にのさん 突入
ゼンノーさんは何でもできるけど、その中でも特に得意なのは「喧嘩」らしい。
なんでもこの事務所に来るまでは、日本全国を旅して喧嘩に明け暮れていたとか何とか。ちょっと何言ってるか分からない。でも本当のことらしい。よく前科が付いてないものだ。
ともあれ、そんなゼンノーさんを呼び寄せたのがゼンチさん。喧嘩の腕は日常生活で役立つとは思えないけど、こういう仕事では時折役に立つこともある。
ホームセンターで買い物をした後、僕たち一行はゼンノーさんのナビでとあるマンションの前にたどり着いた。
「それじゃあ、後はよろしく。僕たちも近くにはいるから、何かあったら連絡してくれ。」
「おう。行ってくる。」
ゼンノーさんと一緒に車の外に出て行く。エレベーターに乗って6階に。
「あの、僕が付いてきても大丈夫ですかね。」
「ん?まあ大丈夫だろ。千枝ちゃんも意味もなくシンを危険なところに出さないだろうし。」
まあそうかもしれない。ああ見えてゼンチさんは結構他人思いなところあるし。
さて、エレベータが6階についた。たしか目的の部屋は604号室だ。
このマンションは外側から鍵がかかってるか分かるタイプのようで、ドアと壁の隙間をよく見ればドアをガチャガチャする必要がない。こういうときは便利だけど、防犯的にはどうなんだろう。
「どうですか?」
「ダメだな。鍵がかかってる。まあ当たり前っちゃあそうだが……。しょうがない。」
ゼンノーさんはこっちに発煙筒をほいと投げる。ちょっと落としそうになるけど問題なく受け取る。あとこれは……下敷き?
「合図があったらこいつをドアの前で焚いてくれ。あと意味あるか分からんが一応扇ぐ感じで。」
なんとなくやりたいことが分かってきた気がする。でもどうやって?というかこれどうやって使うんだ?先に缶を開けるのかな?
説明文を読んでいる傍らで、ゼンノーさんは他の部屋を見ながら電話をかけ始めた。
「ああ千枝ちゃん。……さすが、話が早いね。」
どうもゼンチさんにかけているらしい。ということは調べ物?チャッカマンを持ってああやってぶらついてるのを見るとちょっとヤバい人にしか見えない。
とか思ってたら鍵のかかっていない部屋に入っていった!いやいや!流石にそれはどうなの!?
まもなくして防災ベルが鳴り響く。合図ってこれ……・だろうな。着火部に火をつけ、煙を出し始める。
「火事だ!火事だ!」
すぐにゼンノーさんの騒ぐ声が聞こえ始めた。あとはこの煙が部屋の中に入ってくれれば……あ、当然だけどこういうことはしちゃだめですよ。ええ。
ドアがガチャガチャと音を立て始めると同時に、ゼンノーさんが戻ってきた。
「シン!どけ!」
「あ、は、」
慌ててバックステップをするとドアが大げさに開き、同時に跳んできたゼンノーさんがドアに向かって突撃。ぐわんとさらにドアが開くと、そこにはひどい顔をした男がいて、そして倒れた。
「て、テメェなんだ!」
「俺はアキラだ!」
部屋の中にいたもう一人に名乗ったと思ったら、いわゆる喧嘩キックで部屋の中に吹っ飛ばした。
「シン!部屋に行って助けてやれ!」
「は、はい!」
腰が抜けそうだけど、這いつつ部屋の中に入っていくと、なにもない部屋の中央にある椅子に縛られて猿ぐつわをされている女の子がいた。
「だ、大丈夫ですか?」
慌てて猿ぐつわを外すけど、怯えているようで歯をガタガタならして上手く言葉を話せないようだ。
「あ、え、あ。」
「とにかく今は外へ。立てますか?」
他の拘束を外すと、よろめきながらもその子は立って、こくりと頷いた。とりあえず、大丈夫そうだ。
「ゼンノーさん!」
「よし!」
立とうとしていた男をもう一度殴ったうえでこっちに来て、ゼンノーさんは女の子を抱え上げた。
「行くぞ!」
「え、あ、え!?」
それはいわゆるお姫様抱っこというやつで、女の子の方もびっくりした顔のまま頬を赤らめている。意外と元気そうだ。
「ほれ、シンも行くぞ!」
「あ、はい!」
6階を後にする前に振り返ると、体勢を整えた男がどこかに電話しているのが見えた。




