312話 年越しの宴
年齢が数えだったときは、正月の意義が違っていたのかな。
館に代表が来て、食堂で月1回の連絡会が開かれている。主催者は代表だ。
僕は出席しないのが通例だが、今回は年末なので出席している。
「それでは、年末年始のお休みは、12月30日から、1月6日までということでよろしいですね」
「うん」
代表に向けてうなずく。
さっき聞いたところによると、エストとルネはそろってどこかへ数日間出掛け、リーアはテレーゼ夫人のところに会いに行くようだ。
「では1月1日から4日までは、誰もこの館に居ないことになるので、その間は警備員を駐在させます」
「よろしく。お向かいは?」
アデルの所のことだ。
「ほぼ同じですね。よろしいですか。他に何か? はい。では防火に気を付けて下さい。よろしくお願いいたします」
「「「お願いします」」」
終わったようだ。
その後、応接室に移動して、細々としたことを打ち合わせて、代表は帰っていった。
大変だな、彼女も。この館ができてやることが増えたし。まあ、ウチのエストもヨハンナさんも優秀だから大丈夫ですよとは言っていたが。
†
主に3月の学会特別講演の原稿作りを中心に、気分転換に魔導光複数発振の制御ソフトウエア作りで、年末は忙しなく過ぎた。もちろんアデルが出演する年末公演も見に行った。観覧券が非常に取るのが厳しい状態になって居るようだ。僕は、後援会に入会しているおかげで、優先的に手に入れられるようにはなったが、逆に日程は絞られる。
「いらっしゃい。レオンお兄ちゃん」
「おお。ヨハン君。大きくなったね」
12月も押し詰まってきた28日。ちょっと早めにダンカン叔父さんの家にやって来た。
「うん。もうすぐ7歳だもの」
「そうだね」
「お兄ちゃんは?」
「17歳になるよ」
「じゃあ、10歳違いだね」
うれしそうに笑う。
「ああ。そうだ」
ん?
「彼女は、いつも勉強を教えてもらっている。ティアナ・ラーセル先生だよ」
見ない顔の女性と思っていたが、この人がそうなのか。
「従兄のレオンお兄ちゃんだよ。ほら。クリ、クリス、クリスタペンを作ってくれた」
クリスタルペンだよ。
「初めまして」
「こちらこそ」
無表情で会釈したように見えたが、片眉が上がる。
「不躾ですが。サロメア大学に、ご在学と聞きましたが」
「いえ、先輩。大学にはおりますが、この7月に卒業しまして、今は研究員をやっています」
「そうでしたか」
先生はうなずいたが、はっとした顔になる。
「なぜ、私が卒業生だと?」
「はい。ディア、ああいや、あなたの姪であるクラウディアさんから聞きました。あなたが、魔導学部の1期生だと。彼女は友人です」
謹厳そうな表情が、高速に揺れ動いたものの。やや無表情気味に戻った。
「そうでしたか。その様子だと、ディアも状況がわかっているようですね」
「はい」
「えっ? 先生とお兄ちゃんは、知り合いなの?」
「ああ、今日初めて会ったけれど、共通の知人というか、私の知っている人を、彼も知って居たというわけ」
「そうなんだ。へえ」
「ヨハン君。今日の授業は終わりにします。部屋に戻って後片付けをなさい」
「はい。先生」
廊下から、ヨハン君が居なくなった。
「伝手から、ディアはサロメア大学に入学したとは聞いていたけれど。世の中は狭いわね」
「これは言うべきことではないかも知れませんが……ディアは、あなたに会いたがっていました。でも、ご実家から止められたと」
「そう。本家のやりそうなことだわ」
「あと、3年生になったので、将来について悩みがあるようです」
「3年生か……ひとつ訊きたいのだけど」
「何でしょう?」
「クラウディアは、どこに住んでいるか知っている?」
「北寮、女子寮です」
「わかった。ありがとう」
ティアナさんは、胸に手を当てて会釈すると、踵を返した。
†
応接室で30分ほど待っていると、アデルとロッテが着いたようだ。しばらくすると、2人が部屋に入って来た。
「レオン君。早いわね」
「やあ、ロッテ。ひさしぶり」
「あっ、ああ……うん。ひさしぶり」
