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下から見た大空

俺は知っているぞ!この空を……!!

これは……かつて廃工場から見た空だ……!!


鑑賞用BGM:https://www.youtube.com/watch?v=0PvfgkC7RR4


~アスタルトのダンジョン~

~水上都市廃墟~


レイカはマルファが作った氷の上を滑りながら、【加具土命】を構え直す。


『さぁ行くでオバハン』

『魔女狩り開始や』

『この身が燃え尽きるまで付き合うて貰うで』


【そう……どうしても私と遊びたいのね?レーカ……】

【今度は火傷を負うだけでは済まないわよ……?】


マルファは【魔勇剣グラデニェッツ】を構え、隣には彼女と似た姿の闇が手招きする。


「2対1か……」

「命燃やすには上等や!」


ハルカはレイカに向かって叫ぶ。


「レイやん!」

「私の助けは要らないの!?」


「要らん!」

「これは私が乗り越えないかん闘いや」

「それに……ハルカ、お前は嫁入り前やろ」

「死なせてもうたら、あの世まで死神の兄ちゃんに追っかけられるわ」


「レイカ……!」


レイカはハルカに向かって言う。


「あの列車に乗って逃げろや、ハルカ」

「私と高っちゃんは魔女とあのハイテンションバカを食い止める」


「……!」

「分かった!」

「気を付けてレイやん!!」


「……ああ」

「またなハルカ」


ハルカは泳いでその場を離れ始める。


【あら】

【逃がすワケないでしょう?】


マルファは【グラデニェッツ】を水面に向かって振る。

たちまち氷がハルカを追い掛ける。


「……っ!」


だがレイカも【加具土命】を振り、放たれた炎が氷の追撃を阻んだ。


『お前の相手は私やオバハン……』

『闘う相手間違えたらアカンがな』

『これはコントちゃうで??』


レイカはまたしても縮地で距離を詰め、下から斬り上げる。


【素晴らしい芸ね、レーカ】

【でも最早バカの一つ覚えに等しいわよ】


マルファはレイカの刀を上から剣で素早く打ち付ける。


『──!』


【お綺麗な顔面がお留守よ、レーカ】


レイカの刀と身体が下がった直後、マルファの左ミドルキックが彼女の頭に直撃する。

彼女は視界が前後左右に揺れ、思わず膝を付いてしまう。


(……アカン)

(視界が……!)


レイカは刀を支えに立ち上がろうとする。

だが、マルファはレイカの上着の奥襟を掴んで引き寄せると、彼女の鳩尾へ膝を入れた。


「かはっ……!?」


マルファは襟を放すとレイカの薄い肋骨へ右ミドルキックを入れ、蹴り飛ばした。


(何やコレ……!)

(想像以上に強すぎるわ、このオバハン……!)


レイカは氷の上に投げ出され、血を吐く。

氷が赤く染まる。


【あらあら……】

【威勢の割にはあっけなかったわね、レーカ……】

【剣の腕は良くても、身体の方はまるで紙じゃないの】


「ハハ……言ってくれるわ……!」

(アバラが二本逝ったで……!)


