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現代日本プレッパーズ~北海道各地に現れたダンジョンを利用して終末に備えろ~  作者: 256進法
第三部:駆け抜けろ 燃え尽きたろか シンデレラ

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152/154

OKONOMIYAKI前夜祭(前編)

鉄板の上は……紛れもない戦場だ……!!


鑑賞用BGM:https://www.youtube.com/watch?v=BIg9yI05ej4&list=OLAK5uy_kecSH81O3lHSMq0Iyik9cv_Vf732D8B4M&index=5

鑑賞用BGM(お好み焼き屋・MIZUNO):https://www.youtube.com/watch?v=wNMmIFR307s&list=PLwOWwSaThDTLoYhkLuqZECHYldQy4hb4V&index=32

鑑賞用BGM(アルマス法律事務所から):https://www.youtube.com/watch?v=SobZI445uRc&list=PLmOx8CVVYfY3kVqnC78iltBk1Cs7QdRXu&index=50


~数時間後~

~コンドミニアム・【スカイガーデン】~


『──というワケや、エリち』

『ナチ共はあらかた抹殺して来たわ。別部屋に拘束してるあのガキを除いてな』

『見逃したりしたのは何人かおるけど、放っておけばナチを辞めそうなのばかりや』


『……上出来だ。ケンザキ』

『ディルレヴァンガーとその配下の化学戦部隊、及び援軍部隊を始末出来た……』

『これは今後大きな意味を持つ』


『……まさか小遣いくれるんか!?』


『小遣い所か、表彰モノだケンザキ』

『葵の借金と利息も帳消しにする』


レイカはケタケタと笑う。


『もぅ人が悪いなぁ、エリちは〜!』

『最初からその積もりやったんやろ?』


『……ナチの撲滅は曽祖母からの悲願だ』

『お前を選んで正解だったよ、ケンザキ』


エリシェバは目を閉じてレイカを抱擁した。

しかし、思わぬ囁きに目を開ける。


『この調子で……あの【悪魔姉妹】や他のヤバい連中も始末するんやろ?』

『エエで。それやっても』


『──!!』


『ただな、条件あるわ……』


エリシェバの身体へ僅かに緊張が走る。

レイカは息が当たる距離で囁く。


【【国盗り】に協力してくれや】

【私な、自分の拠点が欲しくなってん】

【いっちゃんが自分の要塞都市作ろうとしてる事、耳に入って来てんのや】

【私はそれより先に、巨大で強力な街を関西に造る】


『──!!』

『……目的は……?』


【都市ごと買収すんねん】

【いっちゃんを……】

【オマエらにとっても悪い話や無いで?】

【ユダヤ人はカネも技術も、更には情報を持っとる。最恵待遇で受け入れたるわ】


彼女の指が、エリシェバの首から胸にかけて這っていく。


【その為には……日本の企業連や地方政府へ調略を掛けてる、あのラロシェルとハナシを付けなアカンのや】

【今の日本経済の主は日本人やない。ラロシェルや】

【アイツ、この一か月で256兆円以上も稼ぎ出しとんのやで】

【恐らく、そろそろ動きがある】


エリシェバは僅かに身を震わせ、眼鏡の位置を直す。

指は胸の先端に到達し、突起を弾いた。


『……渡りをつけろ、と?』


【ああ……騙しても脅しても何でもええ】

【引き摺り出す事さえ出来れば、どんな形でもエエわ】

【もしナメた事抜かしたら、アイツを直で殺しに行ったる】

【こっちには葵がおる。どんなインチキ使おうが、無効化出来るわ】


『……ケンザキ』

『……私は既に奴に騙され、脅された』


【なら今度はこっちの番や】

【もう経済から大戦が始まっとるのや、ダンジョン業界を起点としてな】

【世界で最初に株式会社を生み出したのがオランダ人達なら……】

【世界初の先物相場を作ったのは大阪の商人達や】

【全く負ける気せぇへんわ】


レイカはエリシェバから離れ、ソファーに座り込む。


【ラロシェルは土くれにも価値を見出して、人に買わせられる】

【でも私ならそれに都市一つ、国一つの価値を付けて売り出せる】

【奪ったるで……世界中からカネを……!】


『ケンザキ……』


そして彼女は、窓の外の通りを見ていたクエイドへ言う。


【クエイド。お好み焼き屋に連れて行ったるわ】

【【約束】やったやろ?】

【時間もまだあるし、丁度ええ】


クエイドは振り向き、レイカへ答える。


