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制御技術者転生 モデルベース開発が魔術革命をもたらす WEB版【書籍発売中】  作者: 新田 勇弥
8章 青年期 青雲編I

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293話 思惑潜む晩餐

表面華やか、実はドロドロ……自分は浸るのは微妙だけど、読むなら良いかな。

「ダンカン叔父さん。改めて、我が館へようこそ。アデルさんも、ロッテさんも良く来てくれました」

 30分くらい応接で商売の話をして、食堂に移動した。

「いやあ。レオン、お招きありがとう」

 取引相手状態からは脱して、叔父甥関係に戻っている。ニコラさんも引き留めたのだが、本店への手紙を書きたいと言って、彼は1人で帰っていた。僕というよりは、叔父さんに気を使ったのだろう。


「それでは、乾杯」

「「「乾杯!!」」」

 薄い金色に透き通ったワインを流し込む。

「いやあ、冷えていておいしいね」


 叔父さんもアデルも和やかな表情だが、ロッテさんだけは微妙にこわばっている。

「スープでございます」

 あっ、運んできたのは、リーアだけじゃなくて若いメイド。以前に紹介されたグレースというお向かいの館のメイドも動員されていた。


「おいしいわねえ。ロッテ」

「うん」

「ブランシュ叔母さんの料理と比べてどうですか? 叔父さん」

「おっと。私に言わないでくれ。答えづらいよ」

「ははは」

 まだまだ新婚だからな。

 実際、ルネの料理はどれもこれもおいしいのだが、叔母さんの料理は洗練されている上に、なんとも暖かい。絶品ばかりだ。

 アデルがニマッと笑った顔とは対照的に、ロッテさんは無表情だ。


「まあ、私もお母さんの血は引いているし、お料理は絶賛修業中だからね。レオンちゃん、私と結婚したら、いつもおいしいものを食べさせるからねえ」

「できるわけないでしょ、お姉ちゃんは公演があるのに。それに修行って言ったって作っているのは、お菓子ばっかりでしょ」

「あらあ。結婚したら歌劇団を辞めるって手もあるわ。私、良い奥さんになるわよ」

「はぁ」

 今日は一段と(あお)るなあ。


「私が真剣に女優になろうっていうのに、なんてことを言うのかしら」

「そんなにカリカリしないでよ。大体女優と恋愛は両立できるわ。先輩方を見習ったら」

 そういえば雑誌に載っていたな。歌劇団の女優は結婚しても、半数は続けると。逆に言うと半分は辞めるのだけど。そういえば、月刊歌劇界を読んでないや。


「しかしだなあ。例の契約もあるのだろう」

 叔父さんが念を押す。

「あれね。でも来年で終わるわ! あっと言う間よ。ねえ。お父さん、いいわよねえ?」

「えっ、ええ、はっ? いや。相手は?」

「そりゃあ、レオンちゃんが良いわよ。大好きだもの」

 叔父さんが僕の方を見た。アデルの発言が冗談なのか、本気なのかわからないようだ。

 仕方がないので、瞬間的に当惑した表情を装う。


「ほら、レオン君が困っているでしょう」

「えぇぇ。レオンちゃん、私がお嫁さんなのは嫌なの?」

 あまり良いやり方とは思えないけどなあ。真偽半ばで見せていき、既成事実を積み上げる作戦。

「いやっ、その。アデルさんは、僕にはもったいない女の人ですから、うれしいですが」

 エスト……普段どおりだが、覚めた目で見ている気がする。


「ほら、レオンちゃんも、私と結婚したいって」

「そんなことは、言っていないじゃない。レオン君も冷静になって。お姉ちゃんは、どうせからかっているんだから」

「ロッテ! なんであなたが絡むのよ。関係ないじゃない」

「うっ、関係なくないもん。おねえちゃんが結婚したら、私が妹になるんだから……」

 確かに、そうだよな。そういうことになる。


「お父さんは、どう思っているの。レオンちゃんを」

「そっ、それは……さっきの話一つでもわかるだろう。レオンは今でもすばらしいが、将来性も計り知れない男だ」

「でしょう」

「反対するところはないけれど……しかし、いきなり言われてもだな」

「じゃあ、考えておいて。お母さんは、レオンちゃんが承知なら良いって言っていたわよ」


「な、なんだと。あっ、ああ。レ、レオン。すまんな」

「ああ、いえ」

「バッカみたい! 食べよ!」

 ロッテさんは怒ったのか、でも黙々と出された料理を食べ始めた。


     †


 9時少し前。館に呼んでいた辻馬車が来た。ダンカン叔父を車寄せまで送っていく。

「ああ。ありがとうな。レオン」

 久々に娘と会わせた礼だろう。

「いえ」

 その娘たち2人は既に行き来しやすいように、庭に作ったレンガを敷いた路を通って帰って行った。


「あぁ」

 えっ。叔父さんが、辻馬車の前で振り返った。

「アデルのことなんだが」

「はい」

 なんだろう。

「短い付き合いなんだが、アデルは心にもないことは言わない。思わせぶりなことはしない娘だ」

 えっ。

「冗談めかしで言っていたが、レオンのことを本当に気に入っているに違いない。まあ、どの程度まで考えているかはわからないが……そのう、レオンもアデルのことが嫌いでないのなら、一度真剣に考えてやってみてくれないか?」