レイカは吐血しながら立ち上がる。

それでも【加具土命】に宿る炎は未だ燃え盛っていた。


【レーカ……】

【素晴らしい根性よ】

【ヤストレブには及ばないけれど、エレナに見習わせたいわ】


『……ホントはどう思ってんのや、エレナの事……』

『お前が《スタヴローギナ少将》のままなら、あいつはとっくに処刑されとるハズや……!』


【……目的達成の為の必要なコスト、そう言った方が良いかしら】

【今まで一番物覚えが悪く、出来の悪い生徒と言って良いわ】

【端的に言うなら、私の足首に付けられた【重り】よ】

【ウクライナで逢ったあの孤児の方が、まだ遥かに見込みはあったわ】


『見損なったわ……!』

『戦いを好まん娘を態々駆り出しておいて、その言い草か……!』


レイカは、不安げにおろおろしながら廃駅に立ち尽くすエレナを一瞥した。

マルファはレイカに近づきながら、言葉を続ける。


【ただ、存在意義が無い訳じゃないのよ?】

【あの娘が居る事で、イーチカの飛び抜けた価値の高さがより証明されるから】


レイカはタバコを取り出して咥え、火を点ける。


『アイツは……少なくともアイツはお前に見捨てられないか、常に不安がってたで』

『どういう経緯でお前に預けられてるか知らんが、余りに可哀想過ぎるわ』

『見捨てるもクソも、最初からお荷物……いや、測定器扱いなんやからな……』


【……ならどうするの?】


『決まってんやろ』

『アイツの面倒は私が看たる』

『アイツを一人前……いや、最高の女にしたる積りや』


マルファは静かに笑い出す。


【ふふふふ……ごめんなさいね】

【もう生き残った気でいるから、つい笑いが出たわ】


レイカはタバコの煙を吐き出す。

刀から彼女の身体へと炎が燃え移り、火傷を中心として炎が燃え盛って行く。


【ザケんなや、ババァ】

【エレナの本当の良さに気付けんヤツが、あの難し過ぎるいっちゃんを育てられるか】


【……貴女には収容所での矯正労働教育がお似合いよ】


【ハ!言ってろや!】

【私は金稼ぎは好きやが、労働は嫌いや!】

【例え核向けられても、馬車馬の様に働くのはゴメンだわ!】


【貴女とはトコトン合わないわね、レーカ……】

【まるで鏡に映った醜い自分みたいよ……!】


レイカはタバコを吸い、煙を吐き出すと共に燃え殻を投げ捨てた。


()は正直やからな】

【それに鏡が映し出すのは見た目じゃなくて中身や】

【そして……それを教えてくれたのはいっちゃんや】

【いっちゃんが居なければ、今頃酒飲みながら昔の様にヘラってたわ】


【……!】


【もうええやろ】

【これは殺し合いですらない、タダのしょうもないケンカや】

【なっ!】


レイカは氷が割れる程に踏み込み、再びマルファへと向かって行った。


──一方、高っちゃんとヤストレブはダンジョン内に轟音を響かせながら、死闘を繰り広げていた。


《はははははははは!!!》

《楽しい!!楽しいぞ!!戦友ーーッ!!!》


「来い!!ヤー!!」


高っちゃんの腕橈(わんとう)骨筋と、【ケストレル】のレーザーブレードがぶつかり合う。

その衝突は一見素朴にして単純だったが、余人には到底立ち入れない領域にあった。


《感じないか!!戦友ッ!!!》

《高みへと駆け上がって行くのを!!!》


「過去最高の仕上がり!!ヤー!!」


《そうだ!!》

《今まで積み重ねた想いと努力!!そして工夫が!!俺達をここまで押し上げている!!》

《言葉は通じないが、お前の人生がビリビリと伝わって来るぞ!!戦友!!》


