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あさぎに揺れて―幕末男子の愛が重すぎます【新選組 沖田総司✕タイムスリップ小説】―疼くようなときめきを、甘くて重い幕末からお届けします  作者: 雪城 冴 @新選組小説 連載中
二章 朱い糸(八月十八日の政変)

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8_その顔わざとなの?

 他の志士も不審げな視線を向け始め、座敷の空気が張りつめる。一番酔った様子の志士が、にやりと笑って葵の腰に手を伸ばしてきた。

 

「ふん、綺麗な姐さんだ。腰を抱かせてくれよ……本当のことを吐くまで、な」

 

 葵は、左袖に手をかけた。

 そのとき、桂小五郎が静かに立ち上がり、志士の腕を掴んだ。

 

「無粋をするな」

 

 志士たちは桂の威厳に押され、渋々手を引いた。桂は葵に視線を戻し、優しく頷く。

 

「申し訳ない。皆、酒が入って気が立ってるんだ」

 

 葵はホッとして息を吐き、桂の助けに感謝の言葉を返す。


 

 場の空気は取り繕われ、再び議論に熱を帯びてきた。葵は胸をなでおろしつつ、彼らの話に耳を立てる。


 内心複雑だった。

(言ってることは過激だけど、この人たちも日本の将来のことを真剣に考えてるんだなぁ……)

 これまでただの敵とばかり思ってきた長州志士。彼らにも信じる正義があるのだ。

 

 桂の横顔をチラリと見ると、「今夜はこれまで」と静かに微笑む。葵は名残惜しく退室を申し出る。


 部屋を出る直前、桂が「(あお)殿」と名を呼び、低い声で続ける。

「花は折られるものだ。……渡る橋は選ぶがよい」

 

 どこまで見通されているのだろう。

 桂の思慮深い目――その奥にあったのは静かな(ほむら)

 色や温度は人それぞれだが、幕末の男達はふとした時に、皆この目をする。


 きっと、葵は焔を目に宿すことはないのだろう。それは、生まれた時代の違いなのか性別の違いなのか――

 

 静かに頭を下げ、葵は部屋を出た。



 外に出ると、夜の祇園の路地は冷たい風が吹いていた。

 葵は合流ポイントの鴨川沿いへ向かう。


 影から現れたのは、変装した沖田だった。縞模様の羽織を着て、手には扇子。遊び人風らしい。


 沖田は葵を見つけると、はっとしたように目を見開く。

 彼の手から扇子が滑り落ち、その音が鳴るより早く、葵はあたたかい腕に包まれていた。


――以前も抱かれた腕

 

「あの……」

 葵を力の限り抱きしめているのは、藤堂だった。

 

「碧さん、無事でなによりだよ!」

 藤堂は葵の肩に顔を埋めていて、髪が当たってくすぐったい。


(藤堂さんって、本当に人懐っこいな)

 だからといって、男性からの抱擁に慣れるわけでもなく。

 控えめに肩を押すと、横から沖田が、拾った扇子で藤堂を小突く。


「いたっ……」


「とりあえずここを離れよう」


 闇夜を急ぐ三人。


 前にいた藤堂が、後ろの沖田に話しかける。

 

「あおい君の芸妓姿いいよね。土方さんなんて、熱っぽく手握ってたもん」


「へぇ。土方さんがね。あの人好きそうだもんな、こういうの」

 沖田が弄んでいる扇子は、反り返り形を歪めている。

 

「あれ、沖田はどうなの?」

 

 聞かれて沖田は、横にいる葵を見た。扇子がぱちんと閉じる。

 

「ちょっと、白すぎるかな」


 その言いように、葵は素直に傷ついた。


(土方さんに褒められなくても、なんとも思わなかったのに――)

 

 沖田の隣から抜けようと足を速めた。

 おこぼのこぽっこぽっという音が夜道に響く。


 揺れる藍地の振袖を、沖田は引いた。

「急ぐと危ないよ」


 立ち止まった葵は、ふいと顔を横へ背ける。

 

「……大丈夫です」


 伸びた首すじに、吸い付くように沖田の指が触れた。

 驚いて彼を見ると、深い湖のような目に魅せられて――動けない。

 

 葵の喉に沖田の筋くれだった指が触れる。

 細い喉仏がひくっと鳴り、半開きの紅い唇から吐息が(こぼ)れた。

 

 沖田は目を細めて、

「その顔、わざとなの?」


「え……」


 指がゆっくり、鎖骨の窪みまでなぞり落ちる。

「薄くて、月明かりに透けそうで――ぞっとする」 

 柔らかい声に指。なのに、全てが葵を絡め取って離さない。


 力はちっとも入ってないのにどこか痛くて、葵の瞳がわずかに潤む。

 

 沖田は顔を歪めた。

「ごめ――」


「おい」 

 言いかけた沖田の手を掴んだ背の高い男――斎藤一を見て、沖田は喉の奥で舌打ちした。


「何、土方さんに言われてきたの?」


 斎藤は頷き、葵を見た。


「噂の芸妓でも拝んでおこうと来てみれば、沖田、ずいぶんご執心だな」


 沖田は斎藤の手をぞんざいに振り払う。


「放っておいてくれる?」


「乱れは、剣に出るぞ」


「上等」


 互いに睨み合う二人。

 彼らにすっかり気圧された葵は、まだうるさい胸を押さえ、落ち着こうと斎藤を見上げた。

 

(この人が、斎藤一……左利き、高身長、クール。うん、イメージ通り……)


 じろじろ自分を見てくる葵を、斎藤は居心地が悪そうに見下ろす。


「副長に聞いた。怖いもの知らずなようだが、命は使い所までとっておくんだな」


「……?」


「散らす場所を選べということだ」


 よく分からないが、とりあえず葵は頷いた。

 

「おーい、皆、行くよー」

 

 少し離れた場所で、藤堂が手を振っていた。



 ◇

 

「よくやった」

 話を聞いた土方は、声が上ずっていた。


 葵が今回仕入れた話は、

 天皇を大和(やまと)(今の奈良県)へ連れ出し、その名で攘夷(じょうい)(外国を追い払う)を進めようという計画だった。

 これが実行されれば、浪士組がいる会津、徳川幕府の弱体化は避けられない。


「会津様に急ぎ伝える」


 土方の目にも、きっと、あの焔が燃えている。

 きっと、というのは、葵は土方の目が見られなかったからだ。

 

 葵は桂小五郎が場にいたことを、浪士組の誰にも言わなかった。

 長州志士の頭脳である桂がいたと報告すれば、葵の報告は信憑性を増しただろう。


 だけど、見逃してくれたことを思うと、言えなかった。

 それで桂にお返しになるとは思わなかったが――


 葵は何も目に入れないように、まぶたを閉じる。その横顔を、沖田は黙って見ていた。



 ◇


 

新選組も、当時は「尊王攘夷」の思想を持った人たちが多かったのですが、この頃の「攘夷派」という言葉は、特に過激に動いていた志士たちを指すニュアンスが強く……


物語の中では、葵の視点でそんな時代背景も少しずつお伝えできればと思います♪

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