東京ダウンフォール2026(後編)
私が全てを得たいのは、たった一人の為ですから
彼女に……私と私の愛を心の底から認めさせる……それだけの為に
鑑賞用BGM:https://www.youtube.com/watch?v=RQ7BD0ELAco&list=RDwTbii8HZgjw&index=4
~十数分後~
~第二海堡~
四十万達を乗せたMV−22オスプレイはまだ平穏な海を通り抜け、古い人工島に着陸する。
「【幻影幻灯幻夜】起動」
四十万や兵士達の姿が消え、人工島は鳥が集まるいつもの光景に覆われる。
「これで上空からは何時も通りの第二海堡でしょう」
「リン。空中艦隊がここを通るまであとどれ位ですか?」
「……移動速度から計算して、8分と13秒程ですにゃ!」
「大道さんから入って来た情報だと、横田と厚木の米軍はやられたらしいにゃ!」
「作戦機の被害は既に100機を超えてるって、市ヶ谷と横須賀の米軍司令部は大騒ぎですにゃ!」
(成る程、時計回りに渦を巻きながら……)
藤原曹長は拳を握って突き上げる。
《時間がねェぞ!!妖怪メスゴリラ!!》
《あと8分も待っていたら、東京が火の海だ!!》
「……別に良いですよ、今の東京が火の海になったって」
「寧ろ行き詰った巨大都市の再建チャンスですよ」
「クレイエルに感謝したいぐらいですねぇ」
《何だと!?》
藤原は四十万に詰め寄る。
四十万は平然と言う。
「破壊は再生と創造のチャンスです」
「今の東京は外敵と戦えるような都市じゃない」
「1200万のお荷物を抱えて、マトモな防衛戦争なんか出来ません」
「クレイエルが物流ラインやハブを狙わなかったのは、ある意味彼の慈悲だと思いますよ」
《慈悲だと……!》
「ええ」
「彼は元々兵站ラインや物資拠点の空爆・破壊から、戦場でのキャリアをスタートさせています」
「その気になれば、戦後の東京に飢餓を起こさせるのは造作も無い事でしょう」
「でもそうはしなかった。そこが今回の戦いのポイントです」
上杉は首を捻る。
「むむむ……全く狙いが分かりません……!」
「世界のデザート店を献上させて、独り占めする気なんでしょうか……!」
「警視は少し甘味から離れて下さいにゃ」
四十万は西の空を見つめる。
「……そう強ち的外れでもないかもですねぇ、上杉警視の言ってる事は」
「クレイエルのこの行動によって一番利益を得るのは、少なくとも私達日本人じゃありません」
「彼を支援している人間です」
「恐らく今回はクレイエルとその部下達の戦力テスト……」
「そして東京の経済支配に向けた【整理】、と言った所でしょうか」
「つまり……これは戦争ですらない」
藤原は部下にサインを送りながら言う。
《……東京はリアルな大戦争をするには狭すぎるのか》
「ええ」
「上海やモスクワの方がそういうのには向いていますよ」
「この絵図を描いた人物は本当に人間なのか、疑わしくなって来ました」
「我々がチェスのコマだとしたら、その人物はそのゲームを考え出したような存在だと思ってます」
「ゲームマスターにも近い存在です」
「指し手ですら無いのですかにゃ」
「気が向けば遊んではくれるでしょうねぇ」
「ただ、永遠に勝ち筋の見つからないゲームをやらされ続けます」
「そしていつ始め、いつ終わらせる事が出来るかも決められる……」
「そこで……私は視点と考え方を変えました」
《……ゲームに参加しない、そういう事か》
「言葉は足りませんが、正解ですよ藤原曹長」
「私には私が得意なゲームがある。苦手なゲームには乗りません」
「私はSLGや謀略ゲーより、自由度の高い外道ゲーが得意なんです」
突如面を付けた紫色の忍装束を着た男が、海から上がって来る。
藤原の背筋が伸び、綺麗な敬礼を忍者(?)へ向ける。
【貴女が四十万警視正か】
【小官は服部と申す者。階級は一佐(大佐)だ】
【特殊作戦群を指揮している】
四十万達も忍者大佐へ向けて敬礼を返す。
「……会話、聞いてました?」
(ぅわ……覚醒してますよこの人……流石、特戦群の指揮官ですねぇ)
【水遁の術で潜みながら聞いていた】
そう言って彼は竹筒を取り出す。
到底竹筒程度では凌げそうにない荒波を見て、リンは首を傾げながら言う。