『……エスティアとミレイアの治療が終わり、セント・パトリック大聖堂から帰って来てからだ』


【オマエ……私のコトが嫌いか?】


『……嫌いなら、既に撃っている』

『ただ……お前はリーダーや戦士としては比類なき信用がおけるが、必要以上に近しい関係になる気も起きない』

『それが……俺のプロとしてのお前に対する、率直な評価だ』


【ほんなら……エスティアは?】


『不器用な上、欠点もあるが……』

『最高の、そして互いの人生を賭けられるパートナーだ』


レイカは少し寂しそうに微笑んだ後、葵へ抱き着く。


「あーあーフラれちゃったわ、葵ちゃん」

「少し慰めてや~」


「しょうがないなぁ~~レイカは~~」

「お好み焼き屋へ行く前に、パーティー用の服を見繕いに行きましょうやい!」


「ええな!ついでに食べ歩きしちまうか!?」


「それ最高。超最高」

「エリちも行く??」


エリシェバは少しだけ考え込むフリをした。

レイカは彼女へ言う。


「ラロシェルの事は考えるな」

「ムカつくヤツの事ばかり考えて、女盛り無駄にするのは勿体ないで」


「……そうだな」

「お前の言う通りだ、ケンザキ」


エリシェバはこの日、初めての笑顔を見せた。

そして高っちゃんはベランダの縁を掴み、ひたすら懸垂をしていた。


「高っちゃんも行くか~~!?」


「大会近いから食事は制限!ヤー!!」


高っちゃんは笑顔で答え、ポージングを取りながら落ちて行った。



~ニューヨーク市内~

~セント・パトリック大聖堂~


『(き、傷が……!)』

『(す、凄い勢いで治って行く……!)』


『刃物を口に刺し込まれ、捩じられるとは……』

『人の道を外れた鬼畜の所業かと』

『もうその人とは金輪際、会わない事をお勧め致しますわ』


ミレイアの口内と唇は元通りになり、金髪巨乳のシスターは手を離した。

彼女は唇を触りながら言う。


『……これは違うんです。シスター・シトリツ』

『私があの人の感情を踏み躙ってしまったんです』

『けど、私も引けなかった……引くワケには行かなかった……』


『……傷つけ合わないと生きては行けない類の人ですわね、その方は』

『しかしだからと言って、貴女が傷を受け止める必要はございません』

『感情は無限でも、身体は有限なのですから』


『……そうですよね』

『傷を受け止め続けられるのなら、私は今頃イエス様です』


『ふふふ。それだけ冗談が言えるのなら、もう大丈夫ですわね』


ミレイアは立ち上がり、シトリツに対して一礼する。


『ありがとうございました。シスター』

『支払いの請求は【アルマス法律事務所】までお願いします』

『教会の探索組織登録コードは【B-726】です。では……』


彼女が去って行くのを、シトリツは微笑んだまま見守る。

そして医務室の扉が閉じる。

彼女は上衣を脱ぎ、際どいスリットを見せつけるバチムチのエロシスターが現れた。


『さて……これでシスターの時間は終わりです』

『ラロシェル様の言う通り、面白い方ですわねミス・ケンザキは』

『《パーティー》が楽しみですわ』


シスターの時間は終わってないどころか始まってるぜ。

このニューヨークでは、シスターですらもラロシェルの配下だ。

神へ届ける祈りと感謝は堕天使の利益になる。


『(にしても……【コンキスタ・カルテル】は脇が甘い)』

『(教会に居るスパイを通じて、構成員と組織の情報は筒抜けだと言うのに……)』

『(信仰心とは……こうも目を曇らすのですね)』


目を曇らすのは信仰心だけじゃないけどな。

シトリツは部屋を出て、礼拝堂へ向かっていく。

彼女は冷めた銀色の瞳で、十字架に掲げられたキリストの彫像を眺める。


『相変わらず……全くそそらない貧弱な男ですわね』

『どうせなら裸のマリアにでもした方が良いでしょうに』


キリスト像と十字架に透き通る糸が瞬時に絡む。

彼女が右腕を振り抜くと同時に、輪切りとなって崩れ落ちた。



~更に数時間後~

〜NY市内・クイーンズ地区〜

〜お好み焼き屋・MIZUNO近くのベンチ〜


「ヤバいヤバい……!」

「こんな所で〆たら……」

「カロリーが1日の限度超えちゃう……!!」


「食べ歩きで、もう3000キロカロリーは優に超えとるで葵ちゃん」

「1日どころか3日は超えちゃうで」


「ベーグルサンドやレッドフックタバーン・バーガーが美味すぎたのが悪い!」

「あとCello's Pizzaのピザも!」


葵は嘆きながらも、砂糖とバターの塊を溶かしたみたいなシェイクを吸っていく。

これで4000キロカロリー突破です。

レイカはエリシェバの肩に手を回して言う。


