ごのご 帰宅
事務所が広くなって、家具が少ないということもあるが八人でも十分なスペースが手に入った。単純に広さが二倍になったのだからまあ当然だろう。
それで僕達は何をしているかというと。タマはゼンノーさんと一緒にゲームをやっている。コトはそれを見ながらスマホをイジっている。まあ学校の友達と連絡でも取ってるんだろう。
ゼンチさんは大きくなってもパソコンと向き合っている。モニタから目の辺りまで出てきてるけど、なんだか面白くなさそう。
ヤマガミさんとポッテさんは、さっきからずっと棚にある仕事の書類に目を通している。
「ゼンチさん、いいんですか?あれ。」
「大丈夫よ。覚えている限り、漏らす性格でもなければ漏らす先もないはずだし。」
「褒められたと思ったらひどい言い草だなぁ。」
「当然かと。むしろ褒めすぎでしょう。」
ポッテさんがぴしゃりと言う。ヤマガミさんが動じていないのを見ると、普段からそんな感じなのかもしれない。単に人の話を聞いてないだけかもしれないけど。
サトリさんは、なんというか、ソファに座って周りを見ている。まあ僕も似たようなものだろうけど、ただ僕とは性格が全然違うわけで。かなり暇を持て余してそうだ。
「そうは言うが、普賢くん。アンタは暇ちゃうんか?」
僕は、せっかく事務所に来たので臨時休業中だけど書類整理をしている。正直、ヤマガミさんはちょっと邪魔だ。それにゼンチさんは大丈夫と言ったけどやっぱり普通に問題な気がする。
「というか暇ならサトリさんも手伝って――」
「そうやゼンちゃん、せっかく大きくなったんに何かしたいこととかないんか?」
「……別に。」
ゼンチさんがモニターに隠れた。それを見てまたサトリさんは面白くなさそうな顔。
「あーもう!こんなとこおったら腐ってまいそうや。ウチは帰るで!」
「いいんじゃない。今日は言った通りオフだし。別に止めないわよ。」
サトリさんは……いや、やめよう。僕の方に火の粉がきたら。
「なんや普賢くん。言いたいこと、考えたいことは素直に考えたらええよ。」
「いえ。何でもありません。」
「……まあええわ。コト、タマ、帰るで!もう学校も終わった時間やろ。」
サトリさんはコトとタマの手を取る。でも二人は動かなかった。
「まだゲーム中。」
「そないゲームばっかしとったら大きくなれんで。ほれ。」
「そもそもなんであたし達まで帰らなきゃいけないわけ。勝手に帰ればいいじゃん。」
コトの言葉にサトリさんは口をとがらせた。それで、聞こえないほどの声でなにかつぶやく。
「なんて?」
「だから!ウチのおらんところでおもろいことあるんが嫌なんや!分かるか、なんや知らんことでウキウキしとる奴らに挟まれる気持ち!」
「ああ、うん……。」「まあ、そう……。」
年甲斐もなく「聞こえとるぞ!」……。こほん。かわいらしく喚き散らすサトリさんに、どこか共感するところがあったのだろう、コトとタマは大人しく従うことにしたようだ。
「分かった。それじゃあ兄さん、先に帰るよ。」
「職場の人たちに迷惑かけちゃだめだからね。」
「はいはい。サトリさん、二人のことよろしくお願いします。」
「よし、二人とも、お姉さんがおもろいところに連れてったろ。」
そうしてなんだか賑やかに三人は事務所を後にした。
サトリさん達が去って、タマの代わりにしばらくゼンノーさんとゲームをしていると、ヤマガミさんもわざとらしくファイルをばたんと閉じた。
「さて、俺たちもそろそろおいとまするか。」
「あれ、意外と早いのね。」
「なんだい、もっといてほしいのかい?」
「見て分からないの。喜びと安堵から出た声よ。」
また何かを言おうとしたヤマガミさんの頬をポッテさんがつねる。危害を加えられるタイプのガイノイドなのか。
「我が主。遊んでいる場合ではありません。」
「そうだね。実はこの後にちょっとした用事があるのさ。というわけでまた会おう。」
「接近禁止命令。と、そうだ。私はいつまで『全知』を失ったままなの?」
「ああ、うん。そうだな。見たところ、ほんの数日で戻るだろう。たぶん、体もね。だから、恋人といいことするなら早めにするんだね。」
「ばっ」「なっ」
……ゼンノーさんまで反応するのは珍しいな。やっぱりどこか平静を装ってたのかな。ヤマガミさんの方はまた人の悪そうな笑い方をした後、咳払いをして真面目な顔になった。
「俺の方からも一つ聞いておこう。あれだけの『神能』持ちを集めて、何をする気なんだい。」
「勝手に集まってきた……っていうのは、通じないんでしょうね。」
ヤマガミさんは答える代わりに笑みを浮かべて僕の方に視線を送ってきた。ゼンチさんはため息をついて話を続ける。
「世界平和のため、誰かの幸せを守る為よ。」
ヤマガミさんはしばらく何も言わずにゼンチさんを見つめ、やがて緊張を解いてまた笑った。
「この場に『読心』がいないのが残念だ。でもまあ、『全知』を失った君がそれでもそう言うのなら、俺から言うことはなにもないだろう。また何かあれば連絡をくれたまえ。」
そうしてヤマガミさんは帰っていった。なんだか嵐のような一日だった。