「……息を止めてただけにゃ?」
【息止めでは無い】
【水遁だ】
「アッハイにゃ」
「でも水の中で聞こえてたのはどう考えてもおかしいにゃ」
【忍術の一つだ、デッカー猫娘】
「インストラクション、どうもありがとうございましたにゃ」
藤原はリンに詰め寄る。
《ゴラァ!猫女!》
《この方はな!特戦群の群長だぞ!!》
《怪しげな見た目だからって、失礼な態度取るんじゃねぇ!》
「どう考えてもおまえの方が失礼にゃ」
「ふしゃーーっ!」
リンは猫が怒る様に毛を逆立てる。
【別に良い、藤原】
【自分は猫が好きだからな】
「……状況分かってるんですかねぇ、この人達は」
「……服部一佐。今回は隠密性とタイミングがキモです」
「敵に気付かれたら、遠距離攻撃の餌食ですからねぇ」
服部は四十万の方を向いて言う。
【その前に聞いておきたい事がある。警視正】
「……何でしょう」
【貴官はこの戦い、何の為に戦っている?】
【一人の人間が拾えるモノはそう多くない】
【3つ以上同時に抱えれば、大抵手から溢れ落ちる】
【敵が早ければ、その全てを落とす可能性すらある……】
四十万は珍しく、口元を緩めて優しげに微笑んだ。
【私が欲しいのは全部、全部ですよ一佐】
【私は苦渋の選択とか、そんなのしたくない人間なんです】
【今は全て失いそうな状況ですが、まだ敗北が決まった訳じゃありません】
【……そうか】
【もし部下達が貴官の欲望の餌食になりかけるならば、私は公然と叛旗を翻すだろう】
【それだけは心に留めておいて欲しい】
四十万は自分の髪を撫でる。
【大丈夫ですよ、一佐】
【私が全てを得たいのは、たった一人の為ですから】
【彼女に……私と私の愛を心の底から認めさせる……それだけの為に】
【……そろそろ行きましょうか】
藤原は腕を組む。
《……イカれてやがるな、この妖怪メスゴリラ》
《だが、イカレてねぇとイカレた相手に勝てる訳も無ェ……》
《俺達特戦群の命!お前に預けた!》
《その冴えすぎるお脳で、この状況をどうにかしてみやがれ!》
四十万から妖気が溢れ出す。
【……言われるまでもありませんよ】
【そして精々頼みますよ、皆】
【……【ぬらりひょんの巻物】第二段階起動】
【《妖怪空中機動隊》】
四十万の足元から一反木綿達が頭を覗かせる。
上杉警視は躊躇なく一反木綿に飛び乗る。
「一番槍は私です!!」
「私はサムライ!ニンジャには負けてられません!」
「とりゃぁーーっ!」
リンや藤原、他の隊員達も一反木綿に飛び乗る。
《お前はサムライじゃなくて警官だろうが!!》
「この人に一々ツッコんでいたら、本気で持たないにゃ!」
だが、既に服部一佐は一反木綿より先に空中を駆けていた。
「なぬわっ!?」
【私には必要無い】
【《空遁の術》】
何と服部は右足が落ちるより前に左足を踏み出しながら、素早く空を駆け上がって行く。
上杉は悔しがり、刀を振り回す。
「ま、負けた……!」
「悔しいですっ!!」
「まだ闘いはこれからですにゃ、警視」
「つーか《術》って付ければ何でも通ると思わないで欲しいにゃ」
「……こんな色物軍団が日本最後の砦とか、もうマッポーの世の中にゃ……」
「でも……私はこういうのが大好きにゃ!」
リンは笑いながら溜息を付き、肩を竦めた。
~浦賀水道上空~
~空中艦隊~
~旗艦【空中母艦シュヴァルツ・シュトルヒ】~
『艦隊の先頭、東京湾入ります!』
『敵のF-35B編隊、【レイヴンズマハト】によりロスト!』
『習志野駐屯地よりF-16とF-2の編隊が本艦に接近!』
『AAM(空対空ミサイル)!来ます!』
艦橋では10代前半から10代後半の少年少女達が、立体映像を忙しく操作していた。
『エネルギーフィールドを40%前面に集中!』
『了解です!ルヴィアンカ艦長!』
ミサイルの群れが【シュヴァルツ・シュトルヒ】に襲い掛かる。
だが、全てのミサイルはバリアに受け止められ、艦に届かず爆発する。
『反撃!!』
『12番から96番までのミサイルセル解放!』
『了解!』
『敵編隊補足!ミサイルハッチ12番から96番まで開放!』
漆黒の空中空母から、大量の誘導ミサイルが放たれる。