「それに比べ、エリちは小食やな~」

「マジで持たないで」


「……そういうお前もそこまで食べてないだろう、ケンザキ」


「私はここでガッツリ食いたいと思ってたからな」

「今日の〆は大阪の伝統料理や、そら腹を空けとかなアカンやろ」


「……友人達と食べ歩く、なんてもう無いと思っていた……」


「仕事バリバリやもんなぁ、エリちは」

「分かるで、その気持ち」

「でも私は疲れたら仕事なんかおっ放り出して、たこ焼きや串カツ食いに行ってたわ」

「無論、シャレオツなレストランにもな」


エリシェバはレイカの肩へ頭を預ける。


「……私は今回の件で、『生き方を変えてみても良い』」

「そう、思わされたよ……」


「──そうか」

「私はエリち自体が好きやから、何も言う気ないけど」


「……ラロシェルの部下によって、テルアビブの中心部と防衛体制は完膚無きまでに破壊された」

「死者は2500人以上、負傷者は数万人以上だ……」

「それだけの事をするのに、奴は指一本も動かさなかった」

「まるで王が『あの邪魔な建物を撤去しろ』と命じる様に……」

「その時に、今までの私も破壊されたのかもしれない……」


彼女は人目もふらず、涙を流しながらレイカにしがみついた。

レイカは彼女の頭を抱き寄せる。


「……ツラい思いしたな、エリち」

「オマエの敵はホンマしんどいのばっかりやな」

「よしよし、今日は沢山飲めや」


「ええ……」


葵はベンチから立ち、離れてシェイクを飲み続ける。


「(私は雰囲気を読める女、安倍葵……!)」

「(これで私も一流のニューヨーカー……!)」


その時、彼女の視界に男女のカップルが映る。


「あ!」

「クエクエとエスティじゃん!」

「お~~い!」


葵は手を振り、エスティアも彼女に応えて手を振る。

エリシェバはハッとしてレイカから離れ、眼鏡を取って涙を拭く。


『どうした、エリー』

『この女ヤクザに泣かされたか?』


『……疲れ目だよ、エスティア』


『ふん。そういう事にしておいてやるか』

『今日の私は機嫌が良いからな!』


エスティアは、ニコニコしながらクエイドの手に指を絡めた。


~数分後~

~MIZUNO店内~


エスティアは店内に入った途端、戸惑いの表情を浮かべた。


『……あれ?』

『客が一人も居ないぞ……』


レイカは座布団を引き出し、座って言う。


『寧ろ好都合やんけ』

『仲間内でパーッと行こうや』

『店長〜!店長おるか〜!?』


厨房の奥から、エプロンと仮面を着けた背の高い男が現れる。


【はい。居ますよ】

【ケンザキ様。今日は貸切で宜しかったですね?】


『──おい』

『なんやお前』

『貸切にした覚えは一ミリも無いで』


レイカは刀の鍔に指を掛ける。

エリシェバの表情が凍りつき、瞳孔が揺れ出す。


『ラロシェル……!!』


葵は口笛を吹く。


「すっげぇ爽やかで穏やかなイケボ……」

「絶対イケメンじゃんこんなの」


【ありがとうございます。葵様】

【今日は貴女専用のメニューを用意してあるので、じっくりとお楽しみ下さい】


「来てる!私の時代来ちゃってるよ〜!これ!」

「はぁーい!シャンパンタワー作って〜!」

「ドンペリ持ってこ~~ぃ!」


葵の脳天にレイカの拳骨が落ちる。


「ぁ〜〜つぅ〜〜……!」


「ここはホストクラブちゃうわアホ!」

「……で、今を時めく超大富豪様がこんなお好み焼き焼き屋に何用や」

「またエリちをイジメに来たんか?」


【──まさか】

【今日は貴女達のダンジョン攻略を労いたくて、この場を設けさせて頂きました】

【この店は私が1日分だけ、買収しています】


「幾ら使うたんや」


【100万ドルです】


「もう店買って、お好み焼き屋始めた方がええんちゃうか」


【『お好み焼き屋SHEMHAZA』……悪くない響きです】


「材料に人を使ってそうな名前やめーや」


ラロシェルは指を鳴らす。

女性の店員達が、店の奥から材料をカウンターへ運んで来た。

しかし、彼女達は瞬きもせず、息遣いも無かった。


『おい、ラロシェル』

『もうアンドロイドを実用化しているのか』

『人間と見分けが付かないレベルまで、もう少しだな』


エスティアは座敷に寝転がり、クエイドの膝の上に頭を載せた。


【気鋭の天文学者である、ミス・ゴールドバーグにそこまで言って貰えたのなら光栄です】

【貴女のダンジョンに対する、宇宙考古学的なアプローチは非常に興味深い……】

【論文を出すご予定は?】


『今書いている所さ』

『フィールドワークで死にかけたがな』

