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制御技術者転生 モデルベース開発が魔術革命をもたらす WEB版【書籍発売中】  作者: 新田 勇弥
8章 青年期 青雲編I

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301話 商談

知らない人より、知って居る人相手の商談の方が緊張するのはなぜだろう。

「では、レオン殿。この仕様とお預かりしました魔石にて筐体(きょうたい)と合わせてみます」

「よろしくお願いします。僕の方でもいただきました配置案を吟味します」

 胸に手を当てて敬意を示す。


 リオネス商会お抱えの魔導匠一行に商会へ来て貰って、製造前の最終打ち合わせをしている。

 ガライザーの工場建屋を実際に見て来たそうだ。古いが丈夫な建築で、既存設備がないほぼ空っぽの状態だったそうで、配置の自由度が高くて良かったとおっしゃっていた。物は言い様とも思えるけれど。ともかく僕も、一度行ってこないとな。

 すでに、製造見積もりはリオネス商会から出してもらって、事業体の実務者会議で了承が得られた。ウーゼル・クランがしばらく微妙な動きを見せていたが、このまえモルタントホテルへ行ってから、沈静化して言うことを聞いてくれるようになったとは、代表とナタリアの所感だ。


「それから、魔導匠にお願いがあるんだけど」

「何でしょう?」

「投光魔道具……魔導具に改造するつもりだから、申し訳ありませんが魔石以外の部分を発注したいのだけど。受けてくれますか」

 我ながら、失礼な話だ。

 聞きようによれば、あなた方の作る製品の中核は、要らないと言っているようなものだ。もちろん、完成品を入手して魔石を外すことはできる。魔導具の改良とはそういうものだが。

 胸に手を当てる。


「はあ」

 魔導匠は同席している、ニコラさんを見て、こちらに向きなおった。

「そのように、恐縮されることはありません。もとより魔石は、あなたが考案されたもの、それを外せとおっしゃるなら、したがいます。なに、器具もウチの工房が作った製品です。レオン殿のお役に立てるのであれば光栄です」

「ありがとう。今は使い途が言えないんだけれど。実現性が増してきた段階で話しますので、ぜひお願いしたい」

「ほう、なにやら面白そうですなあ」


 もう一度、魔導匠がニコラさんを見てうなずいた。

「魔導匠の感じでは、技術的にはご用意できそうですが、支店長もこの件は承知しておりません。計画中とのことですが、私どもにも心積もりがあります。どういった規模なのでしょうか。例えば何基必要なのか、現段階でお分かりなのでしょうか?」

「そうですね。今のところ8基を考えています」

「8基!」

「それは、また多いですね。レオン殿といえど対価をいただくことになりますが」

「もちろんです。決定したら、正式に発注します」

 原価は知っているが、利益を乗せて1万セシル(一千万円見当)といったところだろう。

「わかりました。戻りましたら、支店長に申し伝えます」


 1階玄関へ降りる。

「それでは、我々はエミリアに戻ります」

「お気を付けて。(リオネス商会)本店の皆さんに、よろしくお伝えください」

「はい。副会頭に、レオン様はお元気でしたと伝えます」

 魔導匠とお弟子さんにニコラさんが車中の人となり、手を振って見送った。


 階段を上って、商会に戻る。

「じゃあ、部屋にいるから」

「すぐにお茶をお持ちします」

「ゆっくりでいいよ」


「えっ? なに?」

 自分の部屋に戻ろうと廊下を奥に進むと、代表が付いてきた。

「まだ他があったっけ?」

 代表は微妙な面持ちを浮かべる。

「はい。イザベラさんの件なんですが」

「そうだったね。展示会の件、進展があったの?」

「それが……」


 イザベラさんの新作絵画が溜まってきたので、展示即売会をやりたいという話になった。しかしながら、彼女が後見人(パトロン)を断った、ボルヴィス画廊と折り合いが悪くなった。

「嫌がらせが続いているの?」

「ええ、王都中の手頃な会場と画廊ギルドに手を回して、イザベラさんの展示会を断るように触れて回っていまして」

「むぅ」

「思ったよりも深刻だね」

 代表は眉根を寄せた。

「それがまた、ちょっと賞を獲ったぐらいで、鼻持ちならない小娘が! とまあ……」


「困った物だね。画家の人間性と絵の評価をつなげて考えるなんて」

「はい?」

 彼女は目を瞬かせた。

「善人が描こうと、悪人が描こうと絵は変わらないじゃない」

 あれ? 代表は不同意だったようで、側頭を指で押さえた。

「それはともかく。協賛していただける他、中央区の展示会場を1週間に渡って貸してくれるという、奇特な商会が現れまして」

「おお、それは良かったじゃ……」

 あれ?

