プロローグ:はじまり
【!注意!】この話は2022年に ”小説家になろう” で掲載したものを加筆・修正し、改稿したものです。
冒頭、些事だ。
人の善意に仕えなければ、悪意に仕えるものでもない。
ただ、自然の力を制御する、そんな超自然的力は
その力の用い方によって、結果としてそのいずれかになるだけである。
潜在的にそうあるのか
もしくは現実的で確固たる信念でそれらを支配したのか、は別である。
この物語は、そういう話だ。
*
目がぼやけてるからか、よく見えなくてぼーっとしてる。
(ここはどこだろ、暗い・・・
埃臭い、カビみたいな匂いに・・・
あぁ、体が動かない。・・・体が痛い。
何かが、なんだ?何か体に乗ってる。ブロック?
違う、そんなに重くないゴツゴツしたものが・・・。)
体中痛くて動かせない中、指先だけが地面から体の上に乗るものを確かめるように伝う。
腕を少し持ち上げようとするだけでも痛みが体を走る。
(もう少し、もう少しだけ・・・動け。)
意識せずに震える指先が不安を堪えてる。
思うように動かせないのは、きっと全身を強く打ったに違いないからで暗闇の中にいる不安からじゃないって言い聞かせるように、口に出す。
「大丈夫、・・・大丈夫・・・」
後にそれが、別の理由だったという事実でも。
小刻みに息を吐く。ようやくたどり着いたものが指先に触れる。
そろり静かに撫で、形を確かめる、しばし動きが止まった。
『?!(こっこれは)』
確信と同時に手にした。
カビ臭いのはこれのせいだ。
・・・あぁ、本だ。
本に埋もれて・・・?本??
体の軋みに耐えながら本を押し退け、上体だけ起き上がるとより一層の痛みが頭にある。
痛むところを恐る恐る触れると、生あたたかさを感じた。
カビの匂いに混じった匂いー。
(血だ、ーまじか。)
本の“角”に証拠を見つけて犯人確定。
「痛いはずだよ」
手先に付いた血を見ても、まだ目は霞みがかかったみたいでよく見えない。細目で手に持つの本の角を見た。
「豆腐の角じゃなくて本の角だもんね、立派な凶器だわ。」
感覚で分かるのは額を血が流れてると分かれば只事じゃない。
「あっ」
力の入らない手から滑り落ちた本が落ちると同時に、手に光が溢れた。
「っ!な、何、何?!」
白い光は3つの玉に分かれ、手の周りをまわる。まるでイオン分子みたいだ。
「(?あれ、この光のエフェクトどっかで・・・)」
手を持ち上げ、その不思議な動きを見ながらも頭へ持っていってた。
「(これが幻覚で、夢かもって話。)」
心のつぶやきのまま痛む箇所に当てた。
大した理由じゃない。ただ、なんとなく、だ。
生あたたかいぬるっとした感触に、こりゃ大した理由だと思い直す。
「(多分、頭切れてるな〜・・・病院行ったほうが・・・?!)」
瞬間、その感触も痛みも消えた。
「え?うそ・・・マジで?」
(治った?血が出てた所を撫でても、手に血も付かない。
え、ほんとに?うそーん)
もう一度確かめる。
「痛くない、な。」
手を下ろし、じっと手を見る。光ってない手は、すでに暗闇に紛れてその詳細はわからなかったけど、血はついていない。
「(なんじゃそりゃ。)ふぅ・・・」
代わりにため息が辺りに漂う。
(とりあえず、この本の山から脱出しよう。)
折り重なる本の山をゆっくりどかし、よろめきつつ立ち上がった。
「うっっ」
腰がものすごく痛い。
(頭の次は腰か・・・これはもう事故。)
アザくらいにはなってそうだ。
腰をさすりながら本がすっかりなくなった棚を見上げる。
棚から下へ目線を移せば本の山の中心から外れて、小さな踏み台が倒れてる。
(本を取ろうとして転んだの?私が?え?なんで。
本なんてこの何年も読んでない、・・・あれ?)
