ハットリ一佐インパクト(前編)
ニンジャは決して倒れない!!
負けてはならぬ!ならぬのだ!!
鑑賞用BGM:
(前半)https://www.youtube.com/watch?v=bE-odp82Ds4&list=RDbE-odp82Ds4&start_radio=1
(後半)https://www.youtube.com/watch?v=BwsqDO_6xjE&list=PL4UMlWGx1pf6rwOZXOJsCntCwQxnQNvjm&index=5
~【シュヴァルツ・シュトルヒ】艦上~
黒い鳥が青い粒子を伴い、弧を描きながら甲板に舞い降りる。
歴戦のニンジャは両手を合わせ、黒い鳥に対し45度のお辞儀をする。
【ドーモ、ハジメマシテ】
【防衛省自衛隊所属、特殊作戦群指揮官の服部善三です】
【階級は一佐。近い内に【国境治安維持隊】の所属になる予定です】
【今後とも宜しくお願い致します】
一分の粗もない見事な挨拶が、激しい戦場に独特の間を創り出した。
クレイエルも【レイヴンズマハト】を通して言葉を返す。
【私はクレイエル・フォン・ヴァレンシュタイン】
【生まれはオーストリアのアイゼンシュタット】
【元ドイツ空軍のトップエースで、今は軍事企業【レイヴンズネスト】のCEOだ】
【こちらこそ、燃え尽きるような闘争を貴官に望む】
見事!
文化が全く違うにも関わらず、流れる様な返しの挨拶!
烈しい争乱の中で、二人の間にだけ静寂が流れる。
【《忍法》】
【《影分身包囲の術》】
服部の姿が横に増え、【レイヴンズマハト】を取り囲んでいく。
【──!】
【鷹狩り……】
【いざ参る!!】
直後、無数の服部が【レイヴンズマハト】へ襲い掛かる。
しかし、黒い機体は敢えて分身の群れへ突っ込んで行く。
【【MOONLIGHT】二段階リンケージ起動】
【レイヴンズマハト】は敵の直前で右へ素早く回り込み、回転しながら分身達を回転ノコギリの様に斬って行く。
【──!】
【イヤーーッ!!】
分身達が消えて行く中、服部は刀を抜き、回転する巨大なブレードへ斬り掛かる。
月光色に輝く巨大なブレードと、刀がぶつかり合い火花が散る。
【……見事だ。ハットリ】
【ここに至るまでの修練と鍛錬、敬意に値する】
【黒い鳥を射落とす】
【それこそが小官に与えられた使命!】
【言葉は不要!!】
【レイヴンズマハト】が纏う青い粒子が増大して行く。
【ならここからが本番だ】
【【レイヴンズマハト】第三段階起動】
【《アサルトフィールド》】
青い波動が黒い機体から球体状に発せられる。
服部は飛び退いて回避したが、全身を焼かれてかけてしまう。
【……!!】
【【MR-R101】第二段階二重起動】
焼かれて行く服部を無数の弾丸が襲う。
最早それは弾丸による射撃というレベルでは無く、機関砲弾の連続射撃だった。
【【ハンゾウソウル】第三段階起動!】
【《忍法無限スリケン》!!】
彼は焼き尽くされながらも、向かってくる弾丸に対して手裏剣で迎撃する。
彼の肘から先は消えているかの如くであった。
【ヌゥオオオオオッ!!】
なんと、銃弾の嵐が手裏剣の嵐で相殺されて行く。
しかし、手裏剣の嵐は銃弾の嵐に押し込まれ始める。
【退けぬ!!】
【負けられぬ!!】
【メンタルの負けが勝負の負け!!】
【レイヴンズマハト】の足元には無数の薬莢が散乱していた。
【強敵……】
【この感覚だ……!】
【この感覚を求めて私は闘っている──】
青い粒子が漆黒のアサルトライフルに集中し、実弾からレーザー弾に切り替わる。
【【レイヴンズマハト】!!】
【私の闘争心に応えろ!!】
レーザー弾が手裏剣を貫通し始める。
レーザーが服部を削って行く。
だが!