「ああ。はい。でも、叔父さんは良いんですか?」

 初めて思い当たったのか、彼はしきりに瞬いた。


「うーむ。そうだなあ、実の父親なら違うことを言うかもしれないが。アデルが好きになったのなら、幸せになってもらいたいんだ。第一、私もブランシュもレオンのことを気に入っているしな」

 おおぅ。

「ありがとうございます。しかし、彼女……歌劇団を辞めるかもしれませんよ」

 叔父さんは、それをいままで支援してきたのだ。


「そうだなあ。ただ、歌劇団の女優になったのは、ブランシュと彼の願いだったからなんだ」

 えっ!?

「もう、アデルはそれを叶えたんだ。あとは好きにするさ。ロッテもいるしな」

 そうだったのか。聞いたことがなかった。ただ歌劇団が好きで、憧れて目指したと思い込んでいた。ところで、彼とは誰のことだ? この流れだと。


「ともかく。ありがとう。またな」

「あっ、はい」

 叔父さんは車中の人となり、車寄せから通りに出ていった。

 少し肌寒さを感じて玄関に入ると、エストが扉を閉めてくれた。


「おめでとうございます」

 エストがしたり顔でうなずく。

「うーん。まあ、第1段階はね」


     †


『お父さんは、帰った?』

「うん。辻馬車で帰っていかれたよ」

 向かいの館に戻ったアデルから、魔導通信が掛かってきた。

『どうだったかなあ?』

「うん。さすがは女優だとは思ったよ」

 そう。

 地下でも晩餐でも、アデルの振る舞いは全て演技だったのだ。

 アデルには、魔導ボイラーや冷蔵魔導具も一式、彼女の館にも設置する話は、数日前にしてあった。


『お父さんは、私たちが帰ってから、なんか言っていた?』

「うん……」

『ん?』

「アデルは、本当に僕のことが好きらしいから、一度真剣に考えてやってくれ、だって」


『おぉぉ。やったぁ。お父さんなら、わかってくれると思っていたわ』

「うーん」

『えっ』

「叔父さんは、それで良いのかって訊いたら。アデルには幸せになってもらいたいんだって」

『うぅぅ……』

「なんか、叔父さんの実直さを利用して、僕は申し訳ない気がしたよ」


『そうだけど……でも、レオンちゃん起因だと微妙で、私から好きだって迫った方が、お父さんが容認しやすいだろうって、言われたの』

 そうだなあ。確かに、僕がアデルを好きだって言い出すよりは……ん?

「言われた? 誰に?」

『あっ!』

「アデル……」

『ううぅ。伯母様よ』

 伯母様───


「母様! 母様の発案だったの?!」

 うわぁ……そうか。

 アデルの考えにしては、少しやり方がエグいと思ったんだ! くぅ、やられた。

 そうか、あのとき僕を引き離して、アデルを唆したのか。

 僕は、まんまと母様に踊らされたってわけだ。

 女優だけじゃなくて、見えない脚本家が居たとは。


『ごめんね、レオンちゃん。でも伯母様が、自分の発案だって言ったら、レオンちゃんが協力しないかもって、おっしゃって』

「ああ、うん」

 母様が言いそうなことだ。


「でも、さあ」

『何?』

「母様の入れ知恵かもしれないけれど。あそこまでロッテさんを、煽らなくてもいいんじゃないかって、思うなあ」

『私みたいな女は、嫌?』

「そうじゃないけど」

 一応アデルから、彼女が僕を好いていると言われたからな。それに対して、誠実でいたいという僕の身勝手だな。


『ロッテは女優になるの。ならば、舞台に上がってこないのは失格なのよ』

 舞台───


『ともかく。ロッテのことは、私に任せて』

「うん」

 任せるしかないのだけど。

お読み頂き感謝致します。

ブクマもありがとうございます。

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― 新着の感想 ―
両方の母親が既に味方とはレオンが「運命の人」と出会わない限り歩く歩道のように自動的に結婚まで進むのでしょうね。ロッテのことも気になるけど彼女自身が舞台に上がらない限りハーレム路線もあり得ないし…… 皇…
ロッテは自分の気持ちに自覚的になって、そこから更に相手にそれを伝える努力をしないと まだ恋愛のステージに立ててないから、(恋愛の)当事者として発言は出来ないですよね 「秋」の姉妹逆バージョンみたくなっ…
自分の母親と相手の母親を味方につけたら、父親も含め男はもうどうしようもないですよね。 某Interface誌、今月4月号の特集がシミュレーション開発入門(物理現象を題材にしたモデルベース開発入門)で…
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