よんのよん 雑談
僕が神能探偵事務所で働く前、つまりいわゆるニートをしていたときの話。やることといえば時々頼まれるお使いと、後はゲームくらいのものだった。会う人も家族以外にはおらず、必然的に遊び相手は弟妹だけだった。
ぼんくらな兄を相手にありがたいことだった。考えてみれば、その時に比べると、今は二人との会話もかなり減ってきたように思う。
ゼンチさんがアンケートの記載内容を確認している間、我が弟妹はゼンノーさんにも『言霊』を試していた。だけどゼンノーさんにも聞かない様子。
「うーん、こっちも効かないのか。」
「まあ先に知枝ちゃんに言われてたからな。」
「その代わり心のガードが甘くなっとるな。」
サトリさんの言葉にむっと気合いを入れ直したゼンノーさん。そこに「お手」と言われるとそっとコトに右手を差し出した。
「……。」
「……。」
なぜか命令したコトまで黙り込んでしまった。
「ぷっふふ。ど、どうもウチか『言霊』か、どっちかしか防げんのんな。」
「面白い話だけど……で、二人はいつまで手を握ってるの。」
いつのまにかアンケートをしまってこっちに来ていたゼンチさんに見とがめられて、コトは慌ててゼンノーさんの手を離した。ちょっと顔が赤い。そんな様子を見てゼンチさんは鼻を鳴らす。
「さ、これであなた達への用事もおしまい。届いたらまた普賢くんから知らせるから、強はもう帰っていいわよ。」
「ちょ、ちょっと急に呼び出したと思ったらもう帰っていいって、勝手すぎない?」
「勝手って、こっちはこれから仕事だし……。そっちも別に用事もないでしょ?」
「ま、まあそれはそうだけど……。」
言葉に詰まるコト。そんなコトの手を引いてタマはぺこりとお辞儀をした。
「その、ありがとうございます。いろいろと。」
「お守りが届くまで気を付けなさい。危うく兄の職を奪うところだったんだから。」
……言われてみればそんな話もあった。危ないところだった。ともあれ二人はそのまま帰った。
玄関まで見送った後、ゼンチさんは僕にもちょっと苦々しい顔を向けた。
「普賢くんも。家庭の事情に口出すつもりはないけど、甘やかし癖が付いてたんじゃない?」
「いやいや。仲は悪くないと思いますけど、甘やかすというほどては。」
「シンのことだから、頼まれ事は断らずやってそうだけどな。」
「あ、分かるわそれ。断るところ想像できん。」
「ひどい!」
そんなことはない……はずだ。僕だって無理難題は断る。
「そもそもどうしてそんな印象になってるんですか。」
「なんでって……なあ。」
「知枝ちゃんの無茶ぶりも大体全部引き受けてるし。」
今度はゆっくりコーヒーを飲んでたゼンチさんが吹き出した。
「わ、私を巻き込まないでよ。そもそも、私はちゃんと相応の対価を渡してるから!」
サトリさんとゼンノーさんが言いたげな様子でゼンチさんの方を見る。なにはともあれ標的が僕から移ってくれた。
「――みたいなこと考えとるで、ゼンちゃん。」
「という報告が来たんだけど、普賢くん。」
「いやー何のことでしょうね。混線したのかな?っていうか、プライバシーはどうしたんですか!」
サトリさんとわーわー言い合ってたらゼンチさんがため息をついた。
「とにかく、『言霊』で従わせるなんてのが癖になったらろくな育ち方しないんだから、気を付けなさい。家族間だったら冗談で済むような話でも、友達とそういうことになったら。」
……考えて少し嫌になる。誰も彼も自分の言ったとおりに動く世界。楽は楽でも、決して楽しくはなさそう。
暗くなったのを察してか、ゼンチさんがぽんと肩に手を置いた。
「ま、そうならないためにこうやって動いてあげてるんだから。それに、冗談とかだったら効果はないから。」
「冗談……そういえば、僕が仕事辞めたくなったのも『言霊』の力なんですよね。」
「嫌気が差してないなら。」
まだそこまでではない。というか他の会社とかで仕事出来るか自信ないし。
「ということは、二人は僕を本気で辞めさせたかったんですかね。」
「まあ本気ってほどじゃないと思うけど。そうだったらもっと有無を言わさず辞めてただろうし。」
でも、そういう気持ちはあったということなんだろう。
「何でそんなこと思ったんでしょうね。」
言葉に出すと、ゼンチさんもサトリさんも怪訝そうにこちらを見てくる。
「寂しかったとかじゃないか?」
うーん、コトもタマもあまりそういうタイプだとは思わないんだけど……。
「ま、どうしても知りたいんだったら本人に聞くしかないんじゃない?」
ゼンチさんからもっともなことをいわれて、それもそうかと疑問は落ち着いた。




