表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
あさぎに揺れて―零れ恋【新選組沖田総司✕タイムスリップ】〜幕末男子の愛が重すぎます〜  作者: 雪城 冴


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

7/14

お風呂とお布団

「ちょっと待ってて」

 そう言い残して、沖田は出て行ってしまった。


 葵は藤堂にもらった蒼井直清の手荷物を、端に置いた。

 

 ここは部屋というより、本当に最低限の間借りスペースと言ったほうがいいかもしれない。それでも一応襖と障子で区切られてはいた。


(男の人と二人部屋……いやいや)


 邪な考えをしたようで、頭を振る。

 

 凜として大人っぽい容姿の葵は、現代では『剣術小町』『美剣士』と呼ばれ、本人の知らないところで、高嶺の花扱いされていた。


 葵は剣道一筋ではあったが、色恋に興味がないわけではなく、

 むしろ18歳までろくに男子と付き合ったことのない自分に、コンプレックスさえ抱いていた。


 そんな彼女にとって、この狭い部屋で沖田と寝るというのは異常事態。


 

(大部屋で男性と雑魚寝するよりいいよね……)

 そう、自分に言い聞かせる。

 

 しばらくすると、盆を手に沖田が戻ってきた。もう残り物しかなかったけど、と言い簡単に食事を済ませる。


 葵は箸が進まず、なかなか食事が喉を通らない。


 そんな葵を心配そうに見ていた沖田が、

「蒼井さん風呂入る?」


「……あるんですか?」


「うん、ここ出て廊下を……」

 場所を説明しながら、沖田は結局ついてきてくれる。


(優しいな……)

 

 と、思ったが脱衣場まで一緒なことに気づき。


(もしかして、このまま一緒に入るの!?)


 葵は赤い顔を見られないように、沖田の背中を押した。


「あ、あの! 私、身体に見られたくない傷があって……なので、お風呂やっぱりいいです!!」


 沖田は肩越しにちらっと葵を見る。

 

(苦しい言い訳だったかな……)


 心臓をばくばくいわせたまま待っていると、


「うん、そうしたら一人で入ったら? 内鍵もあるし。じゃあまた」


 沖田はあっさり引き返してくれたので、葵は安堵した。

 

(はー、生き返った)

 お湯で、嫌なことも少しは流れた気がした。


 戻ると布団が敷かれてあり、葵は頭を下げた。


「すみません、私がやらなきゃいけないのに」


「別にいいよ。寝ようか」

 と、いきなり沖田が袴の紐を解き出す。


(えぇぇ……!)

 目を手で覆いたかったが、とりあえず下を向いて布団を見つめる。その間しゅるしゅると紐を解く音がしている。


(ん? 袴を着たまま寝る方がおかしいのか。皺だらけになっちゃうもんね……)


よく考えれば、彼が袴を脱いだ所で下には着物を着ているわけで、恥ずかしがる方が恥ずかしいのだ。 


「脱がないの?」

 

 予想していた通り、沖田に指摘される。


「あ、はい。このままで……」


 おかしいのはわかっていたが、葵は袴は脱ぎたくなかった。

 今着ている蒼井直清の、夏用の(ひとえ)は薄い着物だ。

 下に肌着は着るが、合わさる部分を止めるものは男用の細帯だけ。


(もしも寝ている間に、合わせがはだけたら……)

 せっかく風呂に入ったのに冷や汗が出る。


 袴を握りしめたままでいる葵に、小さな声が――

「ふぅん。残念」


(え、残念――?)


 ばっ、と沖田を見るが、彼は袴をきちんと畳んでいる最中で、葵のことは見ていない。



(聞き間違いか……沖田さん別に人に興味なさそうだもんね。よかった)


 葵の方でそんな失礼なことを考えているとは知らず、沖田は刀を枕元に置くと、


「布団いいよ」

 と言って座布団を丸めて畳に横になり始めた。


「えぇ! 私が畳で寝ます」


 剣道部では上下関係が厳しい。1年生の頃は先輩の荷物を持ったり、広い体育館の雑巾がけをやるのも当たり前だった。

 それが感覚として染み付いている葵は、副長助勤の沖田を差し置いて、自分が布団で眠るなんてとんでもなかった。

  五回ほど寝る場所の交換を申し出たが、沖田は葵の頭を撫でた。

 

「疲れてるでしょ。布団は明日買いに行けば済むんだから」


 一々距離が近い沖田に、葵が上目遣いで見つめると、彼は一瞬止まって視線を逸らす。


「ほら行灯(あんどん)の火を消して」

  

「……はい」

 葵は仕方なく、沖田の声に返事をして、そろりと行灯(あんどん)まで寄ってみた。

 

(なにこれ、どうやって火を消すの……)

 目の前には、障子でできた四角い細長い箱。上からのぞき込むと、中に火が揺らめいている。



「やろうか」

 気付けば隣に沖田がいた。

 彼が取っ手をそっと上に引き上げると、一面がすっと開けた。

 中にある芯のような部分についた火を、沖田は指で摘む。じゅっという短い音ともに部屋は暗闇になった。

 

 あるのは障子から差し込む、わずかな月明かりだけ。

 もう、すぐ近くにいる沖田の表情も見えなかった。


「寝よう」


「はい」


 結局沖田は頑として畳で寝ると譲らないので、葵が布団に寝ることになった。 



(お父さん、大丈夫かな……。お母さんいないのに、私までいなくなったら……)

 熱くなった目頭を指で揉む。 


(ううん、お父さんには恵さんがいるもん……)

 自分の居場所なんてどこにもないのかも知れない。



 色々ありすぎて考える暇もなかったが、葵は今どういう状態なのだろう。タイムスリップなら、葵はいきなり現代から消えたということになる。


 (駄目だ、泣いちゃ駄目……。とりあえず様子を見て、帰る方法を探すんだから)


 夜に暗い考え事をしても、ろくなことにならない。


(前向きに、男としてやっていく方法を考えよう……)


 下にしていた左腕の痺れが限界になり、息を詰めて、そおっと向きを変えた。


 沖田の背中がぼんやり見えた。

 葵は、沖田と腕力にそこまで差は感じなかった。組紐のおかげだろう。

 しかしこうして見ると、彼の背中は広く、葵とは全然違っていた。



(背丈だけなら、私だって屯所の男性に負けないくらいあったけどな)


 葵は、また余計なことを考えかけている自分に気づいて、枕に顔を埋めた。


(男性って、筋肉量が女性の1.5倍くらいあるんだっけ……トレーニングしたらどれくらい追いつけるのかな……)

 

 土方(ひじかた)に大見得を切ってしまった以上、壬生浪士組で実績も上げなければならない。

 

 まるで羊を数えるように、男性に見せかけるためのコツを思案する。

(えーっと、声は低く、……あぐらで、座る……泣かない、あと……あ、……と――)

 

 眠れるはずないと思っていたのに、深い疲労に強制的に意識を持っていかれ、葵は気絶するように眠りに落ちた。

 

 

 

このころの屯所、八木邸は壬生村きっての旧家さんで、今でも見学できるみたいですね。

このころの浪士組は余裕もなく、実際は幹部と言えど雑魚寝だったようです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