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制御技術者転生 モデルベース開発が魔術革命をもたらす WEB版【書籍発売中】  作者: 新田 勇弥
8章 青年期 青雲編I

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299話 日常が支える革新

日常の積み上げがないと、閃きも起きない……そうあってもらいたいですね。

「それで、アデレードさんを、アーキ茶の広告に使えと。オーナーのところにも来ましたか」

「うん」

 代表が、ベネディクテさんの手紙をテーブルに置いた。ウーゼル・クランからも事務的ではあるが正式な書面がきているそうだ。


 後援会長としては、月刊歌劇界が取り上げた女優に、アーキ茶の印象が固まってしまうのが嫌なのだろう。

 あれ。代表は微妙な顔だな。

 商会の僕の部屋に居るのは、もうひとり。

「いかがでしょうか?」

 状況を予め知っていたようで、ティーラさんが迫ってきた。

「歌劇団としても、内々ですが是非にということです」


 彼女は歌劇団側の代弁者のようだ。

「もちろん。アデレードさんは、ウチの顧客ですし、印象はこの上なく良いのですが……」

「代表! なんですか? 何が駄目なんですか?!」

 普段は冷めているのに、スイッチが入ると別人になるよな。


「駄目ってわけじゃないのよ。まだ茶葉の供給体制が整っていないし、あとは、逆にアデレードさんを起用しても良いのかなと……」

「良いに決まっているじゃないですか。なんでしたら、クランが広告費用を出すって言っているんですよ!」

 そうだな。まあ、代表の感覚は大体分かるが。それにしても、ティーラさんは(あお)るのがうまいな。


「それよ。なんというか、ごり押しよね」

「ごり押し、上等ですよ。芸能界なんて常識(そんなもの)じゃないですか」

「芸能界って言われても……」

 どっちが上司で部下かわからなくなってきた。

「芸能人を顧客に持つってことがどういうことか。代表にもそろそろお分かりいただきたいですね。最初はどうだったか知りませんが、わが商会は、もうオーナーのためだけにあるわけじゃ……ああ!」

