表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
あさぎに揺れて―幕末男子の愛が重すぎます【新選組 沖田総司✕タイムスリップ小説】―疼くようなときめきを、甘くて重い幕末からお届けします  作者: 雪城 冴 @新選組小説 連載中
三章 復讐の煉火

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

29/29

閑話_たまご

※楠さんは、沖田さんの一番弟子を自称している美男五人衆の一人。葵を目の敵にしています。(という小説上の設定です)

 

 ◇


「たまごあってよかった」

 

 一個だけなら余っていると言われ、お給金で買ってきた。

 どうしても譲ってほしいと言ったら、ふっかけられ30(もん)もとられてしまった。

 

「30文もあれば、かけそば2杯は食べられたな……倍近く取られちゃった」


 葵の月給は大体1両前後+臨時ボーナス。

 衣食住は新選組で(まかな)ってもらえるし、庶民にしたらそこそこいい給料だ。

 

 たまごだけなら少なくとも200個は買える。

 ただし、お金があっても、買えるとは限らない。今日も散々足を使ってやっと一個手に入った。ここではたまごは希少品だ。 



「沖田さん何なら食べるかな? ゆで卵? 卵焼き? かきたま汁? どうしようかな〜」


 嬉しすぎて全部口に出しながら歩く葵は、

 手ぬぐいにたまご1個を包んで、しっかり胸の前で持ち、自然と笑顔になっていた。


 しかし、屯所に入った所で、(くすのき)とぶつかってしまった。


「あっ――」


 思い切り伸ばした手も届かず、手ぬぐいは地に落ちた。

 パリッという音がして、白身と黄身がぐしゃっと流れ出ていく。


「嘘……」


 呆然とする葵と、たまごの悲惨な姿に、楠は焦って弁明する。


「と、飛び出してきたのはそちらですよっ……」


 と言いながら彼は顔色が悪い。たまごの貴重さはよくわかっているのだろう。 

 葵は絶望のあまり、ふるふる震えていた。


(……わざとじゃないってわかってる……でも……)


「謝ってくれてもいいじゃないですか……走ってきたのは楠さんですっ」


「う……いや、そうですが」


「せっかく沖田さんに食べてもらおうと思ったのに……」


 申し訳なさそうにしていた楠の顔が、急に冷えていく。


「へえ、先生に? それなら話は別です。僕、絶対謝りませんから。

大体貴方、ちょっと顔がいいからって図に乗ってません? 元祖美男は僕ですよ」


 目の敵にしている割には、葵の容姿はライバルとして認めるらしい。

 葵はため息をつく。

 

(ってか、元祖美男ってなによ……もういいや……)


「何をしている」

 不意の鋭い睨みに、楠がぎくっと固まった。斎藤と永倉が立っている。

 

 永倉新八は、がむしゃらな新八で『ガムシン』と呼ばれるほど熱血で正義感が強い。沖田と一二の腕を争い、斎藤とともに明治まで生き抜くメンバーだ。


 

 あまりに楠が怯えた顔をしているので、葵はさっと手ぬぐいを隠した。


「ぶつかってしまって。それだけです。ね、楠さん」

  

「……恩を売ったなんて思わないでくださいねっ!」


 捨て台詞を吐いて楠はいなくなってしまった。

 永倉が葵の後ろにある、たまごに濡れた手ぬぐいを見る。


「ありゃ、もったいねえな。割れちまったのか」

 

「楠か?」

 斎藤が右手で、(さや)の口元をかちゃっと浮かせる。

 

 さーっと顔色を変える葵は、手を大きく振った。

「違います!」


 永倉はじっと葵の目を見て、赤く濡れた跡に気づくと、眉を寄せる。

 

「……たまご好きなのか?」


「はい」

 小さく頷く葵の頭を、永倉は豪快にわしわし撫でる。 

「よし、俺が持ってきてやる!」


 斎藤も頷き、いつの間にか加わっていた藤堂まで「任せて」と張り切っている。


「けど、たまごなんてそう簡単には……」


 言い終える前に三人は風を切って走り出していた。






 

――【1時間後】――

  

 仕方なく葵は雑用を終えて、部屋に戻ろうとしていた。

 

 するとさっきの三人が戻ってきた。


 永倉がハアハア言いながら裸のままのたまごを突き出す。


「ちぃっ、一番乗りだと思ったが三人同時かよ……ほれ、あおいたまごだ」


「あおい君っ、これどうぞ!」

 上品な風呂敷に包まれたたまごを差し出す藤堂は、子犬のようにキラキラした目で葵を見つめる。


「……やる」

 短く言葉を切って、左手をにゅっと伸ばすのは斎藤だ。


 葵は目をまん丸くした。


「すごい! まだ一時間しか経ってないのに……どうやって手に入れたんです?」


 三人は微妙な顔をする。

 実は、

 永倉は馴染みの遊女の伝で――

 藤堂は農家の女の子を泣き落として――

 斎藤は真顔で頼んだら売人が怖がって――


 という調子に手に入れたのだった。


 永倉が気まずそうに頭を掻く。


「まあいいじゃねえか。これで足りんのか?」


 葵は花が咲いたように笑った。

「はいっ! ありがとうございました!」


 ほわんっと温かい空気が流れ

 三人はそわそわし出した。


「お金を……」

 葵が巾着を取り出すと、斎藤が「いらん」と一言。

 永倉も「おう、かわいい新入りから取れねえよ」と同意する。


「あおい君が笑顔でいてくれればいいよ。皆そのために走ったんだから」

 藤堂が誇らしげに胸を張る。


 葵はうーんと考える。


(沖田さんに食べさせてあげたかったけど……ただでもらったたまごを横流しするのも……)


「そうしたら、卵料理にするので、皆で食べますか?」


 三人は顔を見合わせて、まんざらでもない……いや、喜びを隠しきれずに頷いた。


「じゃあ、ちょっと調理道具取ってきます」


 くるりと背を向けると、楠がいた。

 彼は放り投げるように葵に何か渡してくる。不思議に思ってもらったものを見たら、たまごだった。

 

「僕はお代もらいますよ。沖田先生には、僕が苦労して探し歩いたたまごだって、ちゃんと伝えてくださいね」


(なんだ、悪いと思ってくれてたんだ……)


 葵はおかしくなってくすくす笑った。


「はい、ちゃんと伝えますね」


 楠は葵の笑顔を見たまま突っ立っていたが、じきにぷんっと顔を背けた。


「仕方がないので、美男五人衆の六人目として認めてあげますよ」 


「え、結構です」


「っ……可愛くない人ですね」


「……? はい、楠さんは誰が見てもかわいい顔してますもんね。うらやましいですよ。では、急ぐので」


 背を向ける葵に、楠はぼそっと「人たらし……」と呟くのだった。



(おわり)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