えてる草花だって、アイテム生成に必要だったし
エレーミナルス王国のアンデリダの森は
他の国と比べて回復系アイテムが豊富なんだよぉ。
今のうち拾えるだけ拾っとかないと。
抗虫なんて団子玉作るのにも必要だけど
私は口にはしてないよ。流石にキモい・・・でもさ、
木の実とかはいいじゃん。落ちてたって食べれるし
拾ってポイと口に入れた。美味しくなかったけど。
ラドの実欲しいんだけどここじゃないし。
けど、食べちゃいけないものぐらい、私にだってわかる。
その、ぃ・・・んけいも。だいたいおかしいよ!
あの、ギーズルがおかしいんじゃないの?
普通食べないでしょ、そんなもん。
落ちてたって食べないよ。ーうん。)」
やっぱり、食べてないー、私は無罪だっ!
と言おうとした。
するとギーズルは魔女の言葉を遮るかのように言った。
「魔女。・・・アンタ、ドンちゃんのおティンコが
金のナナカマドだって知ってて食べたんでしょ?」
ファーーーーーっっ!!!
(ゴルフ用語で危険を知らせる警告の掛け声。
スコットランド語由来)
「は?」
魔女、豆鉄砲を食らう。
ラース、魔女ガン見からの
「ーっなっなんだと?!金のナナカマドはっ
貪食の大蛇の性器なのか?!」
そうらしいよ。タマヒュンネズミ。
「あら、知らないなんて言わせないわよ。
魔女、アンタがドンちゃんにかけた呪いじゃない。」
ギーズルはゾイにすまきのまま起き上がらせ
座り、魔女を見た。魔女と目が合う。
「ふんっ! 勝手な女だわ!!」
魔女は真っ青な顔しつつ、脳内確認中。
「(なっなんだってーーー!!
あ、あれってナナカマドじゃないの?
え、ナナカマドだよ?!ゲームじゃ
あれが金のナナカマドだっていう認識で
わ、私、・・・飲んだな・・・。
ナナカマドで合ってるよね。
ナナマカドじゃないよね。)」
もうゲシュタルト崩壊の域じゃない。
魔女、ダラダラと変な汗がではじめる。
静かにしているデヴ蛇ドンちゃんをソロ、とみれば
口をモゴモゴしてはいるものの静かだった。
「(ごめんっデブ蛇とか言って・・・デブ蛇さん)」
変わってねえよ。“さん”付ければいいもんじゃねえ。
ラースは魔女を見て言った。
「手のひらに乗せて、グリグリしてたな」
「トゲトゲ付いてるって言った・・・。」
魔女、うなずき一回。
「お前、二個あるからって食べたな」
魔女、うなずき二回の言い訳。
「二個もいらないって思ったんだもん・・・。
っていうか、そのっ!デブ蛇さんって
あの、アレが二個あるって普通なの?」
口に出さない代わりの便利な指示語。
こ(れ)、そ(れ)、あ(れ)、ど(れ)言葉。
ラースの深い深い、ため息のあと。
「・・・蛇のオスは半陰茎と言って
二股に分かれた器官を尾の付け根に
左右一対隠し持ってるんだ。」
「!! うそっ!なんで教えてくれなかったの?! 」
「?? 金のナナカマドがなんであるか
私は知らなかったのだぞ!知ってたら止めてた!! 」
同じ雄として生類憐みの思いやりに
ショボーン、魔女。無知は罪ね。
ラースは続けた。
「魔女は金のナナカマドの情報は知ってたのか?」
「デブ蛇さんを倒したら金のナナカマドが
手に入るって言うのは知ってたけど
それがまさか、えっと
デブ蛇さんのアレだとは知りませんでした〜ぁ・・・
わ、悪いことをしたけど、知らなかったんですう〜。」
これは何の事情聴取でしょうか。
こほん、ー ラースの咳払いがひとつ。
「神話上のものだ。呪いの解呪に必要だという
三つのうち金のナナカマドも、それにまつわる話も。
だが魔女、貪食の大蛇にその呪いをかけた、と言うなら
話は別だ。どうしてそんな呪いをかけた?」
「え?そ、それはその、えっとわからな」
「あの、 ー」
従者ゾイが口を開いた。
「僕が、・・・僕が魔女さまにお願いしたんです。」
ゾイは魔女を見た。
「え?(し、知らないんですが)」
魔女はわからないことだらけで
どう答えたものか、と下を向いた。
だって、三者の視線が痛い。
「(ラースはなんかずっと怒ってるし
ギーズルは非難するような目だし
ゾイは期待するみたいな目だし・・・)」
その中で、ゴロゴロゴロと地面が響くような音を聞く。
「? (なんだろ、この音・・・
地震?じゃないな・・・)」
段々近付いて来てる気がした。
地響きに近いような音に、顔を上げれば
ラースはすでに魔女から距離を置いていた。
「え、ラース、なんでそんな離れて」
「魔女、諦めろ」
ギーズルはゾイに抱きかかえられ、同じく移動。
「天罰よね」
ニヤリ、ギーズルはどこ吹く風だ。
「魔女さまっそこから早く逃げたほうが」
ゾイ、人として助けられる最後の善意。
薬草の香りが強くなった気がして
「え?なに、ーが」
魔女は顔を真上に向けた。
黒い影が魔女を覆った。
「あ」
グエェッッっゔぉお゛ろろrrrrrrっ!!
