よんのに 手品
『言霊』の能力は、簡単に言うと「相手を自分の言葉通りに動かす」というものである。ただ、この言い回しはゼンチさん的には間違っているらしく、正確には「言葉の通りに現実を動かす」ものだとか。ただし動かす対象は意思疎通が可能なものである必要があるとか。それに実現可能なものでないと効果がないらしい。
こんなよく分からない言い方よりもやっぱり僕の言い方の方がわかりやすいと思う。
ゼンチさんの宣言を、いったい僕はどういう風に弟妹に翻訳してあげればいいだろうか。今日から君たちは『能力者』だ。おめでとう。……頭のおかしい奴だと思われて終わりだろう。あるいは変な新興宗教かな?
案の定コトが袖を引いて「お兄、あの人何言ってんの?何かキメてるとか?」とか耳打ちしてくる。耳打ちはあまり意味がないので心の中で――いや今はサトリさんがいるからそれもダメか。大変だ。
「残念ながら私は正気。……とはいえどうやって説明したものかしら。」
「俺がなんかやろうか?」
「アキラが何かやっても単にアキラがすごい人みたいに見えるだけでしょう?」
確かにゼンノーさんはすごいけど地味だ。本当は人間離れしてるんだけど、それがすぐには伝わらない。と、今度はタマが袖を引いてくる。
「兄さん、やっぱり辞めたほうが……。」
「そうかも。」
いや違う違う。言霊の対処方は「聞く耳を持たない」こと。言うのは簡単だけど、やるとなると大変だ。
「よっしゃ、ウチが一つ手品を見せたろ。」
と、サトリさんがその辺をがさごそとあさってトランプを取り出した。どうでもいいがどうして客間にトランプまであるのだろう。
「手品って言うと余計ややこしいでしょ。」
ゼンチさんを無視して、サトリさんは手際よくトランプをカットして、広げるようにして持つ。
「一枚引いて、自分だけに見えるように見てみ。」
どうも『読心』の能力を見せるようだ。タマがカードを引いて、チラリと見る。
「スペードの3」
サトリさんの言葉に少し驚きつつ、カードを表にすると、それは確かにスペードの3だった。
サトリさんのどや顔を受けてコトが乱暴にカードを引いて同じように見る。
「ハートの6」
コトは舌打ちをしてもう一枚引く。サトリさんにまた当てられてもう一枚。もう一枚。
「なんか印付いてる!ぜったいそう!」
「ついとらんついとらん。」
「ユニークな傷は付いてるけどね。見えないくらいの。」
サトリさんがいらんこと言うなみたいな感じでゼンチさんを見る。
「よし、せやったら目つぶろか。弟の方――タマか。ちょいウチの目押さえて。」
「しっかり押さえてよ!」
「う、うん。」
言われるがままサトリさんの目を塞ぐタマ。コトはカードを引いては見る。サトリさんはそのあとに正確に答える。
「お兄が教えてるんでしょ!」
「してないしてない。」
とはいえこれもどうやって証明したものか。
「退席……さしてもこの子は信じんか。タネは簡単。ウチは人の心が読める。」
コトとタマがまた間抜けな顔でサトリさんの方を見る。
「じ、じゃあ今アタシは何考えてる?」
「何も考えんって考えとる。もっと複雑なこと考えてもええよ。」
コトは悔しそうに睨み付けるが、サトリさんは意に介さない。と、後ろのタマを見てメモによく分からない文字の羅列を書いた。所々間違えたようなローマ字。それを見てタマは本物を見たという顔になった。そそそとコトの方に移動する。
「姉さん、本物だよ。」
「タマが分かりやすかっただけだって!どっかにタネが――」「どうやったらeを90°回転させて書かなきゃいけないと思うのさ。あのwだってちゃんと山が三つになってる。」
勝ち誇った顔を見せるサトリさん。よく考えたらトランプやった意味ないし、どうもこの事務所の女性は皆ちょっと子どもっぽい気が「分かって考えとるんよね?」……。
「考えちゃうのは仕方ないじゃないですか。」サトリさんが変な人にならないようにちゃんと口で答えておこう。
タマは歯ぎしりしながら何か考えていたようだが、やがて諦めたように息を吐く。
「分かった。そっちのお姉さんは心が読める。それで、他は何ができるって?」
「私は何でも知ってる。」
「俺は何でもできる。あ、人間にできることならだけどな。」
この人たち、わざとやってるのか説明下手なのか。また二人があっけにとられてるんだけど。
「……まさか兄さんもそういう感じ?」
「いや、僕は特に。あ、最近コーヒーは淹れるのうまくなったけど。」
「普通!なんで!」
いや、何でって言われても……。普通の兄をもっと誇るべきだろ。




