302話 昼食会と鞘当て(仮:誤用)
鞘当てって、1人の女性を2人の男が奪い合う様子なので、男女逆な場合は誤用なのだけど。その場合は、なんて言うのだろう。良いのを思い付いたら、今話のタイトルを替えるかも。
翌日の昼前。
「やあ、いらっしゃい」
「おっ、おじゃまします」
「えっ。固いぞ、ディア。確かにでかい館だけどレオンの家だぞ」
約束通り2人がやって来た。
「だけど、ベル」
「そうそう。僕の家だよ、気兼ねなく」
「そう……だよな」
玄関の石段を登って、ホールに入る。
「来たわね、ディア、ベル!」
「アデルさん」
「うわぁ、なんで」
待っていたアデルの元にディアとベルが、早足で歩み寄った。
「うん、昨日レオンちゃんから聞いてさ、2人に会いたかったのよ」
その後ろに、最近メイド服を着なくなったロッテさんも居た。
「それでね。今日は妹のロッテも連れてきたわ」
ロッテさんが、客達に会釈した。
「シャ、シャルロットです。よろしくお願いします」
彼女たちが准男爵家の一族とは伝えてある。
「よろしく」
「よろしく。あれ? この前は、メイドさんじゃなかった?」
よく覚えていたな、ベル。
「えっ、そうだっけ?」
「そうそう。あの時は、ウチの居候だったからね。今やこの子も、歌劇団の研究生になったのよ」
「えっ? シャルロットさんもサロメア歌劇団なの?」
「あっ、ああ。そうです」
ふむ。やっぱりロッテさんは人見知りだな。すぐにうち解けるアデルとは対照的だ。
「すごーい。見た目どおりの美人姉妹なんだ」
「それに、かわいい」
「そうね。かわいいにかけては、ロッテには勝てないわ。2人もロッテって呼んであげて」
「ちょ、お姉ちゃん……」
「じゃあ。ロッテさんは、娘役なんですか?」
「あっ、はい」
「研究生って、女優さんと一緒に舞台に立つんですよね?」
よく知っているな、ベルは。そういえば、月刊歌劇界の雑誌を僕に突き出したとき、ベルのつながりだったけど。好きなのかな、歌劇団。
「って、ことは、何年か後には姉妹で共演したりして」
「恋人役で?」
「えぇ。それは嫌だよ、はずかしい。兄妹役なら良いけれど」
「私は、それでも、恥ずかしい」
これは、話が終わりそうにないな。
「じゃあ、立ち話はそのぐらいにして、食堂へ行こう」
「ああ、そうね。レオンちゃん」
移動して、いつもの席に着く。
「おお、レオン。この様子なら貴族の御曹司でも通るぞ」
「あはははは」
一瞬僕に話題が来たが、すぐ変わり、食堂でも女子話が盛り上がり30分ぐらい続いた。
瞬きすると、システム時計が11時30分を過ぎている。
よし。
「えっ、レオンちゃん。もう、作るの?」
「うん。そろそろお昼時だしね」
「いやいや。レオン師匠は、ここに座っていてください」
はっ? どうしたアデル。
「一番弟子のアデルが、黄金トーストを作ります」
「そうなの?」
「えっ、レオンに習ったんですか?」
「そうよ。レオンちゃんが編み出したんだから」
「「へぇぇぇ」」
じとっとした目で、ディアとベルに見られた。
今まで、なぜ言わなかったという顔だな。
「じゃあ、作ってくるわ」
「私、作るところを見ていていいですか?」
ディアも立ち上がった。
「いいわよ。どうせなら、ディアちゃんも一緒に作る? 寮に帰っても作れるように。いいよね、レオンちゃん」
「もちろん。じゃあ、教えてあげて」
特許になったとしても、自家用に作る分には問題ない。
「了解! ルネさーーん」
2人が、厨房へ入って行った。
「ふう。アデルさんて、料理好きなんだなあ」
「そうですね。主にお菓子作りですけど」
でも、下宿でおいしい料理を作ってくれたけどなあとは言わない。
「そうだ。ロッテさんって、何歳?」
「はい。レオン君と同じで16歳です」
「へえ。そうなんだ」
「ベルさんは?」
ふむ。2人は厨房に行く気はなさそうだ。すこしずつロッテさんもうち解けてきたな。
「18」
「お姉ちゃんより1つ下なんだ」
「そうなのよね。あと1カ月で19よ、そしたらすぐ20歳になっちゃうわ」
話が変な方向へ。
「入学した頃は、若いと思ったんだけどね……」
「何を言っているんだ。20歳なんて若いだろう」
「はん! 16歳の……しかも、男に言われたくないわ」
ロッテさんが、僕をきっとにらんだ。
「そうよ。レオン君は、まったく乙女心が分からないんだから」
「そうだ、そうだ!」
そうなのか?
