3 お昼休み、カーディガンとお弁当
‐お昼休み‐
「尚、ご飯食べよ。」
恵里が言ったので、尚は恵里の机に自分の机をくっつけ弁当箱を取り出す。
「あはは!尚のカバンの中はほんといつもぐちゃぐちゃだね。」
恵里は笑う。
「そうなの、片付けようとは思ってもどれからやればいいか分かんなくて手につかなくて。」
「尚は飽きっぽいからね。でも成績は優秀だからすごいけど」
尚と恵里はそんな雑談を繰り返しながら、弁当を少しづつ空にしていく。
「てか尚、ほんとそのカーデいいね。私もほしいわ~。」
恵里がうらやましそうに尚のカーディガンを見つめる。
「うん、おかあさんと一緒にキュールに行ったらこれがあって。かわいいなぁって思って買ったの。」
「うん、いいじゃん。私もほしいから今度一緒に行こうよ。」
「分かった。駅前のキュールにまだ売ってるよ。」
「決まり!じゃ、今週の土曜に買いに行くとかどう?」
「うん、いいよ」
尚と恵里は約束をし、今週末の土曜日に買い物に行くことになった。
尚は内心少し焦っていた。尚はこういう予定を立てて行動する約束事があまり好きではなかったからだ。
尚はよく遅刻をするのだ。決して寝坊などではない。時間に間に合うよう十分余裕を見越して行動する。
しかし、なにかひとつ、たったひとつやらなければならないタスクが出来たとき、尚はそれに神経が集中してしまい待ち合わせなどに遅れるのだ。
よくあるパターンとして恵里と待ち合わせして出かけるとき、鍵がないや財布がないなどで大慌てするのだ。
普段の尚ならばぐちゃぐちゃの部屋でも自分が何をどこに置いたか、ゆっくり考えて思い出せる。
しかし、そこに待ち合わせに遅れてはいけないというファクターが尚を混乱させ今朝のように、ばたばた探すというのがパターンになっている。
恵里もそのことを知ってか、土曜日に行こうねと約束はしたが時間は指定しない。尚がすべての準備を終え待ち合わせ場所についた時点で尚が連絡し、恵里が向かうのだ。
場所によっては尚が1時間近く待つこともあるのだが、尚も了解の上である。
ずっと恵里に迷惑をかけてきたからこその尚と恵里の妥協点なのだ。
尚もこの性格を何度も直そうと試みている。
母や友達に何か病気ではないか、障害なのではないかと疑われたことは多々ある。
実際何回も心療内科や精神科、心理カウンセラーのもとに連れて行かれたことがある。
しかしそこで得られる結果はあくまで発達障害の疑いがある、というあいまいなものばかりであった。
実はそれは尚が障害と判定されぬよう、細心の注意を払っていたからである。
幼い頃より生物学が大好きな尚であったが、それ以外にも様々な分野に興味を持った。化学、数学、物理、はては心理学まで。
尚は直感的に自覚していたのだ。
もし自分が障害者と認定されれば、友達は離れていくだろうということを。
そのため尚は、心療内科やカウンセラーの行う質問の意図を自分が得た知識と推測で考え、最善の答えを述べた。
結果、尚はどこの病院、施設でも発達障害と断定されることはなかった。
・・・弁当は空になり、二人は他愛もない雑談に興じ昼休みを終え残りの授業を睡眠学習で過ごし帰路についた。