意識は何だかおぼつかない。
(何してたんだっけ・・・)
薄暗くも目が慣れてきたからか、近くのものが判別できる。
木板の床には、埋もれていた本の山とは別に床に直置きされ積まれた本の小山。
腰までありそうな丸や縦長の壺が大小。
(掃除してないって感じの部屋)
水たまりのような液体も見て取れる。
倒れている背のない丸椅子一脚と、散乱してる状況を見るに付けー。
「汚っ・・・きったねえ。ほんと・・・なんか・・・
(あそこに倒れてたと思いたくない。暗くて良かった。)」
思わず口を突いて出た言葉の汚さよりも、部屋の汚さが勝ってるからつい。
心細さを誤魔化そうとしたのかもしれない。だから誰もいないと思うけど、あえてもう少しマイルドな悪口を言った。
「それよりこの匂い。カビ臭いの、なんとかなんないの?もう」
誰もいないことの確認ついでに、鼻で息をしないように周りを見渡す。
天井を見上げれば、吊るされた枯れた草花。
シミだらけの汚い机の上には書き殴られた紙、ゴミ、古ぼけた瓶 ー。瓶?
腰をさすりつつ机に近づいて、無造作に並べられている瓶を覗き込む。
「ん?なに?光って、る?」
キラキラと眩しい光が瓶の中で縦横無尽に動いている。
「わ〜、キレイだなぁ〜、蛍かな。
ん?・・・?アレ??」
瓶を見つめる瞳とさすった腰の手が止まる。
瓶の中を動き回る光の正体を見て、鮮明な画像が浮かぶ。
「っっは!!!」
声にならない声が息と一緒に出る。
(こ、これ、知ってる。いや、知ってるっていうか
見たことあるっていうか、ええとー)
頭の中で整理する。だが目の前の光がちらつく瓶と
見知ったような風景に思考がまとまらない。
(ダメだ、口に出そう)
以下、割と大きめな独り言だ。
「私はこれを知ってるね!うん!知ってるもんね!
あれだよ、あれ!えーと・・・」
言葉にすることに躊躇する。
(だって、・・・)
見知った風景に見慣れた画面。
親の顔より見た場面。
生唾を飲み込む音で意識する。
(・・・え、ほんとに?て、ことは・・・)
もう一度だけ周りを見渡した。
(間違いない。)
意を決した。
「・・・これは、"キングダム〜真実の愛物語〜”だ・・・よ〜ん」
確信はあるが、声はポツリ自信なさげだ。
またしても誰かに向けたように言ったのは、現実感をなくすというより
孤独感を打ち消す気持ちの表れと言っていいだろう。
心細さが言葉に溢れる前に、声は途切れた。
ここはゲームの世界。いざ言葉にすると、躊躇は明確な後悔になった。
(口に出さなくても良かった。ゲームタイトル・・・
もうちょっとこう、あっただろうに・・・。だって)
口にした途端に襲ってくる後悔は絶望へと変わる。
(だって、そんなまさか、じゃあこれは・・・)
言ってしまえば、その”まさか”だ。絶望に混じって混乱する脳内に日常生活の一部分がよぎる。
(まさかー)
『人生には坂が3つあるんだそうです。
上り坂、下り坂、そして「まさか」の坂ってね!!
え〜、なのでみなさん!!!
今日も一日、困難を力強く乗り越え、前向きに頑張りましょう!!!』
「(”まさか”で思い出すのがこれか〜・・・)」
会社の上司が月初の定例会で、メモを読み上げながらにこやかに言った。
「(言う割にはすぐ帰るくせに)」
こんな時まで頭の中で繰り広げられる上司のスピーチにムカついた。
「(しかも上司毎回3分スピーチって言いつつ、3分で終わったためしがない。
こっちは引き継ぎで忙しいのに変な体操させられるし。
・・・カラオケでも「なんだ坂こんな坂」って歌ってたな。
・・・関係ないけど。)」
あー、それ汽車ポッポだね!古すぎであるとかそう言う問題ではない。
ムカつきすぎて、カラオケで歌いたくなかったのに、上司とデュエットという古の儀式までさせられた上、生まれてもない時代の歌を歌わされたのも思い出す。
(こっちがSOSなんだけど)
それ、歌の歌詞だね。歌詞とは違う意味だけど言葉だけ合ってるね。
あっちは乙女の危機だったか・・・。
瓶の光が点滅するように光った。
この現実を励ましてくれているのか、それとも警告か。
点滅する光を見て、つぶやいた。
「夢オチって可能性も・・・」
否定するみたいに光が瞬いた。