デヴ蛇ドンちゃん、魔女の頭上からリバース。
ご本人が見事、ティンコの仇を討った例である。
胃もなんかスッキリした。
「(まっっまた、ゲロぶっかけられた!!!)」
ゲーム上で5回、リアルではじめてのゲロは
団子玉くさかった。
全身、ぶっかけ。
*
ー 親愛なる 魔女さま
どこから話せばいいのかな、ー そういえば
ギーズル様は最近よく眠れないみたいです。
きっと
怖い夢を 見ているのだと思う。
僕は、ギーズル様に馬鹿みたいに繰り返し
言うんです。
「眠れなくなる原因のことや
悩みは 考える時間を決めたほうがいいですよ」
って。
どうせ考えたって 答えなんか出てこないんだ。
僕は、ギーズル様には幸せになってほしいんです。
みんな見た目とか
才能とか
環境ばっかりに目が行って
中身のことなんか知ろうともしない。
ギーズル様の悩みなんて
眠れなくなるほどの 心の苦しさなんて
誰も見てない。
だって、そうだろ?
それぐらいにしか 見てないってことなんだから。
僕の自己紹介をします。
ゾイ。ー ゾイ・ガーバンディと言います。
二十三歳の男で、ギーズル様の従者です。
あぁ、魔女さま
僕はどこまでギーズル様を助けられるだろう。
僕は、貧民街の捨て子だったそうです。
体力のある者は、奴隷として売られていくし
知恵のある者は、教会の下働きとして引き取られて
そのどちらにもなれないやつは、男であろうが女であろうが
春を売るんです。年端もいかなくったって
生きるためですから、そのうち変な病気にかかって
その辺で死ぬだけです。
僕は本当にずるいやつで
教会にうまく引き取ってもらえるように
教会長の”エロ親父”に微笑んだんですよ。
あいつ、幼い年頃の男の”子”が好きで
当時の僕は、格好の餌食です。
やりたくてやったわけじゃないですよ、誤解しないでください。
最低だ、思い出すと冷や汗が出ます。
でも、このまま貧民街でのたれ死ぬのは嫌でしたから
生き残り戦略ってやつです。
毎日毎日、教会の下働きをした後に
読み書きの練習をしてる時間は楽しかったです。
ご飯も満腹にはなれなくても、与えられます。
字がうまく書けるからって、本を写す仕事もたくさんしたし
本だって読める、買い物で街に出れば 看板の字が読める。
教会の中に流れる歌も歌えるんですけど、嫌いでしたね。
(何が”天国は此処に”、だよ、ー 滅びちまえ)
口汚くなってお目汚し、すみません、事実です。
僕が十三歳になった頃、慰問って形で
マロー家のギーズル様が教会へ来たんです。
マロー家は代々、祭祀を司る家で
その歴史は長いって教会長は言ってました。
当主様のマロー様は
一時間も教会の礼拝堂で
たった1人、祈りを捧げてました。
ずっと祈ってました。本当に。
魔女さまはここを読んで
意味ないって笑ってますよね?
