よんのいち コトタマ姉弟はあまり似てない
僕には妹と弟がいる。妹の琴美と弟の玲貴。二人は双子の姉弟ながら、二卵性だからかそれほど似てはいない。見た目はまあ姉弟だから多少似ているけど、服装とかを入れ替えたくらいじゃどっちがどっちか分からなくなるなんてことはない。それより似ていないのは性格だ。
奔放な妹と恭順する弟。まあでもどっちがより好きかなんて話はしない。これでも二人の兄なのだから。まああまり兄っぽいことができてるとは思わないけど。
ある日、ゼンチさんが僕の弟妹を事務所に連れてくるようにと電話してきた。ついでに言うと僕はちょうどその時その弟妹と話をしていて、二人の問いかけになんとなく仕事を辞めてもいいかもしれないと思ったところだった。なんでそう思ったのかについては割愛する。
とにかく。そういう訳で僕はいつもよりも少し遅くに、二人を連れて事務所にやってきた。辞めるなら辞表……じゃなくて退職願だっけ?そういうのもいるのだろうか。ひとまずはいいか。
「こんにちは~。」
事務所のドアを開けると、すでに三人とも揃っていた。どういうわけか玄関に集まってる。
「おーシン。遅かったな。」
「来たわね。」
「で、ウワサの姉弟っちゅうんは?」
サトリさんの呼び声に僕の脇をすりぬけて、我が妹コトこと琴美が三人の前に仁王立ちした。
「アタシがそのお兄の妹、普賢琴美です。よろしく、所長さん?」
コトは怯まず、まあなんとなくそんな気はしていたけど、サトリさんに握手を求めに行った。サトリさんはといえば、笑いそうになってるのをこらえて握手をする。
「おう、よろしゅうな「ちょっと!」で、弟さんは?」
ゼンチさんの抗議を無視してもう一人を求める。当の弟はまだ僕の後ろに隠れていた。
「すみません、ちょっとシャイで。」
「タマ!」
容赦ないコトの声に、タマはビクッとして恐る恐る表に出てきた。
「あ、えと。玲貴です。よろしくお願いします。あと姉さん。所長さんはこっち。だと思う。」
タマはちゃんとゼンチさんの方にお辞儀をする。
「え、だってこんな――」「そのまま言葉を続けたら日本にいられなくしてやる。」
ゼンチさんがなんか物騒なことを言ってコトを黙らせる。本当にできるんだろうか。
ともあれ。ゼンチさんはタマに名刺を渡した後に握手をした。
「所長の草全知枝です。一応あなたの兄の雇い主になるわ。でも良く分かったわね。」
「前ににい……兄が言っていたので。子どもみたいな人だって。あ。」
口元を押さえてこっちを見る。いやこっちを見るんじゃないよ。早くフォローをするんだよ。
「あ、えと。じゃなくて。その」
「黙ってると小学生と間違えるって。そうだったそうだった。さすがタマ。」
コトがタマの背中をバシバシ叩く。いやそうじゃない。むしろ悪化したじゃないか。ほれ見ろ。ゼンチさんが完全にこっちを標的にした目を向けているよ。
「あ、いやー。違うんですよ。ほら、いつも若々しいというか。そのー」
「もし本当に外見を褒めたい女性がいるのなら、今度からは身なりとかで攻めることね。」
ゼンチさんはしばらく僕を睨んでいたが、ため息をついて首を振った。
「まあそういうことを言ってたのは知ってたからもういい。四割の客が言ってることだし。」
打率だったらプロで活躍出来そうだ。サトリさんが吹き出してるけど無視しよう。。
「とにかく、こんな所ではなんだから中のソファーへどうぞ。」
ゼンチさんの案内のままに二人は奥に入っていく。一方ゼンノーさんとサトリさんが僕の肩にぽんと手を置いてきた。
「まあ、なんつーか。ドンマイ。」
「ちなみに、ゼンちゃん爆発寸前やったで。」
……『読心』じゃなくてもなんとなく分かります。
ソファーに座って改めて自己紹介をする六人。考えてみればどっちも知ってるのは僕くらいだ。弟妹はまあ僕の話を聞くこともあったから少しは知ってるだろうけど。
そんな弟妹について、タマはちょっと憧れの目をゼンノーさんに向けている。分かるぞ弟よ。でも実の兄としてはちょっと寂しい。コトは……どういうわけかサトリさんの方を見ている。
「アンタの妹おもろいな。」
サトリさんが僕を肘で小突いてそう言ってくる。
「タマ、何考えてるんですか?」
「いやー、ウチも流石に他人のプライベートをぶちまけるんは趣味ちゃうわ。」
「私のアレはプライベートでも何でもなかったってわけ?」
入ってきたゼンチさんにサトリさんは口笛を吹きながら「結局言ってないからセーフ」とか言っている。ゼンチさんはため息をついて。
「ともあれ。普賢くん。昨日私に仕事辞めたいって言ってきたけど、いつからそう思ったの?」
僕の両脇にいたゼンノーさんとサトリさんがちょっとざわつくけど、制止された。
「えっと……コトとタマと話してたときからですけど。」
「正確にはそう二人に言われたから。でしょう?」
図星。というか言われて初めて気付いた。ゼンチさんは少し目を伏せた後、ためらいがちに口を開いた。誰かの運命を変えてしまうのを気にするように。
「あなたの姉弟の能力よ。二人は『言霊』の神能持ちになってる。」
ゼンチさんの言葉に二人の方を見る。二人は、とぼけたような、間抜けな顔で見返してきた。




