はちのきゅう 全知
オムニさんの本名を後で聞いたんだけど、オリビア・M・ニーマイヤーと言うらしい。頭文字を取ってオムニさん。その意味とかも色々言っていたところを見ると、そういうことを考えるのが好きな人なのかもしれない。
「偉大な先輩方に負けないクラい頑張りマす!」とオムニさんは笑って日本を去って行った。
ゼンノーさんとイナバさんがなんとなくバチバチしていると、オムニさんが立ち上がった。
「サて、そろそろ私は帰りマす。いー時間デスしね。」
時計を見ると六時十分前。確かにそろそろいい時間だ。ポッテさんがオムニさんの会計を済ませる。
「オムニ様、これからどちらに向かわれるのですか?」
「ハイ?ホテルデスけど?」
そりゃホテルも取ってるか。そういえばゼンチさんもなんだかんだでお金持ってたし、たぶん似た感じで稼いでるんだろうな。ともあれ、ポッテさんは首を振った。
「そうではなく、これより先、何をなそうとするのでしょう。」
オムニさんは、ポッテさんの質問の答えに困っていそうだった。
「ムム。……実は、あまり考えられてないデす。」
それでも何か考えている様子。
「皆サン……『全知』達の多くは自らの意思の中で生きていマシた。短い人生の中この力をどう活かすか。ソレを考えるようにと、私の中の234人の『全知』が言ってきマす。」
でも、それを決めるには若すぎる。オムニさんはそう考えていると言う。
ゼンノーさんは立ち上がってオムニさんの方に行く。
「俺も全部分かってるわけじゃないし、たぶんオムニの方がよく分かってるんだとは思うけどさ。知枝ちゃん、そんなこと決めてたのかな。」
ゼンノーさんの言葉にオムニさんは少し不満そうに口をとがらせる。
「草全サンは、事務所を作ったジャないデスか。自分でやること決めて。」
「うん。まあそうなんだが。でも、どっちかって言うとお前の言うその辺からは逃げてたと思うんだよ。前にヤマガミにも言われてたけど、決められないから依頼という形で、他人に決めてもらってたって。」
確かに、そんな話を聞いたことがある気がする。誰かを救おうとすれば、救えない別の誰かの顔が浮かんでしまうと。だから、名指しされたときにしか助けないのだと。
オムニさんの方は納得はいってない様子だった。
「デモ、草全サンだって自分から動いたことありマシた。ソレこそ……。」
続けなかったけど、ヤマガミの一件のことを思い出したんだろう。ゼンノーさんは痛い所を突かれたみたいにぽりぽりと頭を掻く。
「あー、まあそこなんだよな。分からんけど、でもそれもその場で決めたんじゃないか?知枝ちゃんって割と行き当たりばったりなとこあるし。」
オムニさんは口を開いて、また閉じた。
「つまり、何がいーたいのデスか?」
「あー、つまりだな。人生そんなもんってことだろ。力のあるなし関係なく。考えるのももちろん大事だが、どっかで諦めつけないとしんどいぞ。」
ある意味ゼンノーさんらしい適当な感じだけど、オムニさんもふっと笑った。
「確かに、そんなモノかもデスね。ありがとございます。」
「おう。ま、大事なとこ間違えなかったらセーフってことで。」
そう言って笑うゼンノーさんは、どこか寂しそうだった。
オムニさんがドアを開けようとしたときに、はたと立ち止まった。
「ソウでした。伝言を忘れていマシた。」
くるりと戻ってきて、何か考えてから僕の方に向かう。
「普賢サン、雇われていた理由、覚えていマスか?」
「え?確か……。」
コーヒーを淹れる才能……の話じゃなさそうだな。
「非日常を引き寄せる、というやつですか?」
「そーデす。ソレなんですが、たぶんもう気にしないでいいデショー。」
どういうことだろう。不思議に思ってると、コトがため息をついた。
「ま、お兄の周りには変なのばっかりいるからね。非日常が日常というか。」
「そーゆーことデす。あなたにとって神能が身近にいることは当たり前になっていマす。ダカラ、今度はそーいうのが自然と寄ってくる、ということは起きづらくなると思いマす。」
アメリカ人の私が『全知』になったのがその証拠だとオムニさんは言う。
「でも、それってなんだかちょっと寂しいですね。平穏な生活が来るというといいことのようですけど、でも、皆が離れていくみたいにも聞こえるかな、と。」
オムニさんはちょっと不思議そうな顔をした後に声を上げて笑った。
「だいじょーぶデスよ。もう知り合いデスから、その時は会いに行けばいージャないデスか。」
…・・それもそうだ。なんか、変な心配してたみたいだ。
礼を告げると、オムニさんはゼンノーさんの方に向いて、ちょっと時間をおいてから口を開いた。
「コレは、そのまま伝えマす。『私のことを忘れたら許さないけど、私のこと気にしてたらもっと許さない』。――アー、意味、分かりマす?」
ゼンノーさんは、たぶんな、とだけ言って、少しだけはにかんだ。