「何よ……」

「わかりました。代表は、嫉妬しているんですね」

 おっと、気づいたか。

「何を言っているの? 私が、アデレードさんに嫉妬する訳がないじゃない」

「違いますよ。代表は、オーナーの手柄が減っていくから嫌なんです。アデルさんの手柄になるのが嫌なんでしょう!」

「なっ、なんてことを言うのよ!」

「間違っていますか?! 私が言っていることは」


 うわぁ。

 代表の(まなじり)が上がった。

 ティーラさんは、言ってやったという満足そうな顔だ。この人も得難い人物だが、人事権を持つ相手によく言うよな。

 でも、奇貨居くべしか。


「あぁ、誰の手柄でも良いんじゃないか? 正直、成果が出るならどうでも良い」

 2人は僕を睨むと、互いを見合った。

「なんというか。ときどき支え甲斐が消えていく気がするわ」

「そうですね。オーナーの美点であり、大きな欠点ですね」

 大きなねえ。

「わかりました。オーナーがそうおっしゃるのであれば、他の出資者へ同意の回答を回します」

 代表は眼を伏せ、ティーラさんは胡散臭そうな眼で見下ろしてきた。


     †


「ここに填めるのか?」

「ああ、はい。そうです。こんな感じです、増幅魔石を3本です」

 さっき出力した(もちろんカバンから出したように偽装)組立指示図の該当部分を指す。

 なんというか、雰囲気が。

 あれが増幅魔石と、微かに聞こえてくる。

 僕とミドカンさんで魔導具を組み立て始めたのだが、すっかり研究室の作業場と化した61号1階でやっているのがいけないらしい。

 ぐるっと、女学生に囲まれている。しかも、作業台から1メトばかり離れてびっしり。その外が見えないぐらいだ。中には、ノートに何か記録している子もいる。

 興味津々のようだが、ミドガンさんのおかげで手は出してこないからいいけれど。

 しかし、さっき1人でやっていたときは、遠巻きに見ていただけだったのに、ミドガンさんが手伝うと言ってくれた途端に、自分たちもと至近まで寄ってきた。

 ところで、ふたりで何をやっているか。新型純粋光発振用魔道具の組立だ。

 機密は魔石の方に集約してあるから、組立時点で見られても困らない。


「そうか。良くもまあ、こんな綺麗に図を描けるよな」

 3次元CADの斜視図(アイソメ)表示に、わざわざ劣化処理を掛けている。

「ありがとうございます」

「それにしても。このガワ、武骨というか重くなったよな」

 バルタム鉄工所で、最近作ってもらった鋳物だ。

「ミドガンさんは、前の方が好きですか?」

「そうだな。あれは、リヒャルト先生の傑作だと思う。最高かどうかまでは言えないが」

 確かに優美な形である上に軽い。黄銅の板金物だからな。


「そうなんですけどね。これはいろんなところで使う前提なので、荷馬車で運んでもビクともしないことを目指すと、こうせざるをえないんですよね」

「ほう。何かはわからないが、明確な用途が決まっているってことだ。じゃあ、四角い(直方体)のは?」

「木箱に入れる時に収まりが良いようにですね」

 収まりが良いように……。いや、メモを取るのは良いけれど、微かな声で復唱するのは気が散る。


「おわっ!」

 この声は。人垣で見えないが、外に居るのは誰かはわかる。

「なんだ、この人だかりは」

 ダン、ダンと床が鳴ったと思ったら、ターレス先生の顔が上に飛びだした。

「ああ。やっぱり、レオン君か。大丈夫か? 何をやっているんだ?」

「いや、はい。大丈夫です。魔導具の組立を」

 本当は解散してほしいが、言いづらい。


「なんだと。はーい。みんな一歩ずつ外側に移動して。あまり、密集すると空気が悪くなるだろう。はい、はい、文句を言わない」

 おお、広くなった。そこへ、ターレス先生が割り込んで作業台に取り付いた。

「あぁ。みんなに言っておくことがある」

 作業場が静まった。

「レオン君は文句を言わないと思うが、騒いで負担を掛けると、あまり大学へ来なくなるぞ」

「「「えぇぇぇ……」」」

 いや、来ますけど。

「研究員だからな。無理をして大学へ来る必要はないんだ。でも来なくなったら、嫌だろう。嫌だったら彼の迷惑にならないように、考えて接してくれ」

「「「はい!」」」

「良い返事だ」

 日曜学校の司祭様みたいだな。

 人垣を作っていた人の何割かが、こちらを気にしつつも散っていった。


「なんだ、これ? んー、容器か。えらく、変えてきたな。あっ、バルタム鉄工所で作ってもらったのか」

「鋳造は、あそこです。切削工程は別の工場ですね」

「しかし、まあたくさん作ったもんだな」

「これくらいは、数がないと」

 8個並べている。

「そうなのか?」

「ええ」

「そこまで言われると、訊きたいんですが。これの用途はなんですか?」

 ターレス先生と顔を見合わせる。

 ミドガンさん、口元は笑っているけれど、目は笑っていないよ。


「いやあ、訊かない方がいいと思うけどな」

「は?」

「世の中、知らない方がよいこともある。秘密を黙っていることは辛いぞ。最近とみにそう思う」

 最近……か。

 講師と准教授では違う。聞きたくないことまで知りうる立場になったということか。

 そう。僕も、小なりといえども商会の経営者だからなあ。わからないでもない。


「ここに居たんですか、ターレス先生。学科長が探してましたよ」

 リヒャルト先生が入ってきた。

「うっ。へいへい」

「学科長室ですよ。ああ、レオン君」

「こんにちは」

「何、これ?」

「んんん。いやあ、新しい容器です」

「えっ! あっ、ああ……」

 肩を落として、眉を下げた。


「あれでは駄目でしたか」

「そうですね。先生に作っていただいたのは、軽くて格好いいんですが。蹴ったり落としたりされたらいやだからですね。あと数が必要だったので」

「数だったら作るけど……確かに蹴られるのはなあ。それで、ミドガン君は何をやっているんだ?」

「レオン君の助手です。用途は教えてくれませんが」

 すこし、むっとした表情だ。

「ふむ。それで、まわりの皆さんは?」


 1人が進み出た。

「さっき、私たちもお手伝いしたいって言ったんですけど。ミドガンさんが……」

「ミドガン君が?」

「魔導具の組立は、魔導技師の資格を持っていない、私たちは遠慮してもらいたいって」

「なるほど」

 そう。きっぱりと、ミドガンさんは断った。


「法律では、魔導技師が取扱主任となって立ち会うのであれば、作業員自体には資格が不要です。しかし、学内では内規として、規程の研修と検定に合格しないと、加工機を使用しない組立作業についても許可していません」

 そうそう、僕も検定を受けた。入学して数ヶ月ぐらいの時期だったかな。


「それは、いつ受けられるんですか?」

「えっ」

「1番早いヤツで」

 勢いに押されている。先生が懐から手帳を取りだして、めくりはじめた。

「えっと、1番早いのは、12月の上旬ですね」

「受けます」

「私も」

 続々と手が挙がった。

「じゃ、じゃあ、学生課で手続きを」

 8割方の女学生が、実験場を出て行った。


「おおう。あと何台あるんだ?」

「ええと、5台ですね」

「よし。僕も手伝うよ」

「リヒャルト先生!」

「なあに。3限目は空き時間なんだ。僕だって、魔導技師の資格を持っているからね」

 先生が、片目をつぶってみせた。

「では、申し訳ありませんが、お願いできますか」

お読み頂き感謝致します。

ブクマもありがとうございます。

誤字報告戴いている方々、助かっております。


また皆様のご評価、ご感想が指針となります。

叱咤激励、御賛辞関わらずお待ちしています。

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訂正履歴

2026/03/17 誤字訂正 (げろるどさん ありがとうございます)


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表紙絵
― 新着の感想 ―
技術屋社長の悪い所が出てしまったなぁ。そこ気をつけないと裸踊りだろうが土下座靴舐めだろうが何でもやる総合商社や銀行上がりの組に付け入れられるんだよなぁ……
更新ありがとうございます。 女生徒たち、男同士の距離が近いことに熱視線を向けるよりは健全だけど、もうアイドルの追っかけみたいな感じですね。 主人公に婚約秒読みな彼女が居ると知れたら、どうなるのかしら。
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