『【エグレゴール】の宇宙ステーションと衛星群を使わせて貰いたいぐらいだよ』


【貴女が望むのなら、是非手配させて頂きますが】


『……気が向いたらな』

『それに……もう宇宙ステーションぐらいじゃ満足出来なくなっているだろう、ラロシェル』

『お前の事だ、宇宙都市の建設ぐらいは始めていても可笑しくはない』


【流石はミス・ゴールドバーグ……】

【2週間後に発表する予定でしたが、ここで公表しておきましょう】

【我がグループは既に宇宙都市の建設に着手し、完成まで後4か月を切っています】


『『『!?!』』』


エスティアだけは驚かず、アンドロイドから水を受け取って飲む。


『随分と手の早い事だ』

『アイテムや無人機械を使えばあっという間、というワケか』


【はい。その通りです】

【98%の構成部品をモジュール化し、ハイパースケールで生産・組立てを行っています】


『そして、最初に移住出来るのは富裕層と専門職、インフラ維持の要員と兵隊か』


【はい。その通りです】

【宇宙都市を維持するコスト・リスクは一国を運営する以上のモノです】

【まずは精鋭達から投入します】


『お前は地上がダメになると思っているな、ラロシェル』

『アラル海で津波が起きた件は、私もひっくり返りそうにはなったが』


ラロシェルは粉を水で溶いて行く。

その手付きや精密機械の様に正確で、芸術家の様に鮮やかだった。


【これから地上を覆う厄災や紛争は加速します】

【それはこのアメリカも例外では無い】


『アーコロジー(※1)は……ダメか』

『アレは紛争や強烈な災害が無い事前提だからな』

『だが、お前の独り勝ちってワケには行かなそうだぞ』


エスティアはレイカの方へ顔を向けた。

レイカは勝手に冷蔵庫からビール瓶を取り出し、飲もうとしていた。


【ケンザキ氏にも計画があると?】


『さぁな』

『本人に聞いてみろ』

『きっと面白い話が聞けるぞ』


レイカはビールをラッパ飲みし、一息付いて言う。


『アホ学者め』

『商売敵に計画明かすワケないやろが』


エスティアは鼻で笑う。


『ふ・ふ・ふ……』

『お前の計画(・・)とやらは、商売敵に明かした程度で破綻する程度のモノなのか?』


『あーヤバいわ』

『また人を斬ってしまいそうやわ』


ラロシェルは熱した鉄板の上に、溶いた生地を広げて行く。


【私の店では殺人を避けて頂きたいのですが】


『衛生面が理由やろ、どうせ』


【はい】

【常に清潔にしておかないと、客からの評価が下がりますから】


『クソみたいな店だな』


クエイドは具の入ったボウルをジッと見つめていた。


『(アレはタコか……!?)』

『(肉は……?野菜の山を一体どうすると言うんだ……)』

『(あの輪みたいなトッピングの正体が分からない……!)』


ラロシェルは鉄板の上にボウルの中身を出し、手際良く広げて行く。

クエイドは緑色の瞳を大きくして呟く。


『なんてカオスだ……』

『アレが食べ物なのか……!?』


『こんなんで驚いてたら、もんじゃ焼きとかショック死するで』


『モンジャ……ヤキ……!?』


ラロシェルは豚肉を鉄板の上で焼き始める。


『ほー』

『別々に焼くんか』


【ええ】

【焼き上がりの香ばしさや、見た目の美しさが違いますから】


『完全に上級者やんけ』

『実は日本文化大好きやろ、オマエ』


【一通りは勉強させて頂きました】

【最近は茶器と日本刀に魅入られて、工房から設計しています】

【出来上がった物をオークションに出品してもいますよ】


『一体どうなっとんのやコイツ』


彼は焼けた肉を乗せた後にヘラで焦げを素早く集め、隙間へとテコ入れして行く。

そして彼は軽く浮かすように、生地をひっくり返した。

煙と共に、香ばしい匂いが立ち込める。


『──!!』


クエイドは急に立ち上がり、エスティアは思わず座敷から転げ落ちそうになった。


『どっ、どうしたんだ!?クエイド!』


『今の技……何をやった……!』


【生地をヘラでひっくり返しただけですが……】


ラロシェルは予備のヘラを取り出す。

同時に、アンドロイド達が追加の材料を持って来る。


【宜しければ貴方も作ってみますか?オースティン氏】


クエイドは受け取ったヘラを取って構える。


『──無論だ』

『見ていろエスティア、俺は必ずこのミッションを成功させる……!』


『ほ、本当にどうしたんだクエイド……』


彼はボウルに粉と水を入れ、凄まじい勢いで粉を溶き始める。


『このカオスな食べ物は俺の熱を何処まで搔き立てる……!』


『熱いのは鉄板だけで十分なんやけど』


