307話 親密さの進展
そういえば。余り他人を呼び捨てにしなくなったなあ、学生時代以降。○○ちゃん呼びはするけれど。
「よし!」
アデルの館の地下階。魔導ボイラーの前。
改造届けが受理されたので、彼女との約束通りこちらの館にも、新型魔石を設置しにきた。そして、たった今、試運転に向けた確認が終わった。
地下室には僕の他、代表とこちらのメイド頭であるヨハンナさんがいる。
「待たせたね、できたよ。ちゃんと動くと思う」
1時間程前から、従前の基部を停止させていたので、暖房は効いておらず、2人はすこし寒そうにしている。
「じゃあ、一旦起動するよ」
鉄扉奥の魔石に触ると、鈍い音が地下室に響き渡った。
西側の熱交換器に近づいて、手を近付けるとじわじわと熱気が伝わってくる。
「うん。良い感じだ」
「じゃあ、説明をしようか」
「はい。皆を呼んで参ります」
「ヨハンナさん。ホールの熱交換器を見て来て」
「承りました」
彼女は階段を上って1階へ行った。
「ふう」
「お疲れさまです」
「いやいや」
しばらくすると、ぞろぞろとメイドが地下室に集まってきた。
エストとヨハンナさん以外は、リリアナさん、グレースさん。
「あれ? ロッテさん」
「あっ、私も見せてもらって良い?」
「いいけれど」
ロッテさんは、ウチの館でも見ていたよな。魔導具が好きなのかな?
ちなみに、アデルは舞台稽古で不在だ。
「じゃあ、簡単に説明するね。この部分に新型の基部を追加した。それで、今はこちらが稼働して、館を温めている。上の区画には今まで動いていた部分も残してあるよ」
メイドたちがのぞき込んでいる。
「もし不具合が起こった場合、これまでの基部に自動的に切り替わるようになっているから……試しにやってみよう」
ボイラーの扉を閉める。
「この魔石が緑に輝いているときは、新しい方が稼働している。ここで、不具合が起こると」
腕を扉に伸ばす。
≪印加≫
放出している蓄魔石の周りに魔界を作用させる。数秒後。
ダン!!
「「おぉ」」
結構な音がした。
「こういう感じで、魔石が緑だけど、点滅しているときは、古い方が動いているから、覚えておいて」
「はい」
「もし、この状態になった場合は、ウチの館に知らせるように」
「承りました」
「ここに取扱説明書の冊子を置いておくので、見てほしい。それで次は……」
†
魔導ボイラーと冷蔵魔導具の一連の説明を終えると、労ってくれるということで、応接室に通された。ヨハンナさんが、お茶を淹れてお菓子を出してくれる。
「滞りなく終わり、ようございました」
部屋には代表とロッテさんが残っている。
「うん。お姉ちゃんがすごくよろこぶと思う。この前も早く来ないかなあって言っていたし」
「そうなんだ」
昨夜、魔導通信で話したけれど。
「私もうれしいわ」
「あら、シャルロットさん、そうなのですか?」
「ええ、お姉ちゃんが、いろいろお菓子を作るって言っていたので」
「そういえば、ロッテさんも、叔母さんのお料理を手伝うって言っていなかったっけ?」
ブランシュさんに言われていたよな。
「うううん。私は向いていないわ。お料理」
「そうかなあ」
カチッと音がして、代表がカップを置いた。
「オーナー。ちょっと、失礼します」
立ち上がると、部屋を出て行った。
気を利かせた?
「レオン君は、お料理ができない女は嫌い?」
えっ?