【ニンジャは決して倒れない!!】
【負けてはならぬ!ならぬのだ!!】
【《精 鋭 無 比》!!】
服部を赤いオーラが覆う。
彼はなんと素手でレーザー弾をはじき始めた。
【イヤーーーーーッ!!!】
【……そうだ】
【私の前に立ち塞がる敵はそうではなくては……!】
クレイエルは僅かに口元を緩めた。
~首相官邸前~
【コンコンコン~~】
【通してどすえ~~❤️❤️】
狐耳と6本のシッポを生やしたアラサーが、警官達の前で前屈みになって胸を揺らし、尻尾を振る。
「ダメです」
「今は有事です。政府関係者以外の敷地立ち入りは禁止されています」
「さ、お帰りを……」
優秀な警官達だった。
【どうしても~~?】
「ダメです」
「上から部外者は通すな、と命令を受けていますので」
(ははぁん……妖子はんの仕業やね)
(例え私でも、通さん積もりなんやろうねぇ……)
九子はスマホを取り出し、張本警視へ連絡する。
【もしも~~し❤️】
【愛しの九子からどすえ~~❤️】
【勤勉なお巡りさん達が通してくれへんのよ~~】
電話の向こうからは、溜息混じりに返答が返って来る。
《……今から俺が直接そっちへ行く》
《正門前に居るんだな?》
【はい❤️】
《……そこで大人しく待っていろ》
《はいは~~い❤️》
通話は切れ、九子は柔らかい笑みを警官へ向ける。
【ウチの夫が迎えに来てくれなはります】
【残念だったやねぇ……】
【ふふふっ❤️】
警官達は困惑の表情を浮かべた。
しかし彼等は認識していなかった。
相手は乗っ取りのプロだという事を。
【そして……勤勉も過ぎれば毒どすえ】
【【玉藻鏡】第二段階起動】
【《乗っ取り式神》】
形代が鉄格子の隙間をすり抜け、警官達の胸に貼り付く。
【門を開けてくれまへんか?❤️】
警官達は抵抗の意思を示したが、身体は門を開けていく。
【ありがとうどす~~❤️】
【用が済んだら直ぐ帰ります~~❤️】
九子は形代を懐から取り出し、軽く口づけをした。
敷地のど真ん中の歩いて行く九子の前に、走ってきた張本が立ち塞がる。
「……!やはり……!」
【きゃ~~ん!❤️❤️】
【走って迎えに来てくれなはるなんて……】
【余りにも心がイケメンやわぁ……❤️】
彼女は尻尾ブンブン丸になった。
「九子……!」
「今は有事だ。お前を拘束……」
九子は張本に飛びつき、彼の口を自分の口で塞ぐ。
(言わしません❤️)
(拘束されてるのは張本はんどすえ❤️)
張本は彼女を引き剥がそうとする。
だが、何故か腕に力が入らないのを感じた。
それは彼自身が彼女に絆され始めて居る、という事でもあった。
彼女は唇を離して言う。
【張本はん……】
【あんた程のええ男、誰かの使い走りやってるなんて耐えられんのどす】
【例えあんたが良おしても、うちの心が許さへんのどすえ】
「俺は一介の警官、そしてSPの隊長に過ぎない……」
「九子、お前の望みは俺には大きすぎる……」
【張本はん……】
【それは自分自身で、そう言い聞かせているだけどすえ】
【今はもう乱世どすえ】
【自分の意思と行動次第で、全てがひっくり返る時なんどす】
九子は張本の肩へ手を回す。
【張本はんには仕事に賭けるプライド以上に、心の奥に【正義】がある……】
【今の世の中、正義の味方なんておらへん】
【だけど、あんた様なら成れる……】
「【正義のヒーロー】、にか……」
「懐かしいな、子供の頃テレビや雑誌で見たヒーロー達を思い出す……」
「だがこうして時が経った今は……年下の上司に使われるしがない独身男だ」