「私はわかりますよ。貴族女性への結婚しろって圧力は厳しいって聞きますもの」
「良い子ね、ロッテさん。まあ、大貴族に生まれて、知らない間に婚約がまとまっているのも嫌だけどねえ。下級は下級で、大変なのよ。大して裕福じゃないし、気位ばっかり高くって。ここ数年、両親は、私の顔を見たら縁談の話しかしないし」
「そうなんですねえ」
「そうなのよ。まだ救いなのは、私もディアも長子ではないぐらいかな。でも、ウチよりディアの方が厳しいかもね」
ほう。
「同じ准男爵でも、あっちの方が名門に近いし」
そういうものなんだ。
「だから、なんとかしてやる気はないか? レオン!」
「はっ? どういう意味だ。貴族の男子なんて知り合いは居ないぞ。中尉って貴族だったか?」
イレーネさん(レナード商会長女)なら……頼む気はないけれど。
「これだよ。まあ、ロッテさんや、アデルさんが周りに居れば、靡かないのもわかるけどさあ」
何の関係があるんだか。
「ああ。でも、お姉ちゃんもちょっと焦っているかも」
「えっ?」
この前、ウチに来たときの話を根に持っているな。
「歌劇団は、女性ばっかりですから」
「ああ、出会いが少ないかあ」
「できたわよー。なんかさっき、私のことを話していなかった?」
食堂に甘くて良い香りが漂う。
アデルとディアが戻って来た。後からリーアとルネが皿や茶器を運んできてくれる。
「いえ。私たちの話ですよ。里に帰ったら、見合いしろってうるさいって」
「へえ」
「ベル。そんなことを話していたのか」
「まあ、まあ。冷めちゃうから、食べながらね」
おお、良い色に焼けている。
「うわあ、おいしそう」
ルネが、茶を注いでいる。もちろんアーキ茶だ。
「アデルさん、ディア。ありがとう」
「どうぞ、召し上がれ」
一口大に切って、口に運ぶ。
「おいしい」
「本当。おいしい。黄金トーストって、バターと卵なんだねえ」
「さて。レオンちゃんの食べているのは、私とディアちゃんとどっちが焼いたトーストでしょう」
はて。
「味からすると、ルネの味なんだけど……」
「ああ。下拵えは、ルネさんがしてくれていたからね」
結構早く焼けたのは、そういうことか。
でも、それじゃあ、わからないだろう。視線を巡らせる。
「アデルさんが焼いてくれたのじゃない?」
「正解! でも、なんでわかったの」
「いや、なんとなく」
ディアが普通にしていたからな。多分彼女が焼いたものなら、もっと狼狽えているに違いない。
「私は、すぐ分かったわ。ディアは恥ずかしがって無理だもの」
「ベル」
「そうなのよ。どっちがレオンちゃんに食べさせるって話になって、即座にディアちゃんが拒否したのよ。さすが友達ねえ」
「いやあ。じゃあ、私のは?」
「私が焼いた」
ディアは素っ気ない。
「そう。でも、おいしいわよ。そうだ。アデルさんのも食べてみたいから、レオン、半分交換しよう」
「あぁああ。ベルさん。私のがお姉ちゃんの焼いた物なので。私と交換しましょう」
「そうね。そうしてくれる」
†
和やかな内に昼食会が終わり、客達は帰っていった。
しかし、夜になって、1人戻って来た。
「いやあ。あの時のロッテの反応、傑作だったわね、レオンちゃん」
長椅子に座って、アデルが僕の手を取った
「あの時って?」
「ううん。ベルちゃんが、レオンちゃんと黄金トーストの半分を交換しようって言った時よ」
「あぁ」
「ロッテは、ベルちゃんのナイフで切ったのを、レオンちゃんに食べさせたくなかったのよ、あれ」
「んんん。考えすぎじゃない?」
「間違いないってば」
「ああ、そうか。ふふっ」
「何?」
「いやあ、あの時、アデルも少し顔色が変わっていたなあと思って」
「それはそうよ。レオンちゃんには私が焼いたものを食べてほしかったからね」
「僕も、アデルが焼いたのだけが食べたかったから、よかったよ」
「うわぁ。いつの間に女誑しになったの? レオンちゃん」
「いつかなあ」
アデルの二の腕をつかむと、引っ張り寄せた。
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