4 言っちゃいけないノート
-16:30分ー
尚は家についた。家には誰もいない。尚の家庭は母子家庭であり、尚と素の2人暮らしである。
尚はかばんを自分の部屋に適当に置き、靴下を脱いだ。
しばしの昼寝、尚の日課だ。
1時間ほど寝て夕飯の準備に取り掛かる。といっても米を炊いて、味噌汁を作るだけである。
おかずは素が作ってくれる。
ちゃちゃっとそれらを済ませ、自室に戻りパソコンを立ち上げる。
キューロのサイトを開き、カーディガンを予約しておく。
これで万が一土曜日に売り切れていても大丈夫だ。
パソコンを閉じ、近くにあった生物図鑑にい手を伸ばす。今日授業で行われた胚の発生。
その辺をパラパラ見ながら過ごしていると、素が帰ってきた。
ガサガサと袋をあさるような音と共に、台所からせわしない音が響いてくる。
しばらくすると、揚げ物のいい香りが漂ってきて、今日はから揚げか!と尚はうれしくなる。
「尚、ご飯できたよ」
「はーい、今行く」
ダイニングに行く前に洗面所で手を洗い、食卓につく。案の定から揚げであった。
「いただきます」
尚は一口、やや小ぶりなから揚げをたいらげる。
おいしい、また箸が伸びる。素は中学校の給食センターで働いており、料理の腕は抜群である。
「尚、テレビのリモコン取って」
「えーやだよ、自分でとってよ」
尚は抵抗して見せたが、素が
「あんたいつもそうやって・」
と小言が始まりそうだったので、
「わかった、わかったから」といいリビングの、こたつ布団をとってあるこたつ机からリモコンを取り、素に渡す。
「んー、なんもおもしろいのやってないなー」
そういいながら素は、チャンネルをぱっぱっぱと変える。尚は素のこの癖があまり好きではない。
チャンネル表見ればいいじゃん、そういつも思っている。
「あ、ニュースやってる、これにしよ」
19:00時からでもやっている国営放送のニュースである。
尚もぼーっと見ながら、箸を進めていたのだが次のニュースで箸が止まった。
「次のニュースをお伝えします。本日午後15:50分頃、寝たきりの母がいなくなっていると通報を受けた警察官がその家をおとずれたところ、世田谷区成城在住の無職、佐々木照子さん(84)がいなくなっていることが分かりました。通報者の佐々木雄二さん(61)によると、照子さんは筋萎縮性側索硬化症を患っており自力で動くことはできないということです。警察は誘拐事件も視野に入れ、事件、事故両方の可能性から捜査しています。」
「佐々木さんて、お母さんが配食にいく学校の校長先生じゃなかったっけ?」
「そうねぇ、何度かあったことがあるけど、お母さん寝たきりだったのね。心配だわ、何か事件に巻き込まれてなければいいけど」
「うん、そうだね。でも筋萎縮性側索硬化症は筋力が衰えて、最終的に呼吸器まで侵す病気なの。ねたきりだったてことは、とても自力動ける状態じゃないから何か事件に巻き込まれている可能性が高いよ」
「尚、たとえそうだとしてもそういう事あんまり人前で言うのはよしなよ」
「あっ、ごめんなさい。私また・・」
「いいのよ尚。これも言っちゃいけないことノートに書いておきなさい」
尚は思ったことがすぐに口から出てしまう。そのため小さい頃より言っちゃいけないノートというものを作り、人を怒らせてしまったとき、傷つけてしまったときにそのノートに書くようにしている。
母に怒られ少ししゅんとするが、この事件、尚には何か引っかかった。
動物的な直感、第六感のようなもの。
しかしこのときはそこまで気に留めず、むしろ言っちゃいけないノートに「人の心配を煽るようなことは言っちゃいけない」ということを書くということで頭がいっぱいであった。