「今回の事件でも無力さを痛感しているよ」
彼女は手提げバッグから、バックルに装置が付いたベルトを取り出す。
【これ……】
【そう言うと思って、あんた様の為に取って来たんどすえ】
【《六本木トンネルダンジョン》に潜って……】
「……俺の……為にこのベルトを……」
「《バッタライダー》の変身ベルトに似ているな……」
「……嬉しいな。部屋に飾って……」
九子は首を振りながら、穏やかな顔で張本に迫る。
【……バックルに耳を当ててみなはれ】
張本は躊躇いながらも、バックルに耳を当てる。
《【自分の人生を狭くするのは他人じゃない。本当は、自分自身だ】》
《【自分を信じる事、それこそ自分が自分らしくあるための第一歩なんだ】》
「……!?」
彼は聞こえて来た声に驚き、思わず耳をバックルから離す。
九子は戦火の広がる空へ手を広げて言う。
【ふふふ……子供の頃憧れていたシチュエーションは直ぐそこどすえ?】
【あんた様は心の何処かで、平和が乱れる瞬間を望んどった】
【自分が愛する平和を護る、【正義のヒーロー】へなる為に……】
「ば、バカな……!」
「俺は……!」
【なら、何故SPを続けているんどすえ?】
【最早正義はそこにあらへんのに、危険だけに身を晒している……】
【本当は命を正義の為に賭けたい……それが伝わって来たわ】
【あの時……本当はあのイタリア男をヒーローとして退治しとうて、ウチを庇うたんやん?】
「──!!」
張本はベルトを見つめる。
もうベルトは声を返さなかった。
彼はベルトを腰に巻き、九子へ言う。
「九子」
【なぁに?❤️】
「俺はこれから【正義】になる」
「諦めたヒーローの夢……30年振りに追ってみようか」
【……!!❤️❤️】
張本は右手を回し、左手を引く。
ベルトのバックルが回転し、光を放ち始める。
「【正義のバッタベルト】起動!!」
「《変・身》!!」
彼は赤いマフラーを付けた、装甲を纏ったバッタ男に変身した。
《この混乱に乗じ、悪事を働く者達……》
《それこそ俺が闘わなければならない連中だ》
《……九子》
【はい❤️】
《ここの守備は任せた》
《今回の事件が片付いたら、バーかカフェへ行こうか》
【はぅぅぅんっ!❤️(きゅんきゅんきゅん)】
そして張本は警官達が驚く中、敷地の外へ出て行く。
《【正義】出陣》
赤いマフラーが風で靡いた。
~【シュヴァルツ・シュトルヒ】機関室~
【へぇ~……!なるほどですね……!】
上杉警視は傭兵の首を刀に差しながら、血塗れのゼリービーンズを袋ごと頬張った。
【つまりここをバラバラに斬ってしまえば……】
彼女は【毘沙門剣】を振り、首を放り投げた。
【まさにあの時と同じです!】
【証拠は焼き払うに限ります!】
【特に……あの藤原とかという自衛官は煩そうですし……】
上杉はコーラ味とサイダー味の飴玉を、同時に口の中へ放り込む。
そして飴玉を思い切り噛み砕きながら、微笑み出した。
【嗚呼……御祖父様……貴殿がいけないのですよ】
【私にお菓子を食べさせてくれなかったから……】
【私に遊ばせてくれなかったから……】
凶剣が薄明かりの中で煌めく。
【嗚呼……レイカ殿……】
【私は貴殿と早く遊びたくて堪りません……!】
複数の斬撃が巨大なエンジンへ向かって行った。
読者の皆様、オツカレサマドスエ。
服部一佐の超精鋭軍人としての矜恃と、ニンジャとしての魂が光っている。
彼のアイサツを邪魔せず、静かに応じた上に見事なアイサツを返すクレイエルも流石。
忍者作品好きかって?
大好きさ!