 全く表情が好転しない。


「それが、申し出てくれたのがラケン商会でして」

「そういうことか」

「純粋光の件で、当商会と詰めてきていたのですが、先月から一方的に保留にされていまして。今回は何が狙いなのかと」

 ラケン商会は、魔導具を主な商品とするわが国屈指の商会だ。刻印魔導装置の市場占有率(シェア)が1位であることは有名だ。

 そして、何よりラケーシス財団の傘下企業である。


「それで、代表は気に入らないと」

「はい」

 ふむ。立腹しているようだ。

「ふーん。でも、金に色は付いていないのだから、違法ではないのなら援助してもらえば良いんじゃない?」

 汗水を垂らして稼いだ1セシルも、不労所得の1セシルも同じ価値だ。そう子供の頃に教わった。人情として前者に重きを置きたくなるし、何かを買ってもらえばありがたがりたくなるが。商人としては、それではいけないというのが、教えだ。


「それはそうなのですが。それが、ラケン商会の会頭が、ぜひオーナーに会いたいとのことで」

「ふむ。じゃあ、日程を調整してもらえれば、合わせるよ」

「よろしいのですか?」

「別に。問題ないよ」

 あれ? そっちの方が嫌だったのかな。

「会ったからといって、純粋光魔導具に無理矢理絡めてくるなら、申し訳ないけれど破談になるかもしれない」

「承りました」


 ノックだ。

「お茶をお持ちしました」


    †


「レオン」

「やあ、ベル」

 学食でパンを千切っていたら、やって来た。

「ディアは?」

 珍しく1人だ。

「むう。いつでも2人で一緒にいるわけじゃないさ」

 そうだねとうなずく。

「まあ、レオンに他意がないのはわかっているさ。それがディアの辛いところだな」

「意味がわからん」

「もう少ししたら来るよ。それより、アーキ茶だ」

「ふむ」

「アデレードさんのでっかい看板を見たぞ。トードウ商会も関わっているんだよな」

「まあね」


「レオン」

「やあ、ディア」

「ディアも飲みたいよな?」

 座ったディアが、目を瞬かせる。

「えっ、何の話?」

 ふむ。この2人は長年の相棒のようだが、何でも分かりあっているわけじゃないらしい。当然といえば当然だが。

「アーキ茶よ、アーキ茶!」


「そりゃあ、飲みたいけどさ……レオーネのあの列を見たろ」

「2時間待ちは、さすがに辛いよな。だからこその、レオンだろ」

 ふむ。

 モルタントホテルでもアーキ茶は提供されているよ……とは言わない。


「おまえ。レオンに無理を言って、割り込むつもりじゃないだろうな!」

 はっ? 怖っ。

 ディアの美しい眉が吊り上がった。

 そうだ。彼女はそういうのがきらいだった。初めて会った時もそうだった。

 先日割り込んだとは言わないようにしよう。割り込んだのは、ダンカン叔父だけど。

「いっ、いや。でも」

「あぁ。ディアとベル」

「なっ、なによ。ベルを庇う気じゃないわよね?」


「庇うわけじゃないけれど。別にアーキ茶が飲めるのは、レオーネだけじゃないぞ」

「知っているわよ。でも、あそこは……はっ? 何、その指?」

 僕は、自分を指している。

「ウチの館にも茶葉ならあるよ。今なら、黄金トーストも」

 そう。大半はレナード商会に回っているはずだが、ウチにもガライザークランから結構な量の茶葉が届いた。

 ギィー、ギギギギ……

 はっ? なんだ。周りのテーブルの椅子が一斉に鳴った。しかも、こっちを睨んでいる。


「バカ、レオン!」

 2人がそろって、口を立てた指で押さえている。

 こんなどうでも良いことまで、聞き耳を立てているのか。


「それで、来るのか? 明日の昼で、どうだ?」

 土曜日だからな。

「えっ、行くに決まっているだろう」

「行く!」

「ああ、じゃあ、エストに言っておくよ」

 教室に行く前に、魔導ファクシミリを打っておこう。

お読み頂き感謝致します。

ブクマもありがとうございます。

誤字報告戴いている方々、助かっております。


また皆様のご評価、ご感想が指針となります。

叱咤激励、御賛辞関わらずお待ちしています。

ぜひよろしくお願い致します。


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GAノベル殿より書籍が発売されます。

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訂正履歴

2026/03/24 誤字訂正 (布団圧縮袋さん ありがとうございます)

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