293話 思惑潜む晩餐
表面華やか、実はドロドロ……自分は浸るのは微妙だけど、読むなら良いかな。
「ダンカン叔父さん。改めて、我が館へようこそ。アデルさんも、ロッテさんも良く来てくれました」
30分くらい応接で商売の話をして、食堂に移動した。
「いやあ。レオン、お招きありがとう」
取引相手状態からは脱して、叔父甥関係に戻っている。ニコラさんも引き留めたのだが、本店への手紙を書きたいと言って、彼は1人で帰っていた。僕というよりは、叔父さんに気を使ったのだろう。
「それでは、乾杯」
「「「乾杯!!」」」
薄い金色に透き通ったワインを流し込む。
「いやあ、冷えていておいしいね」
叔父さんもアデルも和やかな表情だが、ロッテさんだけは微妙にこわばっている。
「スープでございます」
あっ、運んできたのは、リーアだけじゃなくて若いメイド。以前に紹介されたグレースというお向かいの館のメイドも動員されていた。
「おいしいわねえ。ロッテ」
「うん」
「ブランシュ叔母さんの料理と比べてどうですか? 叔父さん」
「おっと。私に言わないでくれ。答えづらいよ」
「ははは」
まだまだ新婚だからな。
実際、ルネの料理はどれもこれもおいしいのだが、叔母さんの料理は洗練されている上に、なんとも暖かい。絶品ばかりだ。
アデルがニマッと笑った顔とは対照的に、ロッテさんは無表情だ。
「まあ、私もお母さんの血は引いているし、お料理は絶賛修業中だからね。レオンちゃん、私と結婚したら、いつもおいしいものを食べさせるからねえ」
「できるわけないでしょ、お姉ちゃんは公演があるのに。それに修行って言ったって作っているのは、お菓子ばっかりでしょ」
「あらあ。結婚したら歌劇団を辞めるって手もあるわ。私、良い奥さんになるわよ」
「はぁ」
今日は一段と煽るなあ。
「私が真剣に女優になろうっていうのに、なんてことを言うのかしら」
「そんなにカリカリしないでよ。大体女優と恋愛は両立できるわ。先輩方を見習ったら」
そういえば雑誌に載っていたな。歌劇団の女優は結婚しても、半数は続けると。逆に言うと半分は辞めるのだけど。そういえば、月刊歌劇界を読んでないや。
「しかしだなあ。例の契約もあるのだろう」
叔父さんが念を押す。
「あれね。でも来年で終わるわ! あっと言う間よ。ねえ。お父さん、いいわよねえ?」
「えっ、ええ、はっ? いや。相手は?」
「そりゃあ、レオンちゃんが良いわよ。大好きだもの」
叔父さんが僕の方を見た。アデルの発言が冗談なのか、本気なのかわからないようだ。
仕方がないので、瞬間的に当惑した表情を装う。
「ほら、レオン君が困っているでしょう」
「えぇぇ。レオンちゃん、私がお嫁さんなのは嫌なの?」
あまり良いやり方とは思えないけどなあ。真偽半ばで見せていき、既成事実を積み上げる作戦。
「いやっ、その。アデルさんは、僕にはもったいない女の人ですから、うれしいですが」
エスト……普段どおりだが、覚めた目で見ている気がする。
「ほら、レオンちゃんも、私と結婚したいって」
「そんなことは、言っていないじゃない。レオン君も冷静になって。お姉ちゃんは、どうせからかっているんだから」
「ロッテ! なんであなたが絡むのよ。関係ないじゃない」
「うっ、関係なくないもん。おねえちゃんが結婚したら、私が妹になるんだから……」
確かに、そうだよな。そういうことになる。
「お父さんは、どう思っているの。レオンちゃんを」
「そっ、それは……さっきの話一つでもわかるだろう。レオンは今でもすばらしいが、将来性も計り知れない男だ」
「でしょう」
「反対するところはないけれど……しかし、いきなり言われてもだな」
「じゃあ、考えておいて。お母さんは、レオンちゃんが承知なら良いって言っていたわよ」
「な、なんだと。あっ、ああ。レ、レオン。すまんな」
「ああ、いえ」
「バッカみたい! 食べよ!」
ロッテさんは怒ったのか、でも黙々と出された料理を食べ始めた。
†
9時少し前。館に呼んでいた辻馬車が来た。ダンカン叔父を車寄せまで送っていく。
「ああ。ありがとうな。レオン」
久々に娘と会わせた礼だろう。
「いえ」