拳とブレードがぶつかり合い、余波で廃墟のガラスが吹き飛ばされる。


《俺達には何も無かった!!そうだろう!!》


高っちゃんはもう一方の拳でヤストレブの言葉に応えた。

ヤストレブは笑顔になる。


《だが、朝も昼も夜も恋焦がれ続けた!!》

《眺めるしかなかった!!しかし、俺達は歩みを止めなかった!!》

《徹底的に工夫した!!食事を!!道具を!!鍛え方を!!》

《俺達はまだ6歳の時の夢を見ている!!》

《だが、もう夢じゃない!!夢の更に上を翔ぶ時だ!!》


「栄誉は直ぐそこ!!ヤー!!」


《それだけじゃダメだ!!戦友!!》

《俺達は希望にならないといけない!!天空に瞬く希望の星に!!》


ヤストレブは負荷と衝撃で吐血し、コクピット内が紅く染まる。

だが、彼の橙色の瞳は少年の様に輝いていた。


《【ケストレル】!!《オーバードブースト》起動!!》

《【俺の魂を燃やし尽くせ!!!】》


【ケストレル】の背後からブーストが噴射され、高っちゃんを地面へ押し込んでいく。


「ワイの筋肉……」

「ブチ切れてもええ!!」

「想いに応えてくれ!!ヤー!!!」


高っちゃんは血塗れになりながらブレードを掴む。

そして上に向かって放り投げようとする。


《【そうはさせんぞ!!戦友!!】》

《【おおおおおおおおっ!!!】》


オレンジ色の炎が【ケストレル】から噴き出て、高っちゃんを更に押し込もうとする。

高っちゃんの筋肉が光る。


【パワーーーーー!!!!】


ブラックメタル色の機体が浮き始める。

いや、浮かされていた。1人の超マッチョメンに。


【また!!来世で逢おう!!ヤーーー!!!】


なんと、【ケストレル】は上空に向かって放り投げられた。


《【ははははははははは!!!】》

《【空の天辺まで俺を連れて行くと!?】》

《【その圧倒的な筋肉に対し、沸き上がるこの気持ち……まさしく愛!!!】》

《【クレイエル!!申し訳ないが浮気してしまいそうだ!!!】》


高っちゃんは身体を捻り切り、竹とんぼのように回転しながら飛び上がって行く。

【ケストレル】は機体前方にエネルギーを収束し、レーザー砲を構える。


《【無窮たる星々に希えパスリエードニー・ブィリーナ!!!】》


極太のレーザービームが、飛んで来る高っちゃんに向けて放たれる。

高っちゃんは回転しながら、ビームに向かって連続パンチを繰り出す。


【マッスルストーーム!!!】


高っちゃんの拳がレーザービームに触れる。

ビームが高っちゃんを僅かに押し返す。

だが、彼の拳はビームを突き抜け、機体に当たり始める。


《【凄いぞ!!!戦友ッ!!!!】》

《【今!!!俺は負けようとしているッ!!!】》


【ケストレル】はダンジョンの天井(・・)に叩きつけられる。

だが、高っちゃんの猛ラッシュは止まらない。

ダンジョン全体が凄まじい震動に包まれる。


【ヤーーーーーーー!!!!】


【ケストレル】を楔とし、ダンジョン全体にヒビが入って行く。


【パゥワーーーーーーーァ!!!!】


遂に高っちゃんの連続パンチは、【ケストレル】ごと地面を下から突き破った。

天井(・・)は崩れ、水面に落下しては水しぶきを上げて行く。

ヤストレブは血塗れになりながら、青い空を見て荒い呼吸で呟く。


《【俺は知っているぞ……!この空を……!!】》

《【これは……かつて……廃工場から見た空だ……!!】》


彼の橙色の瞳には太陽の真下を飛ぶ、黒い鳥が映っていた。

そして、それはもう遠く無かった。



【覚醒】のバーゲンセールか??