ぶっちゃけ服部一佐でダメだったら、マジでどうしようもない状況だったんだよね。
しかしその尋常ならざるカラテとワザマエスキルにより、光明が見えて来ました。
アイテムの練度に関しても滅茶苦茶高い。
そして……
上杉ちゃんが遂にやらかしましたね。
もし人口密集地帯で巨大空中空母が墜落したら、その巻き添えで数万人は吹き飛ぶでしょう。
負傷者を合わせると数十万人規模の被害です。
それでも彼女の日常は変わりません。
甘い物を食べ、仕事に励み、人を斬るのです。
逆の見方をすると、数万人程度の死で動揺するようであれば、殿上人は務まらない。
上杉ちゃんは生まれ付き、類い希な征服者としての才能がある。
ただ、それは彼女の行く所死体が積み上がるのは避けられない、という事です。
上杉ちゃんはお菓子すら与えられず、厳しいだけの環境に長い間置かれた子供が、どういう大人になるか……
その一例を示しています。
彼女は完全に壊れてる。今お菓子をバリバリ食ってるのは、子供時代の反動でしょうね。
子供には菓子を買い与えなきゃな。彼女には親の愛も無かったんだけども。
レイやんと上杉ちゃんは何もかもが対極だと思ってる。
もし彼女達の生まれが逆なら、全てが順調だったかもです。
レイやんなら抜け道を必ず見つけられるし、上杉ちゃんは両親の愛と一般的な教育を受けるべきだった。
無意味なIFですが。
それらはさておき、九子がこの動乱に乗じ、遂に蠢動し始めました。
なんだよこのアラサー。
可愛すぎるだろ……
四十万が姉に対し、超嫌な顔をする理由が分かると思います。
九子のソフトスキルは四十万より完全に上で、その手腕はアイテムを得てから更に磨きが掛かっています。
妹の政敵にならないよう祈っておきましょう。一応。
張本警視超頑張れ。
……と、言いたい所だけど、彼の雲行きも大概怪しくなってきた。
大体、大人になってから正義とかヒーローとか言い出すのは危険過ぎる。
九子から渡されたブツのポテンシャルの底が、余りにも知れないし……
ただ、アラサーでゴスロリの格好してネオナチの指導者やったり、大国の少将なのに40過ぎて魔法少女の格好する人が居る世界なんで、40代の【正義のヒーロー】な警官が居ても問題ないと思ってます。
ダンジョン業界はルール無用だな。
……クッソ怖いよこの業界。
四十万の部下ラインナップ、とんでもない事になってきたな……
ニンジャにライダーに、女軍神に覚悟完了……
リンちゃんがツッコミ&フォロー役として、過重労働になるのはもう避けられないにゃ。
うにゃぉおおぉん!!
キャラの濃さで言えば全勢力中トップクラスですね。
そもそも四十万からしてかなり濃いし、九子も濃い。
日本の治安・国防組織が一番濃いってどういう事だよ。特濃じゃん。
マルファやアーデルハイドの部下達も大概だけど。
そして張本警視……実はメンバーの中で一番狂人度が高くて、こっちもビビってるんだよね。
よく考えたら、仮○ライダーって狂人度高めな気がするけども。
【正義】そのものになる、ってかなりブッチ切ってますよ。
多分悪人と判断されれば問答無用で、正義の銃弾とキックが撃ち込まれます。マジ怖ぇよ。
九子は悪妻なのか良妻なのか、判断に困る所です。
夫の為に尽くす、という意味では間違い無く良妻なんですが。
彼女は今まであらゆる有望な男達をダメにし、その人生を破壊して来ましたが、今回は逆にダメにされてしまってますね。
操ろうと思ってももう無理ですよ、あの男は。
四十万や藤原とよりも、張本が上杉ちゃんと対決する日の方が近そう。
張本の【正義】の定義的に上杉ちゃんは完全アウトなので。
国境治安維持隊のパーティバランス、実はかなり危うい。
服部が居なくなったら結構ヤバい気がする。ニンジャこそキーストーン。
次回、藤原の魂が血塗れで輝きます。
リンちゃんも大活躍しますにゃ。
「面白かった」「次回が楽しみ」「ワザマエ!」
「服部一佐がんばれ!」「流石ニンジャ強い」「互いに見事なアイサツ!」
「当然のようにクレイエルが強すぎる」「精鋭無比!」
「コンコンコン~~」「きゃ~~ん!❤️❤️」「これは良妻」「ヤバそうなベルト来たな……」「いや、ヤバいのは張本警視じゃないか……?」「正義のヒーロー……」「【正義】出陣!」
「やっぱり前科あったか、上杉ちゃん」「レイやんと真逆の過去だな……」「この女は壊れてる……マトモじゃない……」
と、どれか1つでも思って頂けたら、ブクマ・評価・感想頂けると励みになります。
宜しくお願い致します。