「飛び散ってる!飛び散ってるってクエクエ!」


『あぁッ!』

『眼鏡が……!』


数分後──

クエイドは遂に生地の下へヘラを差し込み、ひっくり返そうとする。

しかし生地は鉄板と癒着し、途中で折れてしまった。


『ひっくり……返せない……!!』

『ミッション失敗……』

『鉄板の上は……紛れもない戦場だ……!!』


レイカは座敷へと転げ回り、足をバタつかせながら甲高い声で大笑いした。



~北海道・札幌市内~

~【アルマス法律事務所】~


『ジュビア様』

『現地に居るミレイアから電話です』


キーボードを叩く薄褐色の指がピタリと止まり、琥珀色の鋭い瞳がカルテルの構成員を睨む。


『外して』


『了解致しました』

『全員外します』


構成員はジュビアに電話を繋ぎ、部屋を出て行く。

残りのスタッフ達も部屋を後にする。


《アルマス様。ミレイアです》

《定期報告、大丈夫でしょうか?》


『ええ。大丈夫よ』

『寧ろ待っていたわ』


《(寧ろ……?)》


『どうしたの?』

『現在の状況を報告するのでしょう?』


《はっ、はい!》

《状況を報告します……!》

《私達はレイカさんと指揮官とし、【ニューヨーク地下鉄8番出口】ダンジョンを攻略しました》


『(早い……!!)』

『続けて』


落ち着きを取り戻したミレイアは、懸命に報告を続ける。


《私達は、現地のギャングや不法移民に対し虐殺を続ける【ドクター・ディルレヴァンガー】と、その配下達に遭遇しました》

《丁度毒ガスで黒人ギャング達を虐殺していた場面に遭遇し……》

《ギャングの一員である少年が殺されようとしていて、その……》


『……助ける為に飛び出しちゃったのね』


《は、はい……》


ジュビアはため息を付いた。

しかし、その顔は何処か柔らかく暖かみがあった。


『……反省点はあるけれど……』

『私個人としては大いに褒めてあげたいわ、ミレイア』

『アナタは……ベルナルド様とカルテルの名に恥じない、勇気ある行動をした』

『アナタを採用した私も鼻が高いわ』


《あっ、ありがとうございます!》


ミレイアはダンジョンでの出来事を、時系列に順を追って話して行く。

ジュビアは時折相槌を打ちながらも、報告のメモを纏めて行った。


『アメリカは相当混乱しているわね……』

『そっちに事務所を構えたら、休むヒマも無さそう』


《ダンジョンでは争い事は付きもの、と仰っていましたが……》

《今回の争いはまるで戦争でした》

《そう考えると、レイカさんの指揮官や剣士としての才能は異様です》


『異様?』


ジュビアの指が止まる。


《はい》

《その……これは言って良いのか分からないんですが……》


『聞くわ』

『私達二人だけの秘密にしておくから』


《……はい》

《レイカさんは子供の隊員を蹴り飛ばした後、斬ろうとしました》

《生かしておけば必ず私達を殺しに来るから、だと……》


『……合理的かつ効率的な判断ね』

『集団のトップとしてはある種正しいとも言えるわ』


《え……!?》


ジュビアは氷と塩とグラスを取り出し、テーブルの上に置いた。

そして氷と塩をグラスに入れ、テキーラを注いでいく。


『善悪は兎も角、二度手間や後腐れを防ごうとしたのは理解出来るわ』

『それに死体を操作したり合成したりする能力……》

『もし大規模な戦争になれば、途轍もない被害が出るのは必定……』

『要はゴルディアスの結び目(※2)に見えたのね、その少女が』


《要は後々まで複雑な問題を抱えたくないから、バッサリ斬りたかったと……》


『その通りよ』

『で、アナタはどうしたの?ミレイア』


《レイカさんの前に立ち塞がりました》

《更生の余地があるから、この子の命を助けて欲しいって……》

《重なったんです。ファヴェーラで追い詰められた時の私と……》


『──』


ジュビアはテキーラを口にした時、思わず目頭が熱くなるのを感じた。


《ジュビアさん……?》


『……最高よ、ミレイア』

『今、アナタを直ぐにでも抱き締めたい程に愛おしいわ』


《そ、そんな……》


『……その後は……?』


ミレイアは口籠もる。


『……言って頂戴』

『怒らないわ』


《レイカさんは一応、私の助命嘆願を受け入れてくれはしました》

《そして何か有った時、私に『腹を斬れ』と……》


『大丈夫よ』

『アメリカにあるカルテルの支部で、その少女の面倒は看れるから』

『そこまで気にする事は無いのよ』

『実際に腹なんか斬らせないわ』


《……私はレイカさんが怖いです……》