それ程強い意思と想いがぶつかり合っている、という事なのかも。

ラロシェルは多分もうウッキウキで観てる。

だって初っ端から面白すぎるし……


と、いうワケで今回は少し裏話を。


ヤストレブは家が貧しかった為、ジャンク屋でアルバイトをして空軍パイロットになる為の原資を稼いでいました。

稼いだ金の大半は栄養の付く食材を買う金や、勉強代、トレーニング代に充てていました。

そんな彼の楽しみは廃工場の上を通る、軍の戦闘機や輸送機を昼も夜も眺めて目で追う事でした。

目の良さは昼間の僅かに見える星を、肉眼で観察する事で養われました。

ヤストレブは『英雄は一朝一夕にしてならず』、を体現する男だと思っています。


彼はまだ6歳の時の夢を見ているのかもしれない。

クレイエルはそんな彼の夢と想いに応え得る人物でした。


多分……ヤストレブは今まで出て来た登場人物の中で、一番努力と創意工夫を重ねているかもしれない。

無限の努力と創意工夫で勝利を掴み取って来た兵士や労働者達の、【英雄】たるに一番相応しい男です。

お姉さんは【英雄】というには些か洗練され過ぎている気がする。

というか、この二人では【英雄】の意味合いは大分違って来る。


モスクワの大通りには、彼の電子ポスターや巨大プロバガンダ広告が設置されています。

戦勝パレードでは最先頭を行進する、という栄誉に預かっています。

21世紀に蘇った、イリヤー・ムーロメツとしてヤストレブの人気は高まっています。

旭川の戦いで彼の機体が現れた時、兵士達が狂喜乱舞したのはそういう事です。


CMや動画配信にも引っ張りだこです。

ヤストレブが戦果を挙げる度、国営放送でニュースが流れるレベルと化しています。

直近の一番の戦果はNATOの機甲旅団と歩兵・砲兵旅団を壊滅させた後、【降下機甲猟兵大隊】を撃退した事です。


彼は貧しき少年少女達の希望にもなっています。

どんなに打ちのめされても、また立ち上がって来る……そういう存在の象徴としても。

彼の人生というストーリーこそが、人々に活力を与えています。


無論、西側では戦犯指定を食らっています。

彼に一杯食わされたヴェルチカがブチ切れながら、オランダ(・・・・)にある国際軍事裁判所へ提訴したの原因です。


その後、彼に判決が超スピードで下っています。

まぁあんまり意味ないけど。

ヴェルチカはこういう形而上の復讐をしまくる女なんです。

陰キャレベルがイチカより200くらいは上です。


因みに、ヴェルチカは匿名掲示板(4chみたいな場所)の住人でもあります。

気に入らないスレッドは手動で荒らしまくって潰すタイプの狂人です。

流石はアーデルハイドの部下だぜ。ある意味彼女やハルカより人生転落した人。

因みにYでもクソリプを飛ばしまくってます。公式アカウントから。

ただ、その軍才と軍略は本物です。多分ラロシェルでも正面からはやり合えない。


実はマルファお姉さんと同じく、ヤストレブは【大統領】直属の探索者で超法規的権限を与えられています。彼に命令できるのは【あの男】だけなんだ。

なので、お姉さんの言う事を聞かなくても罰は与えられません。

事実上、階級と実力で同僚の彼をコントロールしているだけです。

ヴァヴィロフ、クヴォズジーカ、エレナはマルファの私兵ですが、ヤストレブはそうではありません。


これは【大統領】が二人を同列に扱っている事が背景にある。

それだけは覚えておいて頂けると。

この辺り、日本社会の感覚とは違うので理解しにくいかも。

ロシア社会は権力者や有力者とのコネで、振る舞い方が決まる社会なんだ。

だからその権力者や有力者が失脚したり嫌われたりすると、とんでもない災厄が振り掛かって来る。


ヤストレブはお姉さんの潜在的な政治的ライバルかもしれません。

気付いていないのは本人だけです。この状況はヤベェ。

軍も彼の人気の巨大さを扱い兼ね、国外に軍事顧問として飛ばしたりしています。

そして異常な戦果を即挙げて即帰国までがセットです。


何だかんだ言って、皆結構何らかの才能がある。

しかし、ヤストレブと高っちゃんには本当に何も無かった。

ゼロやマイナスからここまで辿り着いて来た。


狂気染みた努力と鍛錬と想いは、凡人だったハズの人間を途轍もない高みに引き上げる。

それが今回のテーマです。

そして、作品の一つのテーマでもあります。


血の滲む様な努力で得たモノは決して失われない。

マルファお姉さんがエレナに一番学んで欲しい事でもあります。

それが伝わらな過ぎて心にもない事を言うまでが、ワンセットです。

そういうとんでもなく不器用な所があるのは、イチカと似ている気がします。


フェルゼンやヨハン、ラインバウト、モントヴァン、クエイド、エスティア、四十万、上杉、ヴェルミーナ、ヴィットマン、ヴェルチカ、ジュビア、ティエラ、ユルゲンなんかは元々天才級の人間が、更に努力を重ねちゃってる感じです。

リヴァ、ラロシェル、ベルナルド、クレイエルに至ってはもう『そういう生き物』です。

彼等彼女等に比べたら、ヤストレブと高っちゃんは本当に泥臭い。


そういうのを考えると、イチカはまだまだ甘いなーという印象。

ハルカやレイカも。

ただ、アイカは子供時代から裏でかなりの努力をして来ました。

凄惨な努力を。


にしても……

お姉さんマジで強い。これがお姉さんのコンバットサンボです。

レナちゃんのが完全にお遊戯レベルに見えて来る。


お姉さんは能力だけじゃなくて、体術も強過ぎる。

おまけに剣も使えるし。

というか、格闘技術が戦闘用に完成され過ぎてる。

付け入る場所がメンタルの揺らぎしかない。


ああもう、そんな女に正面から立ち向かうレイやんがマジでカッコ良すぎる。

過去最高にカッコ良い。

乙女回路がギュンギュンや。


もう最高だよ。


登場人物シートを更新しました:

https://docs.google.com/spreadsheets/d/18yCj9B-CZEpJGIDICTLBSG4K3ASfzvPI7MeKN9sNjkY/edit?usp=sharing


以上、長い長い後書きは終わりや。

次回は死神の王子様のお迎えやで。

そして、お迎えを妨害するのはあの変態とミサイルロケット少女や。


「面白かった」「次回も期待している」「ダンジョンこわれた」

「レイやんがカッコ良すぎで女の子になっちゃう」「やっぱりハルカとレイカの関係性良い……」

「お姉さんの蹴り滅茶苦茶痛そう」「お姉さん、完全にアイテムの意思に呑まれてる気がする」

「高っちゃん凄すぎてもう筋肉震える」「高っちゃんと完全に意思疎通してるのは流石」

「ヤストレブが真っ直ぐなヤツ過ぎてヤバい」「マジモンの英雄じゃん、コイツ……」「今回もマジでアツいぜ!」「終わり方が清々しい……」

「パゥワーーーーーーーァ!!!!」


と、どれか1つでも思って頂けたら、ブクマ・評価・感想頂けると励みになります。

宜しくお願い致します。

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