ごのよん 大改造
唐突だけど、この事務所、八人は多すぎる。その点はゼンチさんも同じ考えのようだ。
「もう用事は終わったんでしょ。帰りなさいよ、ヤマガミ。」
「おや、この店は食事を終えた客を即座に帰させるようなところなのかい。」
「そもそもうちは飲食店じゃない!」
語調とは裏腹にヤマガミさん達は諦めたようで、次はコトとタマに向く。
「……嫌だから。来たばっかしだし。」
「でもあなた達ここでやることないでしょ?」
「学校に戻るわけにも、家に帰るわけにもいきません。」
「あーあ、こういう自分勝手で冷たい大人達のせいで非行に走ることになるんだよねー。」
ゼンチさんが口論で負けるとは珍しい。まあ今日は二人も被害者みたいなものだし。ともあれ、ゼンチさんは今度はサトリさんに目を――。
「言っとくけどウチも帰らんで。こんなおもろそうな――やなかった。ウチだけ仲間はずれなんてひどいやないか!」
「いやあまさか今代の全知がこんな冷血漢だとは驚きだなぁ。これじゃあこれまでの全知には顔向けできないじゃないか。」
「……あなたが顔向けできる全知なんて一人もいないわよ。」
ともあれこれも失敗。後残ってるのは僕かゼンノーさん。よく考えたら僕が残る理由はないな。
「あの、僕が帰りましょうか。」
「それはだめ」「だめ、お兄」「それはやめたがいいと思う。」
予想外に女性陣から止められた。何でかを聞くと、
「あなたが帰るとツッコミ役がいなくなる。他の人たちはキャラが濃すぎか薄すぎかで。」
「ああ、まあそんなところだと思いましたよ。」
まあたしかにさっきのやりとりを考えるとゼンチさんの胃に穴が空きそうだ。
「言っとくけど、アキラも帰ったら嫌だからね。」
「帰るってのも変な話だが、わかってるよ。」
見た目が変わってもゼンチさんはあまり変わってないんだな。……流石に言えないけど。
「言ったったらええやん。」
「嫌ですよ。」
ともあれ、問題は結局そのまま残っている。ゼンチさんはため息をついた。
「ヤマガミ。」
「対価は?」
口をあけ、わなわなと震わせて、ようやく声に出した。
「ここにいることを許可する。」
ヤマガミさんは少し驚いた様子だったが、やがて口を歪ませた。
「ふ、ふふ。いいだろう。もう一つ、隣の部屋が空いていたね。買い取ってほしい。」
ゼンチさんは舌打ちを一つならして、電話を取りだした。
「……番号は?」
「まどろっこしいな。これを使うといい。」
さっきと同じようにヤマガミさんは本を電話に変えてゼンチさんに投げ渡す。不服そうだけど、ゼンチさんはそのまま発信音の鳴る本を構える。
「いつもお世話になっております、草全です。はい、はい、いえ、少々風邪気味で……。」
おそらくはテナントのオーナーだろう人と話してはいるが、どうもまとまっていなさそうだ。ゼンチさんはタマをちょいちょいと呼び寄せる。そして何か耳打ちをして、リストベルトを外させた。
「はい、すみません。少しいいですか。」
タマは咳払いを一つして、「向かいのテナントにしてください。」とだけ言った。
その後はゼンチさんが二三言話して、電話、じゃなくて本を閉じた。
「買ったわ。正確には予約だけど。」
「よろしい。ポッテ、始めるよ。」
「承知しました。我が主。」
ポッテさんは壁に寄せてあった棚を一人で動かし始めた。……これを見ると確かに人じゃないように思える。ともあれ入口側の棚を全て動かすと、ヤマガミさんに合図を送る。
「うん。じゃあ。」
ヤマガミさんは壁に手を当てると、目を閉じて大きく息を吸って、また吐いた。
がこん、とヤマガミさんに手を当てていたところがへこんだ。それと同時に壁に幾何学模様のような亀裂が入り、その亀裂によって分かれた部分部分がうごめき始める。思い思いに動き、形を変え、もはや壁とは言えないものになる。そしてすっかり見通しがよくなって見えるようになった向かいの部屋の壁にぶつかると、そちらの壁にも同じようにうごめき、そして階段を避けるように二つの部屋をつなぎ合わせた。
「ふーん、これだけだとあまり探偵事務所っぽくないな。ポッテ。」
「準備済みです。」
いつの間にか事務所に大岩が置かれている。これ、どこから持ってきたんだ?ヤマガミさんがやはり手を当てると、岩がまるでスライムのようにぐねぐねと動き始める。岩は色を変え、形を変え、そして向こうの部屋の方へと飛んでいった。
「さ、準備はできた。あっちに移動しよう。こちらを君の部屋にした方が動かすものも少ないだろう?」
言われるがまま皆で隣の部屋に行くと、なんというか、サイトとかのトップページに張られていそうな感じのこぎれいな事務所があった。ちゃんと受付のカウンターもある。
「ふぅん、まあいいんじゃない。でもカウンターはいらないわね。使う人いないし。」
……確かに、まあその通りだけど。なんというか、こう、それっぽさというか。ねえ。