「どうだろう。好きになったら、気にならないかな」
目線を外す。
「何か、前に好きな子が居たような、言い方だわ」
「んんん」
濁しておくか。
「それって、エイルちゃん?」
「エイル?」
「エミリアに居た頃は、歌劇を一緒に観たのよね」
あいつは、何を話しているんだ。
「そうだねえ。あの時は母様と義姉さんと一緒だったけどね」
「えっ、ええ? そうだったの?」
「うん。あれは、エミリア劇場に照明用に投光魔導具を納入したから、それを見せようと、母様が思ったんじゃないかな」
「なあんだ」
「ずいぶん。エイルと仲が良いんだね」
「まあね。彼女も一緒に研究生になったし。あっ、2人とも若手公演に出ることになったから」
「そうなんだ。エイルも研究生にねえ」
「知らなかったの?」
「うん。聞いていない。オットーさんと仕事しているからレナード商会へ行って、何回か会ったけど。そんなことは言わなかったな」
「ふむ。オットーさんって、彼女のお義兄さんよね」
「そうだね」
「エイルちゃんのことはわかったわ」
疑いは晴れたかな?
「もしよかったら、私たちの公演を見に来られないかな」
「ああ、何日にやるの?」
「10日と11日。私とエイルちゃんが出るのは1組で、午前中なの」
「うぅん、10日か……」
「予定があるの?」
「確か、王都には居ない。仕事でねえ」
「ああ、そう……残念。でもお仕事なら仕方ないわ。そっ、そういえば。なんで彼女のことは呼び捨てなの?」
「えっ。いやあ、すごく昔から知っているからね」
「私だって、会ってから3年経ったわ。学校の同級生の2人も愛称で呼んでいたわよね」
むう。
「あれは、あの2人がそう呼べって言うからだよ」
「じゃあ、私もロッテって呼んでほしいわ、同い年だもの」
ロッテさんが、身を乗り出してきた。
ノック。
折り良くか、折り悪くか、代表が応接室に戻ってきた。
「失礼致しました」
「ああ、代表。僕の10日の予定は?」
「10日は……」
手帳を出した。
「ガライザーへご出張の予定です。それが?」
「いや、なんでもない」
「そうですか。では、オーナー、そろそろ」
「そうだね。じゃあ、ロッテさん、また」
†
『そっちへ行っていいかな』
「うん」
夜になって、アデルから魔導通信が掛かってきた。
壁に楕円の水面ができると、部屋着のアデルが潜り抜けてきた。
「レオンちゃん」
腕を広げると、ソファーになだれ込んできて抱き付かれた。
入浴の後なので、寝間着にガウン姿の僕の顔やら首筋に吸い付かれる。
「ありがとうね。さっきヨハンナさんから報告があって。地下のボイラーと冷蔵冷凍魔導具、それから厨房の小型のも見たわ、ちゃんと動いていた」
「うん」
「本当にうれしい。お菓子を作って持ってくるから」
「楽しみにしてる」
忙しいだろうし、年末か年明けかな。
実際のところ、あの建物はトードウ商会のものだから、アデルの利得としては便利になったぐらいなのだが。
「いい匂い」
アデルが、ガウンの前あわせから手をつっこんで、その辺りをさすっている。
「だめだよ、アデル。変な気分になる」
「ふふっ。明日は休みだから、いいわよ。別に」
蠱惑的に笑う。
「そうだ」
「ん、何?」
「ボイラー稼働のあと、そっちの館でお茶を出してもらったんだけど」
アデルは、2、3度瞬いた。それがどうしたのという風情だ。
「ロッテさんも応接室に居て、少し話したんだけど」
「へえ」
「彼女、魔導具が好きなのかな?」
「ロッテが? いやぁぁ、聞いたことがないけど。なんで?」
首を傾げた。
「うん。ウチの地下室で説明した時も居たよね」
「居た。って、今日も見ていたの?」
「うん。だから好きなのかなあと」
アデルは、ニヤッと悪そうな顔をした。
「それで?」
「若手公演を誘われたけど、僕は仕事が入っていてさ」
「ああ、やっぱりね」
やっぱり? じっと見てくる。
「それで、自分のことを、ロッテって呼んで欲しいって」
「ほぉぉお」
意外にもうれしそうだ。
「いいわねえ。呼んであげたら?」
「ええ?」
「いつまでも、さん付けだとよそよそしいもの」
「だけど」
「いいわよ。その代わり……」
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