その娘たち2人は既に行き来しやすいように、庭に作ったレンガを敷いた路を通って帰って行った。
「あぁ」
えっ。叔父さんが、辻馬車の前で振り返った。
「アデルのことなんだが」
「はい」
なんだろう。
「短い付き合いなんだが、アデルは心にもないことは言わない。思わせぶりなことはしない娘だ」
えっ。
「冗談めかしで言っていたが、レオンのことを本当に気に入っているに違いない。まあ、どの程度まで考えているかはわからないが……そのう、レオンもアデルのことが嫌いでないのなら、一度真剣に考えてやってみてくれないか?」
「ああ。はい。でも、叔父さんは良いんですか?」
初めて思い当たったのか、彼はしきりに瞬いた。
「うーむ。そうだなあ、実の父親なら違うことを言うかもしれないが。アデルが好きになったのなら、幸せになってもらいたいんだ。第一、私もブランシュもレオンのことを気に入っているしな」
おおぅ。
「ありがとうございます。しかし、彼女……歌劇団を辞めるかもしれませんよ」
叔父さんは、それをいままで支援してきたのだ。
「そうだなあ。ただ、歌劇団の女優になったのは、ブランシュと彼の願いだったからなんだ」
えっ!?
「もう、アデルはそれを叶えたんだ。あとは好きにするさ。ロッテもいるしな」
そうだったのか。聞いたことがなかった。ただ歌劇団が好きで、憧れて目指したと思い込んでいた。ところで、彼とは誰のことだ? この流れだと。
「ともかく。ありがとう。またな」
「あっ、はい」
叔父さんは車中の人となり、車寄せから通りに出ていった。
少し肌寒さを感じて玄関に入ると、エストが扉を閉めてくれた。
「おめでとうございます」
エストがしたり顔でうなずく。
「うーん。まあ、第1段階はね」
†
『お父さんは、帰った?』
「うん。辻馬車で帰っていかれたよ」
向かいの館に戻ったアデルから、魔導通信が掛かってきた。
『どうだったかなあ?』
「うん。さすがは女優だとは思ったよ」
そう。
地下でも晩餐でも、アデルの振る舞いは全て演技だったのだ。
アデルには、魔導ボイラーや冷蔵魔導具も一式、彼女の館にも設置する話は、数日前にしてあった。
『お父さんは、私たちが帰ってから、なんか言っていた?』
「うん……」
『ん?』
「アデルは、本当に僕のことが好きらしいから、一度真剣に考えてやってくれ、だって」
『おぉぉ。やったぁ。お父さんなら、わかってくれると思っていたわ』
「うーん」
『えっ』
「叔父さんは、それで良いのかって訊いたら。アデルには幸せになってもらいたいんだって」
『うぅぅ……』
「なんか、叔父さんの実直さを利用して、僕は申し訳ない気がしたよ」
『そうだけど……でも、レオンちゃん起因だと微妙で、私から好きだって迫った方が、お父さんが容認しやすいだろうって、言われたの』
そうだなあ。確かに、僕がアデルを好きだって言い出すよりは……ん?
「言われた? 誰に?」
『あっ!』
「アデル……」
『ううぅ。伯母様よ』
伯母様───
「母様! 母様の発案だったの?!」
うわぁ……そうか。
アデルの考えにしては、少しやり方がエグいと思ったんだ! くぅ、やられた。
そうか、あのとき僕を引き離して、アデルを唆したのか。
僕は、まんまと母様に踊らされたってわけだ。
女優だけじゃなくて、見えない脚本家が居たとは。
『ごめんね、レオンちゃん。でも伯母様が、自分の発案だって言ったら、レオンちゃんが協力しないかもって、おっしゃって』
「ああ、うん」
母様が言いそうなことだ。
「でも、さあ」
『何?』
「母様の入れ知恵かもしれないけれど。あそこまでロッテさんを、煽らなくてもいいんじゃないかって、思うなあ」
『私みたいな女は、嫌?』
「そうじゃないけど」
一応アデルから、彼女が僕を好いていると言われたからな。それに対して、誠実でいたいという僕の身勝手だな。
『ロッテは女優になるの。ならば、舞台に上がってこないのは失格なのよ』
舞台───
『ともかく。ロッテのことは、私に任せて』
「うん」
任せるしかないのだけど。
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