はちのご (言)霊
タマは家を出て、国立大学に通っている。今はアパートで一人暮らし。なんというか、タマらしい進路だと思った。
それにしても軽音サークルか。ちょっと意外というか、青春しているというか。なんだかちょっとあこがれる。なんだかんだタマはすんなり彼女とか作りそうだし。
傾き始めた日の光を受けながら、大きなギターバッグを背負ったタマが入ってきた。いや、ベースだったかな。まあいいか。
「兄さん、姉さん、久しぶり。あれ、レイスさんは?」
「久しぶり。元気そうでよかった。レーちゃんは家にいるけど。」
「そうそう。レイスさん今日は来れないの?」
ああ、そっか。聞いておかないと。
「ちょっと電話してくる。ポッテさん、ちょっとお願いします。」
恭しく礼をするポッテさんを横目にレイスさんに電話しに行く。
*****
電話から帰ってくると、早くもオムニさんがコトやタマとなにやら話していた。そこを頼んだつもりじゃなかったけど、ポッテさんが紹介してくれたんだろう。しかし、隣で見ているゼンノーさんはなんだか暇そうだ。
「ゼンノーさん、上に戻らないんですか?」
「戻ってもやることないしな。」
「いやボス。そうやって聡美さんに仕事押しつけるのどうなの。」
コトからのツッコミを無視してゼンノーさんはココアを飲み出した。まあいいか。
「それで兄さん、レイスさんは何て?」
「ああ、うん。来れるって。…・・無理してないかちょっと不安だけど。」
「大丈夫でしょう。あの子はなんでも楽しめる子ですから。」
そう言われるとちょっと安心する。レーちゃんとはまた話し合いたいけど。
とにかくまだ仕事中だ。カウンターの中に戻ろう。
カウンターに戻ると、オムニさんがこっちを見ている。ちょっと不安そうな目つきだ。
「アノ、アナタの兄弟ちょっと怖いデす。」
「怖いって、タマ、何したの?」
「別に何も。ただ少し質問しただけ。」
何を聞いたんだろう。まあいいか。
「タマ、初対面の人にはもっと優しくするもんだよ。」
「相手も初対面のつもりで来るならそうするけど。」
……まあいいか。なんというか、タマにも思うところがあった、ということだろうな。
「それで、オムニさんの方は聞きたいこと聞けたんですか?」
「Oh, no.アー、お二人に聞いテも、いーデスか?」
「変なことじゃなければ。」
すっかりオムニさんが萎縮しちゃってる。ほんとこの一分くらいの間に何があったんだろうか。それでも、勇気を出してオムニさんは口を開いた。
「お二人は、草全サンのこと、どう思ってマシたか?」
聞かれて、コトとタマは互いを見合った。
「どうって……。」
「変な人だったけど。」
「こらこら。」
窘めるもゼンノーさんはなんかツボに入っちゃったみたいで吹き出してる。
「いや、まあ知枝ちゃんは変なとこあったよな。」
「ボスが言う?」
「まあ、僕らからしたらいきなり出てきたお節介焼きという感じだったけど。実際ありがたかったけど、なんだったの?」
「まあゼンチさんは前の『言霊』とちょっとあって。」
正確に言うと前の『全知』とだけど。いや今は二つ前か。まあとにかく。
「でもまあ、いい人だった。私達のこと気にかけてくれて、でも干渉しすぎないというか。」
コトはどこか遠い目をしながら言った。それを少し驚いたようにタマが見る。
「……何。」
「いや、姉さんはゼンチさんが苦手なんだと思ってた。」
「別に、好き嫌いといい人かどうかは別問題でしょ。」
おお、コトがなんか大人なことを言っている。
「お兄、いらんこと考えてるでしょ。」
「そんなことない。感動してるんだよ。」
コトは舌打ちしながらそっぽを向いた。本音なんだけどな。
「ま、とにかくそんなとこ。満足?」
「は、ハイ。ちょっと予想外デシた。」
「予想外ってなに。……まあいいけど。で、タマは付け足すことない?」
「ううん、大体一緒。不思議な人だったけど、でもいい人だった。」
ゼンチさんのことを思い出して少ししんみりする。二人のことをよく気にかけてたもんな。