《あの人は過去に途轍もない痛みがあって、それが原因で未だに燃え続けている……》

《それどころか……その炎は勢いを増している……》


ジュビアの目付きが僅かに鋭くなる。


『──何かされたのね、あの女に』


《……はい。全て正直に申し上げます》

《……レイカさんは落ちたスニッカーズを刀に差し、『食え』と言われました》

《仕方なく私はスニッカーズだけを、唇で抜こうとしましたが……》


『……』


《刀を口に突っ込まれ、そのまま捻られました》

《そして血塗れになった私の唇に思い切りキスをして、撫で回され……》


彼女の顔から笑顔は消え、怒れる処刑人の歯が氷を噛み潰した。


『報告ありがとう、ミレイア……』

『治療費は幾ら掛かっても私が払いを持つわ……』

『そして、アナタはもうあの女へ協力はしない様に』


《え……》


『アナタを傷つけるという事は、上司である私への挑戦……』

『引いてはカルテルに対する挑戦……』

『あの女……アナタを使って私を挑発し、試しているのよ』

『私は今、物凄く怒っているわ……』


しかし……ジュビアの端正な顔は、抑え切れない笑顔に歪んでいた。

ミレイアは喉が攣りそうになる。


《(しょ、正直に話したら……と、とんでもない事に……!!)》


彼女はグラスを宙に放り投げ、回し蹴りで蹴り砕く。


『ミレイア』


《はっ、はい!》


『無法者がどういった末路を辿るか……』

『それをしっかりと見ておきなさい』

ではまたね(アディオス)


彼女は笑顔を抑え込むかの様に電話を切り、専用の端末を取り出す。


『ティエラ』

『起きてる?』


《【起きているわ!お姉様!】》

《【【掃除】も終わったよ!】》

《【色んな場所に血がべっとり付いちゃって、服のお掃除は大変だけどね!】》


『次の【掃除】に参加するわ』

『アナタは少し休んでいなさい』

『ベルトランには仕事だって言っておいて』


《【うわぁ……お姉様、久々の本気??】》


『ええ……』

『このままだと目の前でガムを吐き捨てられただけで、その人を殺してしまいそうだから……』

『この嬉しいような、それでいて何処までも怒りが湧いて来る感覚……』

『解消しないと、頭がおかしくなってしまいそうよ』


ジュビアは白いコートをハンガーから外し、羽織る。


『レイカ……』

『ベルトランは渡さないわ、決して……』


彼女は白いハンドガンを抜き、窓の外を見ながらじわりとグリップを握り締めた。



※1 

何百万人も住める、巨大な建造物の事。

小説『シャングリ・ラ』のアトラスや、アニメ『アップルシード』のオリュンポスみたいなもん。

要は可住地が減ったので集約して人々を住まわせ、人口過剰や環境劣化という問題の解決を図る発想。

SDGsはこれの普及を目指している節があるが、あのラロシェルが見切っている時点で先は無い発想だと思う。


因みに、ラロシェルはSDGs関連のプロジェクトには1セントも出資していません。

何故なら地球上に居続ける限り、何をどうしても結局は資源が減って行き詰まるから。

ダンジョンだって何時までも使えるとは限らないし。

だから彼は宇宙植民を目指しています。


成功すれば、彼の名と業績は人類史に残る事になる。

それまでにどれだけの犠牲が出るかは分かりませんが。

出てもコストの一言で終わりだ。

視座が完全に宇宙人だなコイツ……


ラロシェルのモデルは多岐に渡ってるんだけども、今回はパーマー・ラッキーとイーロン・マスク味が強い。

無論、ジェフ・ベゾスやビル・ゲイツ面もあって、中々複雑な人物に仕上がってしまった。

これから分かりますが、この男……かなり面白い人外です。


※2 アレクサンドロス大王が複雑な結び目の縄を切った故事に由来。

誰も解けないと言われた縄を、彼は一刀両断して次の街へさっさと向かいました。

謎解きをやってられるのは暇人だけやねん。


じゃ、後書き行くぜ。


真面目過ぎて逆に面白いなクエイドは……

魔王レイやんが彼の言動に大笑いしてるので、多分気に入られちゃってる。

彼の方はレイやんとプライベートで付き合う気は殆ど無い。

しかし今回は約束だったから、仕事人気質な彼にとっては避けられなかったイベントなんだ。


はい。

そしてなんなんですかね、この謎のオランダ人仮面店主は……

皆の前でやりたかったのか?これが……

マジで今回は謎の空間だよ。


大金払って店舗貸し切るとか、どうかしてるぜこの仮面。

100万ドル(プレッパーズ世界での現相場は1ドル250円なので、2億5000万相当)ポンと渡されたら、そら1日くらい『ハイヨロコンデ〜!』的な感じで店渡すけどさ……