一気に真っ赤になった。自分でそう呼べと言っていたのにな。
「アデルも」
「うん」
言うが早いか、アデルはソファーの隣に尻をねじ込んだ。
「元気だった?」
「うん」
僕の腕を取って抱え込む。
「えっ、ええ?」
「なによ、自分だけ呼び捨てにしてくれると思った?」
「お姉ちゃんが、なぜ知っているのよ」
「あぁら、姉を出し抜けると思ったら、大間違いよ」
ロッテは僕をにらんだ。
「でも、お姉ちゃんは、と、年上じゃない。3つも。それより、レオン君から離れなさいよ」
「いやよ。私はおおらかなのよ。好きな人にはねぇ」
「ぐぐぐ」
「あら、いらっしゃい。レオンさん」
「叔母さん。本日はお招きいただいて、ありがとうございます」
立ち上がって、会釈する。
「いえいえ。レオンさんは、もうウチの家の子も同然だから、もっと頻繁に来てくれるとうれしいわ」
ロッテが、後ろで口をパクパクさせていた。
†
「また年末になった。年越しの儀式としては早いが。皆が揃ったのをうれしく思う。レオンもアデルも良く来てくれた。ロッテもよく帰って来てくれた」
ロッテは微妙な顔だが、他は……皆、満面の笑みだ。
「おめでとう」
「「「「おめでとう!」」」」
僕が持って来た発泡酒を注いだグラスを傾ける。
「おいしい」
「おいしいわね、レオンちゃん」
「うん。ちょっと奮発した」
「僕も飲みたいなあ」
「あら、だめよ。ヨハンは。15歳にならないとね。葡萄ジュースもおいしいでしょ」
「おいしいけどさ」
「ヨハン君」
「何? レオン兄ちゃん」
「7歳のお祝いだよ」
「お祝い?」
ちゃんと期待していてくれていたようだ。
「はい、これ」
「わあ、ありがとう。長い箱だ、ペンかな? 開けていい?」
「もちろん」
おお。前はロッテに頼っていたけれど、自分で解けるようになっている。ちゃんと成長しているんだなあ。
「ええ、なにこれ?」
ヨハン君は、箱から棒状の物を取りだした。
「はぁ、綺麗。透き通っているわ」
横から、アデルとロッテが興味津々に見ている。
「やったぁ、うれしい。すごくかっこいいよ」
よろこんでくれているな、それが何かはわかっていなさそうだけど。
「棒だけど、三角?」
「これは何なのかしら? なんだか凹んでいるわね」
断面は概ね三角形だが、緩やかに弧を描いて内側にえぐれている。無論すべての角は丸く面取りしてあり、無造作に掴んでも痛くないようにしてある。
「そうね。目盛りが刻んであるけれど」
「定規です」
「定規ってのは、木の板で作るものじゃ……ヨハン、ちょっと貸して」
「えぇ。ロッテ姉ちゃん。ちょっとだからね」
渋々渡している。
「ケチなことを言わないの。あれ? なんか目盛りが違うわ。こっちは1ミルメト刻みだけど。あん。お姉ちゃん!」
アデルが取り上げた。
「本当だ。刻みの間隔が違うわ」
「ああ、地図用の目盛りです」
「地図!」
「そっちの方は2万5千分の1で、4ミルメト刻みなので、1目盛りは100メト相当です」
「おおぅ、こっちは?」
「20万分の1で、5ミルメト刻みなので1目盛りは1キルメトです」
「わあぁ」
「なるほどね。地図の上で使うと、距離がわかるのか。返すわ。ヨハン」
「うん。ところで定規って何?」
†
「お招きありがとうございました」
「うん。また来るわ」
晩餐が終わって、もう9時になった。
アデルと僕を、叔父さんと叔母さん、それにロッテさんが見送ってくれている。
「ああ、そうだな。2人とも。いい新年を。辻馬車を呼ばなくて大丈夫か?」
叔父さんは、すこし心配そうだ。
「はい。ちゃんと送っていきますので」
「あら、2人とも大人なんだから、ちゃんとでなくて、大丈夫よ」
「レオン君。また来年!」
「ああ、うん。またね」
後ろに居たロッテが、すこし不機嫌になって、奥へ行ってしまった。
「では」
「ああ、寒い」
敷地の外に出ると、アデルが抱き付いてきた。
「帰ろう」
「うん」
馬車を拾わず、空を飛んで帰路に就いた。
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