【【幻影幻灯幻夜】第二段階起動】
【《飛蚊症の夏夜》】
だが、誘導ミサイルはまるで何かに騙されたかのように、戦闘機隊から逸れて行く。
四十万は青色のエネルギーフィールドを睨み、上杉に向かって叫ぶ。
【警視!!】
【あの鬱陶しいバリアを叩っ斬ってしまいなさい!!!】
「承知!!!」
【オン・ベイシラマンダヤ・ソワカ……】
【【毘沙門剣】第三段階起動!!】
上杉はただらぬ剣気と闘気を纏って行く。
(【私はいつか月を斬るんだ!!】)
(【障壁如き何するものぞ!!】)
彼女は一反木綿から飛び立ち、バリアに向かって斬り掛かる。
【《多聞天斬》!!!】
上杉の【毘沙門剣】と、【シュヴァルツ・シュトルヒ】のエネルギーフィールドがぶつかり合う。
『……ッ!?生身!?何処のバカなの……!?』
『──エネルギー100%、前面集中!!』
空中空母のエネルギーフィールドが更に強度を増す。
激突で生じた高温が、上杉の身体を熱して行く。
【ぬぬぬぬ……!!中々やりますね!!】
【でも私は死んだ御爺様との約束を果たす!!】
パリッ。
【ぬおりゃああああああーーーっ!!!】
エネルギーフィールドは、一人の剣術バカよって真一文字に叩き割られて行った。
狂愛。
多分、四十万はイチカの事を一番知っている人間かも。
ただ、彼女はイチカの弱い部分や悪い部分を溺愛している気がする。
アイカがイチカの強い部分と良い部分を溺愛しているのとは対照的だな、と。
四十万とイチカの過去回想編は必ずやる予定です。
というか、四十万の過去を通じて主人公であるイチカの過去も明らかになる部分があるので。
1200万のお荷物、火の海になれば良い、後ろから奇襲する、とか言いながら首都圏外ギリギリかつ正面から敵旗艦に乗り込もうとする辺りが、本当に四十万らしくて好き。
体制側から見たら彼女ほど頼もしい人材は居ない。
山金は四十万にトップとしての才能と素質を見出しつつあります。
もしこの戦いで成果を挙げれば、四十万はヤストレブとかと同じく【英雄】の仲間入りです。
本人は微妙な心境だろうけども。
上杉ちゃんは色んな意味ですげぇ……
性格はヤストレブや高っちゃんに近いタイプですが、彼女はそこに天性の才能が加わっています。
ただ、人が全く付いていけないタイプの天才なんですよね……
まず月を斬る、という発想自体が既に常人じゃないし、本気でそれを叶えたいと考えている所はもう完全に異常者です。
更にバリアまで斬ってしまいました。もう突き抜けてますね彼女は。
このニンジャ大佐無法すぎる……
忍法や術って付ければ何でも通ると思うなよ。
なお、ほぼ素のカラテの模様。こわ。
ノーカラテ、ノーニンジャ。
リンちゃんのフルネームそろそろ明かすかも。
基本的にもうツッコミ役ですね、彼女は。
今回の作戦で一番精神的ダメージを被るのは、根が純情ヤンキーな藤原だと思う。
【シュバルツ・シュトルヒ】に乗っているのは大人だけではありません。
ガッツリ少年兵(元孤児)が乗ってます。
彼はマトモな兵士なだけに余計にキツイかも。
なお、艦内の少年兵は全力で四十万達を殺しに掛かって来ます。
少年兵達が殺されると保護者兼上司である大人の傭兵達が、傭兵達が殺されるとその司令官であるクレイエルが本気で殺しに掛かって来ます。
なんだこの気分の悪いクソゲーは。
四十万の名采配に期待しましょう。
この試練!是非乗り越えて頂きたぁい!
読んでくれてありがとうございますにゃ。
何も予定が無くても、休暇はそれだけでいいにゃ。
「面白かった」「次回が怖い……」
「四十万かしこい」「ここまで割り切れるのは流石」「イチカへの歪んだ愛がクソ重すぎる」
「アイエエエエ!ニンジャ!? ニンジャナンデ!?」「やっぱりカラテだよなぁ」
「上杉ちゃんはさぁ……」「リンちゃんのツッコミなしでは無理だろこの集団」「少年兵っておい……」
「凄惨な戦いになりそう」「がんばれ四十万!」「【幻影幻灯幻夜】が便利過ぎる」「上杉ちゃんマジですげぇ!!」「全員おかしいですにゃ」「四十万、本当はクソ甘かつ優しいんじゃ……」
と、どれか1つでも思って頂けたら、ブクマ・評価・感想頂けると励みになります。
宜しくお願い致します。