素のレイやんを観察するには最適な手段だとは思うし。


ラロシェルは多分、調査費とか交際費とかその手の経費をケチらないタイプだ。

服装や装飾品も、センス良くそれなりの品で纏めると思う。

だから、古いタイプの経営者や、見栄っ張りな芸能人でも多分に落とせる。

実際、名門貴族出身のファルネーゼが自分から部下になってるぐらいだし。

デジタル世界の皇帝だけども、アナログ的な世界でもスーパーエリートだと思います。コイツ。


その辺りがイチカとは一番違う所なんだよなぁって。

寧ろ逆に彼女の方はアナログより、ITやハイテク、先端技術、アーティストやネットビジネスの方が適性ある。

アナログ世界に自分から飛び込んで頑張ってやって来たけども、どう見ても合ってない気がする。


人間が関わる頻度が少ない仕事の方が、イチカには合ってるとは思う。

建築なんて彼女が一番苦手な、人間関係の構築やコミュニケートをかなり要求される世界なんじゃねーかなって……

自分が傷つく様な事を敢えてやってしまうのが、彼女の欠点であり、厄介な人達をより引き寄せてしまう一因にもなっている。


アイカは割とそういうの上手です。

料理の専門学校でも講師陣や栄養士達と良好な関係性を築き、愛されキャラになっていました。

手を出そうとして来た同期の男は行方不明になりましたが。

多分料理の材料になったのでしょう。


ハルカは宮仕えそのものが向いてない。

ああ見えてスゲェ気性が激しいからな。

穏和なタヌキの皮を被った発情期の熊なんだ。

ただ、ビジネスで繋がらない集団……そう言った場所に入ると、凄まじい支配力を発揮します。


世間一般人、特にサラリーマンの軸は金とか出世ですが、ハルカはそれとは明らかに異なった軸と価値観で動いていて、その軸の世界ではとんでもなく賞賛を受けるタイプです。

実は筋トレにもメッチャ向いてます。

ジュビアさんとかからトレーニングを受けたり、格闘技を教わってるシーンは出てくるかもしれない。


因みに、秩序を好むジュビアさんとは性質が対極に見えますが、メチャクチャに仲良くなっています。

というか、彼女がハルカを好いている感じです。

レイやんが彼女達のイチャイチャシーンを見たら、スゲェ顔しそう。

心がグッチャグチャになるだろうな。

ヤバいヤバい、頭の中のラロシェルがまた……


しかし、レイやんもスケールがデカい人だな。

動機はアレだけど、最終的にはラロシェルと経済戦争をする積りだ。

レイやんとラロシェルに在って、アーデルハイド達に無いのは経営のセンスです。

後者は軍事や兵器生産、宣伝に偏り過ぎて、常に自転車操業ですから。


一方、ラロシェル陣営は豊富な資金力と極めて速い開発サイクルで、次々と新兵器や新商品を生み出しています。

そして、それがまた飛ぶように売れるし、情報産業のプラットフォームや流通までをも掌握している。

ただ、核心技術やゲームチェンジャー的な製品は、軍や政府へ決して売り渡さない。

他の陣営へ簡単に漏れるので。


レイやんは社会の混乱とグレーゾーン(ほぼ黒)を突く形で富を蓄え、その経済的地盤を広げている。

市場や社会の隙間を見つけてはそこから莫大な収益を得て投機で増やし、更には税金なんて殆ど納めていない。

二人共金融や投資に精通し、ここぞという時の資金や労力の投入を見誤る事が無いのが共通点だとは思う。


レイやん最大のファインプレーはイチカに対する助力と、借金の実質的な棒引きです。

彼女はゲオルグやアイカよりも早くイチカへ投資し、良好な関係を築きました。

ラロシェルから見たら、尋常ならざる嗅覚と奇運の持ち主です。

しかも前線で戦っても強いしビジュも良い。そりゃ欲しいだろ。


ただ、レイやんはラロシェルへ服従する事は絶対に無い。

協力する様な場面はあっても、従う事は無い。

これはラロシェル側も同じだが。

両者ともトップとして、存在が強烈かつ異常に狂ってる。

今回の探索はその表現でもあった。


レイやんが自分から従うとすれば、それはイチカしかあり得ない。

競馬場での出会いが、彼女の脳を焼き切ってしまった。

ハルカには逆らえない、と言った方が正しいかもしれない。