わかります。
ギーズル様は
優しくて
賢そうで
綺麗な顔立ちの
僕が教会の歌を歌うときに想像してた
救いの手を与え、守る、
守護天使さまのようでした。
僕が写本した本を持ってたギーズル様は
筆記体の書き方を教えてほしいと
おっしゃって。
外国語の本の訳が知りたいからって
新しい本が難しいからって
僕に聞いてくれるんです。
嬉しかった。
誰かのためになるなら
自分の力が、誰かの役に立つのなら。
精一杯教えました。
そうしたらギーズル様はおっしゃったんです。
「ー 君は 僕の侍従になるといい」
僕は認められたのです。
教会長の気持ち悪い顔、二度と見なくて済むなら ー
もう体を 舐め回されなくていい。
僕はその年から今までずっと
ギーズル様と一緒にいます。
アンデリダの森には秘密がある。
祭祀王となる者だけが知っていること。
古代より伝わる儀式を行えるのは
祭祀者である当主だけ。
そして、魔法が使えること。
当然、ギーズル様も使える。
ギーズル様は、持って生まれた才能と
類まれなる努力の結果で
マロー家において
何百年ぶりかぐらいの
優秀な魔法使いにもなれる力を付けた。
ギーズル様は、魔法を使うとき
いつも
ここではないどこかに意識が繋がる、って言う。
けど、その魔法は
攻撃も、防御もするものじゃなく
伝えるだけ、の魔法だって。
魔女さま、わかります?
僕は魔法は少し使えるけど
理解は無理です。
ある日、ギーズル様は
魔法書を持って、言ったんです。
「ゾイ、僕は、魔法使いになりたいな」
なれますよ、と言ったけど
そんなのが許されるわけがない。
マロー家は祭祀者の家だから。
そして、アンデリダの森の祭祀が
どんなものか・・・
ギーズル様はよくわかってるんです。
それが、ギーズル様の心を蝕んだ。
だから
僕は、ギーズル様が眠るまで
部屋の壁際に立って、お話しごっこだ。
「ーちょっと!アンタ聞いてんの?!」
「はーい、聞いておりま〜す」
「”デロワ”のケーキよ、覚えた?」
「・・・」
「ちょっと寝てんじゃねーよ!」
「っぷ、寝ておりませんよ。起きてま〜す。」
「明日買って来なかったら、シメるわよ」
ってな具合にね。
話し方に癖があるのは、今度お会いしたら
その理由をお話しします。
そんな会話をしてるうちに、ギーズル様は少しだけ
本当に少しだけウトウト眠るんです。
ー 僕の心に、願いを積もらせながら。
「(少しでも心が休まりますように・・・)」
僕が少しだけでも魔法を使えたから
こうしてお手紙をかけたんだと思います。
うまく、届いたかな?
魔女さまに言われた通り、僕は準備をしましたよ。
『いつ来てもいいように準備しな』
ー 僕は祈った。神様にじゃありません。
魔女さま、あなたです。
あなたが、ギーズル様をお救いくださるのなら
そのときこそ
僕は、恩返しできるんじゃないかって。
魔女さま、
あなたがこの手紙を読んでくれるといい。
ギーズル様がこの苦しみから抜けるチャンスを
僕はこのチャンスに賭けたい。
我が主、ギーズル様に・・・
もう、無理しなくっていいって
そう言ってほしいのです。
あぁでも!
バレないようにしないと。
ギーズル様にバレたら、きっと鼻フックされる。
あの人、そういうところ勘が鋭いんです。
オネエだって、あれは表向きですよ。
自己防衛してるつもりなんです。
おもしろい人でしょう?
言葉遣いは
僕と2人のときは、もう少し口が悪いですけど
性格はとても優しくて、いい人です。
魔女さま、
僕は、ギーズル様には幸せになってほしいんです。
だから、ギーズル様に死んで欲しくないんです。
このままでは、あの杖に
あの杖の”石”に
ギーズル様の魔力は 核ごと奪われてしまう。
僕が供給できるうちは頑張ります。
最近じゃ
大好きなお菓子も口にできないぐらい
体力すらも奪われている。
毎日、祈っています。
今日こそ、今日がその日だって。
あぁ、もうすぐ朝になります。
今日が、魔女さまにお会いする、日。
お会いするのを 楽しみにしております。ーゾイ
追伸 ギーズル様はきっと
魔女さまをすごく痛めつけるかもしれませんが
最強の魔女だし、大丈夫ですよね?
*
【おまけ補足情報】
ギーズル情報:虫嫌いなのは本当。
トラウマ二段生成法。
昔、木陰で本を読んでいたら
上からカマドウマが降ってきたのが
第一のトラウマ。
次の日に部屋の天井にムカデを発見。
見ないようにしていたのに
顔面に落ちてくる恐怖体験にて
無事トラウマ完全発動。
ゾイ情報:教会で培った処世術により
誰とでもそつなくこなす。
自然体でナンパする。
勇者二人情報:厳正なるじゃんけんにて
スージーをどっちが運ぶか
決めてる。
ディオやや有利。
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