レイやんの一番弱い部分を握っているから。


二人の間だけなら互いに黙認していれば良いだけの話なんだけども、そこにジュビアさんが気付いたらヤバい。

彼女は虎視眈々と、レイやんの弱味やスキャンダルを集めています。

ミレイアからの定期報告で、つい笑みが零れてしまったのがもう本性出てる。

弁護士って言うよりは、処刑権を持った検事みたいな人だ。

調査・起訴・逮捕・裁判から執行まで一人で完結するから、有罪即死刑になります。

本気で怖いよこの人。


ジュビアさんは基本的には自分の物を奪われたり傷つけられるのが、物凄く嫌な人なんだと思う。

でもそんな人の大切な物にちょっかい出して、自分に感情を向けてくれる事を喜ぶのがレイやんです。

例えば、イチカにちょっかいを掛けると、アイカが必ず食いついて来るのでレイやんにとっては一石二鳥(???)です。


レイやんもジュビアさんも性格と行動が破綻しすぎてて、もう笑えて来る。

ここまで来ると、もう部品の凹凸やカードの裏表みたいなもんだろ。

ベルトランは力の限り強く生きてくれ。

正直、上杉ちゃんとより遙かにお似合いのカップルだぜ。


矢印としてはこんな感じ。


上杉ちゃん ⇒ レイやん ⇒ ジュビアさん ⇒ ベルトラン


しかし、今のレイやんの脳内は


上杉ちゃん ←(死ねの壁)← レイやん ⇒(構ってくれや、ちゅっちゅ~) ⇔(すきすききらい)ジュビア   


《ハーレム1軍》

イチカ(筆頭)、アイカ、エレナ、ミレイア、葵


《ご主人様(???)》

ハルカ

      

こんな感じ。

頭おかしいのか??この魔王……

けど、ジュビアさんもうレイやんの事を下の名前で呼んじゃってるし、割と彼女の事ばかり考えちゃってるぜ。

レイやんの一歩リードだ(意味不明)

ハルカを上にしたいのは、ある種マゾな部分があるからだと思う。


上杉ちゃんは報われぬ純愛ですね。

そりゃ、報われるような事を1ミリもやってないから残念でもないし、当然だ。


因みにジュビアさんの弁護成功率は100%です。

ただ、それは依頼時点で依頼人を選別してあるからです。

依頼人やその種類によっては、お掃除の対象になります。

カルテルの暗い部分にはこの人が必ず関わっている。



今回の後書きはこれで終わりです。

関西圏ではヘラの事を『コテ』と言う様ですね。


「面白かった」「次も期待している」「なんなんだこの超大富豪……」

「葵の借金帳消しになってよかった」「国盗り!?」「大阪商人の正統後継者だな、レイやんは」

「レイやんの造る街も面白そう」「256兆はもうギャグだろ」「クエイドのレイカ評は結構正しい気がする」「高っちゃん大会頑張れ!」「ムカつくラロシェル

「性職者きたな」「バ チ ム チ」「裸のマリア(北海道産)」「糸使い来た!」

「高カロリーフードの嵐……」「葵ちゃんは食生活もヤバそう」「王ってよりは独裁……」

「葵ちゃんもう好きだよ」「エリちメッチャ湿度高いな……」「女ヤクザは草」

「とんでもない店長来ちゃった」「レイやんのツッコミが冴え渡るな」「アンドロイド!?」

「宇宙ステーション!?」「宇宙都市!?!」「後 4 カ 月」

「エスティアとラロシェルの会話がインテリのそれ」「二人とも知的レベル高いな……」

「クソみたいな店でダメだった」「おーいクエイド、どうした??」「モンジャ……ヤキ……!?」

「ラロシェルの日本好きレベルが予想以上だった」「お好み焼き食いたい」「ミッション失敗……」

「レイカ楽しそうだな」

「弁護士やってるのか、スゲェなジュビアさん」「ミレイア採用したの、この人だったか……」

「テキーラ好きなのか」「ミレイア可愛がられてるなぁ」「やっぱレイやん頭おかしいわ」

「ジュビアさんも頭おかしそう」「ティエラちゃんおひさ」「お掃除(震え声)」「相思相愛で良かった良かった」


と、どれか1つでも思って頂けたら、ブクマ・評価・感想頂けると励みになります。

宜しくお願い致します。

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